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Interpreter of Maladies』(Jhumpa Lahiri

読書会「かんあおい」20192月の課題図書(担当はnishina)。

本書については201754日にブログにアップしており(こちら→)、その時点で再読だったので、今回は再々読となる。前回ブログにアップしたときは『停電の夜に』『ピルザダさんが食事に来たころ』『病気の通訳』(本書の原タイトル)について書いているので、今回はその他の作品をとりあげる。

*本物の門番――4階建てアパートの階段掃除人のブーリー・マー(64歳)。入り口の郵便受けの下で雨露をしのがせてもらえるのと引き替えに、折れ曲がる階段を塵一つなく清めていた。日に2回は階段を掃きながら、ブーリー・マーは三次元の厚味のある声で、インド・パキスタン分離のあとカルカッタまで流れてきて以来の恨みつらみを述べ立てるのだった。舞台はインド。

*セクシー――職場で席を並べるラクシュミとミランダ。ラクシュミが電話で従姉妹(パンジャブ人)を慰めている。従姉妹の夫(ベンガル人)が愛人を作って家に帰ってこないのだ。その話を聞いているミランダ自身も愛人の立場にある。妻子のある男性(ベンガル人)と付き合っているのだ。舞台はアメリカ。

*セン夫人の家――エリオット(11歳)と母が、新しいベビーシッターのセン夫人(30がらみ)の許を訪れる。セン夫人はうっすらと顎に痘痕があったが、きれいな目をしていて、身にまとうのはオレンジ色のペーズリー模様のサリーだった。夜会かなにかに着ていくような、とエリオットは思ったが、それでもお母さんの、ショートパンツにすべり止めの靴のほうがおかしな恰好に見えた。話の途中でインドという言葉が出ると、セン夫人はサリーの胸元を整えて部屋を見回した。ランプシェードやカーペットの陰影に、ほかの者にはわからない何かを見ていたのでもあろうか。「みんな、あっちです」。舞台はアメリカ。

*神の恵みの家――トゥンクル(妻)とサンジーヴ(夫)が転居してきた家には、キリスト関係の品々がたくさん残されていた。夫は「うちはヒンドゥー教なのだから処分すべきだ」と考えるが、妻のほうは「こういう物を捨てるのは冒涜だ」と言う。舞台はアメリカ。

*ビビ・ハルダーの治療――「生まれてから29年の大半を、ビビ・ハルダーは病みついて過ごし、その奇病には、家族も友人も、僧侶も、手相見も、行かず後家も、宝石療法士も、預言者も、ただ首をひねるばかりだった」という文で始まる現代の民話のような話。舞台はインド。

*三度目で最後の大陸――語り手の男性は1964年にインドを離れ、船でイギリスに渡り、ロンドン大で学んだ。1969年、36歳でマサチュセッツ工科大の図書館に職を得て、アメリカに渡ることになり、その前にカルカッタで結婚式を挙げた。妻のパスポートとアメリカ滞在許可が出るのを待つ間の6週間、103歳という高齢で気むずかしいミセス・クロフトの下宿に滞在した。妻を紹介したとき、彼女は妻を念入りに検分してから言った。「完璧。いい人を見つけたね」。それを聞いて、それまでぎこちなかった語り手と妻は、初めて見つめ合い、笑顔になったのだった。舞台はアメリカ。

2019.2.27読了)


by nishinayuu | 2019-05-16 09:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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読書会「かんあおい」20189月の課題図書。

本書は6つの作品からなる短編集で、各作品の初出はいずれも『小説すばる』。




*『海の見える理髪店』――理髪店主が客を相手に「声に出して語る」部分と、客である男性が心の中で繰り広げる「声を出さずに語る」部分からなる。理髪の細かい手順を踏みながら自分の半生を語り続ける店主。その細かい手順と私事をさらけ出す語りのひとつひとつに集中する客。海の見える爽やかな理髪店がしだいに濃密な緊張感に充たされていく。(表題作だけあって集中で最も印象的な作品。)

*『いつか来た道』――アラフォーの杏子が16年ぶりに昔住んでいた家を訪ねる。農村地帯にそぐわない洋風の建物だったその家は廃屋のようになっていた。そしてそこにはプライドの高い画家だった母親の逸子が、今でも絵を描いているという幻想のなかで朽ちていきつつあった。

*『遠くから来た手紙』――家のことを顧みない夫と、その反対に家のことに口を出してくる姑。そんな日常に嫌気がさして、衝動的に家出して実家に飛び転がり込んだ祥子。夫の孝之が慌てて迎えに来ることを期待するが、スマートフォンに堅苦しいメールが入ってくるだけ。ところどころ黒塗りの四角になっているのは文字化け?と思ったが、それはなんと若き日の祖父が祖母に宛てて書いた軍事郵便だった。

*『空は今日もスカイ』――離婚した母といっしょに小母さんの家にパラサイトしている茜。前に住んでいた街には海があった、そうだ海を見に行こう、と思いついて家出する。途中でであった男の子のフォレストは虐待されている子どもで、二人を一晩泊めてくれたビッグマンはホームレスで。(ストーリーと茜の英語熱がちぐはぐ。)

*『時のない時計』――語り手は父の形見の腕時計を修理してもらおうと、商店街の外れ近くにある時計屋『鈴宝道』へ。古めかしいその店と同様に古めかしい主は、語り手の持ってきた時計を見て「お」とも「う」ともつかない嘆声を上げる。(時計に関する蘊蓄がいっぱい。わが家にとっても思いで深い鳩時計も出てくる。)

*『成人式』――5年前に15歳だった一人娘を亡くした夫婦のもとに、成人式用の振り袖を売り込むダイレクトメールが送られてくる。喪失感の中で互いの痛みに目を背けるようにして生きてきた夫婦は、「いっそ成人式に出てみよう」と思いつく。娘のことを忘れてしまったらしい娘の友人たちへ当てつけるかのように。(荒唐無稽ななりゆきにとまどう。)

こうしてみていくと最初の作品が最高で、少しずつ面白みが減っていく感じの短編集でした。(2018.9.4読了)


by nishinayuu | 2018-12-17 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


c0077412_09212309.jpg本書は20083月~20105月に集英社の文芸誌『すばる』に掲載されたものをまとめたもの。読書会「かんあおい」201711月の課題図書として『ロスチャイルドのヴァイオリン』を選定したnishinaは、近所の図書館からかき集めてきた5冊のうち4冊は会員たちに回し読みしてもらうことにし、沼野充義訳の本書を手許に残した。これが大正解!訳文が滑らかで読みやすいのはもちろんだが、各作品に詳細で興味深い「解説」が付いているので、勉強にもなるし2倍も3倍も楽しめた。

13編の収録作品は、次のように4つのグループに分けられている。

*「女たち」――かわいい/ジーノチカ(憎まれ初め)/いたずら/(ナッちゃん、好きだよ)/中二階のある家(ミシュス、きみはいつまでもどこか手の届かないところにいる)

*子供たち(とわんちゃん一匹)――おきなかぶ(累積する不条理)/ワーニカ(じいちゃんに手紙は届かない)/牡蠣/おでこの白い子犬

*死について――役人の死(アヴァンギャルドの一歩手前)/せつない(ロシアの「トスカ」)/ねむい(残酷な天使)/ロスチャイルドのヴァイオリン(民族的偏見の脱構築)

*愛について――奥さんは子犬を連れて

強く印象に残ったのは「ワーニカ」「せつない」の2作品。どちらも余りにせつなくて泣けてくる。

解説で特に印象に残ったのは次の事項。

*ロシア語では「流れ星」ではなく「落ちる星」という。「中二階」のジェーニャが流れ星を怖がるのは下に落ちてしまうことへの恐怖だと解釈できる。

*チェーホフには呼びかけが多いが、呼びかけはしばしば相手に届かない。ワーニカが出す手紙が絶対に「村のじいちゃん」には届かないように。ミシュスへの呼びかけも、人と人との間に横たわる絶望的に越えがたい深淵を意識した人間の諦めと希望の入り混じった叫びである。

*現代のロシア語辞典には「村のじいちゃんへ」は宛先不明の時におどけていう慣用句として登録されている。

*「トスカ」とは一切何もしたくなくなるような憂鬱、心を締め付けられるような煩悶、すべてを投げ出して消えてしまいたくなるような不安。二葉亭四迷は「ふさぎの虫」と訳しているという。(プッチーニのトスカとは無関係でした!)

*「ロスチャイルドのバイオリン」でチェーホフは、ユダヤ人の特徴とされるものをロシア人に移し、まさにそのことによって民族的偏見の根拠を切り崩すという作業を行っているのである。

*「奥さんは子犬を連れて」についてナボコフは、「ここには引き出すべき道徳も、受けとめるべき主張も存在しない、高貴なものと低俗なものの違いが存在しない、現実的な結末が存在しない」といった特徴を数え上げ、それをすべて肯定的に評価して「かつて書かれた最も偉大な短編小説の一つ」とまで言っているそうだ。ところで訳者はある文学講座の受講者に「この後、アンナとグーロフの関係はどうなるか?続編を構想せよ」という課題を出したことがあるという。(受講生じゃなくてよかった!でも〇〇年前だったら喜んで取り組んだかも。)(2017.10.29読了)


by nishinayuu | 2017-12-30 09:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)


読書会「かんあおい」20175月の課題図書。

著者は1976年生まれ。2012年に「第16回日本ミステリー文学大賞新人賞」を受賞してデビュー。受賞第一作の『絶叫』も各種のミステリー関係のイベントにランキング入りしている。

c0077412_09531294.png本作は構成と人物設定が巧みで、謎解きのおもしろさが充分楽しめるミステリー作品となっているそれと同時に本作は、現代日本の様々な問題点、特に家族による介護の悲惨な実情とその行き着く先の戦慄的状況を予告し、世の覚醒を促す社会派作品でもある。。(ミステリーなのでここでは詳細は伏せておく。) (2017.3.25読了)


by nishinayuu | 2017-06-09 09:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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The Gift of Magi』(O. Henry

読書会「かんあおい」20174月の課題図書。

本書はO・ヘンリーの381の短編から数十編を選んで3冊にまとめた「O・ヘンリー傑作選」の第1集で、16の短編が収録されている。O・ヘンリー作品の舞台は主にニューヨークのハドソン川とイースト川に挟まれたマンハッタン、時代は20世紀初頭である。作品の特徴はどんでん返し(twist ending)と滑稽味で、本題に入る前の前置きがしつこい傾向があるのが難だが、人情味のある温かい作品が多い。特におもしろく読んだ作品は以下の通り。

*二十年後――西部で一旗揚げ、20年後の再会を約束した友人ジミー・ウェルズに会うためにニューヨークにやってきたシルキー・ボブ。お尋ね者のため人目を避けて暗がりに立つ彼に、一人の警官が近づいてきて話しかけ、また去って行く。

*水車のある教会――カンバーランド山地レイクランズ村にある宿屋に毎年秋に現れる上客のエイブラハムさん。昔レイクランズで粉屋をやっていたとき、4歳になったばかりの娘アグライアが行方不明になるという悲しい経験をしている彼は、アグライア銘の小麦を災害地に無料で供給している。また、昔の水車小屋を改装して教会にし、オルガニストや牧師の年俸も出している。一方、アトランタでデパートの店員をしているローズ・チェスターは幼い頃の記憶がなく……。

*緑のドア――ピアノ店の販売員のルドルフ・スタイナーは、ある建物の前で、アフリカ系の男から「緑のドア」とだけ書かれたチラシを渡される。他の通行人の受け取ったチラシには2階の歯科医の宣伝文句がある。スタイナーが2階を通過して3階に行き、緑色のドアをノックすると、極貧の部屋に二十歳前と思われる蒼白の顔の娘が横たわっていた。3日も食べていないという娘のために食料を調達してきて食べさせた彼が帰りがけに4階に行ってみると、すべてのドアが緑色だった。建物から出てチラシ配りの男を問い詰めると、「緑のドア」は街路の先でやっている芝居の演目で、歯科医のチラシを配るついでに時折混ぜて配っていたという。

「二十年後」と「水車のある教会」にはドラマチックな物語性があり、「緑のドア」には一幅の絵画のような趣がある。

2017.2.18読了)


by nishinayuu | 2017-04-30 14:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
c0077412_1020127.jpg読書会「かんあおい」2017年3月の課題図書。
著者は地元で句会の指導もしている現役の俳人。読書会のメンバーの一人でもあるので、3月の読書会では本書を取り上げ、著者の解説つきで俳句を鑑賞した。


まず、著者の自選十句を紹介する。
*栗剝くや丹波に生まれ離れても
*雲の峰かの世この世の鬼の貌
*われからの声か土偶のこゑか暑し
*紫式部へ手鞠ころげてゆきさうな
*狐火や母の死風化するばかり
*花野まで来て宿題があるといふ
*空蝉をのせて新聞さざなみす
*ドーバー海峡夢見て水着試着かな
*ぽっぺんを吹いて他人のやうな音
*風来て風がはづかしげなり冬桜

次にnishinaが気に入った十句を記しておく。
*片眼より鱗の落ちし去年今年
*大空のあるを頼みの辛夷咲く
*雪女ときどき梁のきしみをり
*きつね雨トトロの森の月夜茸
*泉川術後の兄に会ひに行く
*旱星鄙に形見のチェロを弾く
*笙の音や青葉の闇を押しひらき
*揚雲雀つばさの軽き日もありて
*冬紅葉恋する人にどっと降る
*石鹼玉たましひに触れ爆ぜにけり

(2017.1.22読了)
by nishinayuu | 2017-03-25 10:20 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

c0077412_10554340.jpg『The Giver』(Lois Lowry, 1993)
読書会「かんあおい」2016年8月の課題図書。
サブタイトルに『記憶を注ぐもの』とある。4巻まであるシリーズの第1冊目である。作者は1937年生まれの児童文学作家で、この作品で世界的に名高い児童文学賞であるニューベリー賞を受賞している。

物語の舞台は近未来の架空のコミュニティ。そこでは、すべての人が何らかの役割を果たしながら規則正しい生活を送っている。子どもたちは「家族ユニット」の中で大切に育てられ、9歳になると自転車を与えられる。自転車は、家族ユニットの保護を離れて少しずつコミュニティの中へ移行していくことを意味する決定的な象徴だ。そして12歳の儀式でそれぞれに適した役割が決定され、子どもたちはコミュニティの一人前の成員となるための訓練生活に入っていく。
物語は12歳の儀式を控えた主人公のジョナスが、いま自分が感じているなにか怖いような感じは、正確には「怖い」ではなくて「待ちきれない」と言い表すべきだ、と分析するところから始まる。「怖い」というのは前の年に正体不明のジェット機がコミュニティの上空に現れて、市民に緊急待避命令が出た時に覚えた感情だった。普段は決して飛行機がコミュニティの上空を飛ぶことはないのだが、そのときは訓練中のパイロットがミスを犯したのだと判明した。数分後にスピーカーの声が告げる。「言ウマデモナク、彼(パイロット)ハ解放サレルデショウ」と。「解放」とはコミュニティから永遠に消えることを意味していた。
表面的には快適で平穏に見えるこのコミュニティは、実はすべての市民の人生をコントロールし「同一化」することによって成り立っていた。誕生から死に至る市民の人生も、市民の「記憶」も知覚も感情も、なにもかもがコントロールされていた。そしてそのコントロールは自然界(動植物、地形、気候など)にまで及んでいた。しかし、まれな例外を除いて、そのことに気づく者はいなかった。そして主人公のジョナスこそはそのまれな例外の一人だった。それはジョナスが他の者たちが暗い瞳をしている中で例外的に「明るい瞳」をしていることと関わりがあるようだった。

主要登場人物は父親(ニュー・チャイルドの「養育係」)、母親(司法局の重要ポストに就いている)、妹のリリー(もうすぐ8歳になるおしゃべり好きな少女)、ゲイブリエル(父親が特別看護のために家に連れてきた、夜泣きの激しいニュー・チャイルド)、アッシャー(同級生で親友。「レクリエーション副官」に任命される)、フィオナ(成績優秀でもの静かな同級生、「老年者の介護係」に任命される)、ギヴァーの老人(ジョナスの心に記憶を注ぎ、訓練する。10年前、レシーヴァーだった娘のロースマリーを失っている。音楽が知覚できる)。
「ギヴァー(記憶を注ぐ者)」とはコミュニティの記憶を管理する役割を担う者のこと。ジョナスは12歳の儀式でギヴァーから記憶を継承する「レシーヴァー(記憶の器)」に任命される。これは特別に優れた資質を持つ者に与えられる名誉ある任務であるが、人々とは切り離された存在でもあった。厳しく孤独な訓練のなかで、コミュニティの「同一化」に疑問を抱きはじめたジョナスに、老人は深い理解を示し、やがて二人はある決断を下す。(2016.7.31読了)
by nishinayuu | 2016-10-08 10:56 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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読書会「かんあおい」2016年7月の課題図書。
本書は平成8年1月から平成11年4月にかけて、『波』その他に掲載された「超短編」21編を収録したもの。各作品の概要は以下の通り。

*鰭紙――天明年間の飢饉について調べている学者が目にした古文書に、若い女が人肉を食べる場面の記録があり、その箇所につけられた鰭紙に女の身元が記されていた。
*同居――5年前に妻を亡くした後輩にある女性を紹介したところ、二人の関係は順調に進展した、と思いきや後輩が、彼女には「同居ニン」がいるので結婚できない、と報告してくる。
*頭蓋骨――終戦直後に樺太避難民の船が沈没した海辺で、40年も経って漁網に幼児の頭蓋骨がかかったという。作家は村を訪れて漁師の話を聞いたが、帰途は散々で不審訊問まで受ける。
*香奠袋――文壇人の葬儀は出版社の編集者たちが引き受けるのが習いだ。そんな葬儀に現われるある上品な老女を、編集者たちは警戒しながらも心待ちにする。
*お妾さん――「私が生まれ育った町にはお妾さんの住む家が多かった」で始まり、空襲の時、道沿いの墓所にしゃがんでいた頼れるもののなにもないお妾さん母子の姿で終わる。
*梅毒――桜田門外の変の現場指揮者だった関鉄之介は梅毒患者だったのでは?と疑われていたが、梅毒ではなく糖尿病だったことを調べ上げた作家。関の子孫に報告すると相手の顔が輝いた。
*西瓜――離婚した妻が、ある男に執拗に求婚されて困っている、と言ってくる。さてその真意は? 
*読経――葬儀でひときわ高く錆のある読経の声が響く。声の主は少年の頃、過失で弟を死なせた男だった。
*サーベル――大津事件で無期刑に処せられた津田三蔵の親族に会ったあと墓を訪れた作家は、墓の異様な小ささに驚くとともに、手向ける花を持たずに来たことを悔やむ。
*居間にて――伯父の死を知らされた伯母が身を震わせて笑ったと報告する妻。忍従の人生だったからか、でも妻の場合はそんなことはあるまい、と思う夫。
*刑事部屋――ある家に二人組の強盗が入った。その家の息子と友人の仕業だとにらんだ警察から息子の友人である自分に呼び出しがかかって……
*自殺(獣医その1)――肺癌と診断された犬が道に飛び出して車にはねられた。医者と飼い主のやりとりから敏感に事情を察して自殺したのかもしれない。
*心中(獣医その2)――飼い主の女性によって無理心中の片割れにされたダックスフント。傷も癒えて女性の息子に引き取られていく。
*鯉のぼり――孫と二人暮らしだった老人の家には孫が事故で死んだ後も毎春鯉のぼりが翻った。
*芸術家――自称小説家の峰村と一緒に出奔した従妹が岩手県下にいることがわかって……
*カフェ――友人からすすめられた敷島を一本吸ったことで、少年時代に住んでいた町とそこにいた人々が鮮やかに浮かび上がった。
*鶴――同人誌の仲間だった岸川の通夜。遺族席にいたのは妖艶ともいえる美しい女性だった。岸川がかつて妻子を捨てて走った25歳年上の女性だから、79歳になっているはずだった。
*紅葉――大学時代の友人が終戦から4年目に奥那須の温泉宿に滞在していたときの体験談。一夜を隣室で過ごした男女は殺人犯たちだった。
*偽刑事――取材先では刑事に間違われることがよくある。八丈島でまたそんな気配が見えたので同行者を刑事に仕立てたら天罰が下って、飛行機は欠航、やっと飛んだと思ったら大揺れ。
*観覧車――離婚した妻・娘と一日を遊園地で過ごした男。妻への未練に突き動かされて復縁を迫るが、二人を見送った後、性懲りもなく浮気の虫がまたうずく。
*聖歌――姉の葬儀の席で聖歌斉唱が始まったとき、驚くほど豊かなテノールが会堂内に響いた。姉が親の反対で結婚をあきらめた、もと同じ音楽部にいた男だった。
(2016.4.23読了)
by nishinayuu | 2016-06-30 10:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

c0077412_2028090.png『The Lady’s Maid-My Life in Service』(Rosina Harrison,1975)
読書会「かんあおい」2016年5月の課題図書。
副題に「子爵夫人付きメイドの回想」とあるように、本書は著者が子爵夫人レディ・アスター付きのメイドとして過ごした35年間(1928~1964)の記録であるが、同時にレディ・アスターをはじめとするアスター家の人々の35年間の記録でもある。

著者は1899年にヨークシャーの美しい村で、侯爵お抱えの石工の父と洗濯メイドの母の長女として生まれた。すなわちある年齢になったらどこかのお屋敷に奉公に出るのが当たり前の身分であり、そういう時代でもあった。しかし著者は普通の奉公人とは違っていた。利発でしっかり者だった著者は、たちまち女主人レディ・アスターに気に入られ、やがて丁々発止とやり合うほどの仲になり、ついには女主人にとってなくてはならない存在になる。実はこのレディ・アスターという女主人も、いわゆる「淑女」ではなく、華々しい政治活動と自由奔放な言動で知られた、普通とは違う女性だったのである。

膨大な登場人物、エピソードが盛り込まれているが、いくつかの項目にしぼって記しておく。
*アスター一族――年齢は1928年の時点のもの
アスター卿(英国紳士の鑑。プリマス市長。オブザーバー紙の社主)
レディ・アスター(アメリカの富豪の娘。アスター卿とは再婚。初の女性国会議員。感情表現は過剰気味。陽気でふざけるのが好き)、ボビー・ショー(レディ・アスターの前夫との間の子。同性愛行為で服役)、ビリー(21歳。クリヴデン邸宅の当主になってまもなくプロヒューモ事件に巻き込まれる)、ヴィシー(18歳。長女。強すぎる母親に反発していたが、やがて強い絆で結ばれる)、デイヴィッド(16歳)、マイケル(12歳)、ジェイコブ(9歳)
*アスター家の使用人――男性は皆身長180センチ以上
エドウィン・リー(クリヴデンの執事)、アーサー・ブッシェル(副執事。アスター卿つき従僕。物まねが得意)、ギボンズ(ばあや)、ホプキンズ(運転手)、フランク(デコレーター。庭師)
*アスター家の家屋敷――クリヴデン(本拠地。屋内スタッフ33名、さらに多数の屋外スタッフを擁する)、セント・ジェイムズ・スクェア4番地のタウンハウス、ケント州サンドイッチのレスト・ハロー(海辺のカントリーハウス。近くにゴルフ場2カ所)、プリマスのエリオット・テラス3番地(政治活動用。地下1階、地上5階)、インナー・ヘブリディーズ諸島のターバート・ロッジ(農家風の家。鹿狩り・魚釣り用)
*アスター家と親交のあった人々――スウェーデンのグスタフ国王、ユーゴスラヴィアのマリー王妃、メアリー皇太后、ヨーク公、エリザベス王女(後の女王)、マハトマ・ガンジー、バーナード・ショー、T.H.ロレンス(アラビアのロレンス)、J.P.モルガンのトーマス・ラモント、他にも社交界・政界の大物多数
*レディ・アスターが嫌っていた人々――ウインストン・チャーチル、赤狩りで知られるマッカーシー上院議員。

本書は上流階級と使用人階級の対比という点で、カズオ・イシグロの『The Remains of the Day(日の名残)』、テレビドラマの「Downton Abbey」などとの共通点も多い。しかし使用人が女主人とともに世界各地を飛び回ったという点は断然ユニークで、それが本書の後半の読みどころとなっている。(2016.3.24読了)
by nishinayuu | 2016-06-02 20:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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『Sold for a Farthing』(Clare Kipps, 1953)
読書会「かんあおい」2015年4月の課題図書。


本書はロンドン郊外に住む一人の女性と、彼女に拾われたイエスズメとの間に培われた友情の物語である。出会いは1940年の7月。防空対策本部隣組支部の一員として、長い一日の任務を終えて帰宅したキップス夫人は、玄関先で瀕死の小鳥を見つけて、思わず拾い上げる。なんとか生命がつながったあとでわかったことだが、このスズメは左の翼にも左の脚にも障害があった。おそらくそのせいで、生まれてすぐに巣から投げ捨てられたのではないだろうか、とキップス夫人は推測する。将来飛ぶことも歩くことも満足にできそうもない小スズメだったが、驚くべき勢いで元気になり、やがて豊かな感性を持つ個性的なスズメへと成長していく。そして、様々な芸当によって人々の喝采を浴びた「俳優としての生活」、スズメとしては珍しい「音楽家としての生活」、成鳥としての「愛の生活」を経て、小スズメは11歳頃に「老いを迎えて」、最後は老衰で12年7週と4日の生涯を閉じる。この小スズメと共にした奇跡ともいえる素晴らしい日々を、ピアニストでもあるキップス夫人は芸術家らしい感性と知性溢れる文章で綴っている。(2015.3.12読了)

☆本書の原題はマタイ伝10章29節から取られています。なお、farthingはイギリスの昔の青銅貨(旧貨幣の1/4ペニーに相当)、韓国語訳とエスペラント訳にみられるアサリオン、アサーロはローマ帝国の貨幣です。
Are not two sparrows sold for a farthing? and one of them shall not fall on the ground without your Father. (King James Bible)
Are not two sparrows sold for a penny? Yet not one of them will fall to the ground apart from the will of your Father. (日本国際ギデオン協会)
「スズメは二羽まとめて一銭で売っているほどのものである。しかしそういうスズメの一羽ですら、主の許しなしでは、地に落ちることもかなわないではないか」
(ついでに韓国語訳とエスペラント訳も)
참새 두 마리가 한 앗사리온에 팔리는 것이 아니냐 그러나 너희 아버지께서 허락지 아니하시면 그 하나라도 땅에 떨어지지 아니하리라 (Korean Bible Society)
Ĉu oni ne vendas du paserojn por asaro? Tamen unu el ili ne falos teren sen via Patro(ザメンホフによるヘブライ語からの訳)
by nishinayuu | 2015-06-24 09:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu