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『Чехов Њмореска Ⅱ』(Чехов)

本書には49の短編が収められており、そのうち本邦初訳が9編、検閲の日付が付記されているものが8編ある。『チェーホフ・ユモレスカⅠ』に比べるとブラックな感じのものは少ないが、どこがユモレスクなのかわかりにくい作品もいくつかある。(こちらの理解力のせいもあるでしょうが。)気に入った作品、気になった作品を記録しておく。

*二兎を追う者は一兎をも得ず――溺れた少佐と少佐夫人の両方の約束を信じて両方とも救ったばかりにとんでもない結果に。

*車内風景――ハチャメチャなロシアの汽車旅行。

*逃した魚は大きい――格好を付けたばかりに持参金付きの娘を逃がしてしまった男。

*狩猟解禁日――オトレターエフ村の人々は喧嘩をし、悪口を言い、憎み合い、軽蔑しあっているが、きっぱり別れることはできないのだ。

*牧歌「ああ」と「おお」――金の切れ目が縁の切れ目。

*おじいさんそっくり――孫息子の芳しからぬ行状は、おじいさんの血を受け継いだせい。

*わかってくれた!――身長1m10cmの超小柄な百姓が熱弁で自由を勝ち取る。

*悲劇俳優――悲劇俳優を愛してしまった娘の悲劇。

*証明書――証明書を書いてもらうには3ルーブルの賄賂が必用だと思い知らされた男。最後につい、1ルーブルのお礼まで手渡してしまう。

*マヨネーズあえ――4つのエピソード中「当意即妙」がいい。

*中傷――中傷が広まらないようにと予防線を張ったつもりが、自分で中傷を広めた結果に。

*聖歌隊――敵対していた聖歌隊指揮者と輔祭が意気投合したのは無神論者の伯爵のおかげ。

*別荘地の掟――愉快な忠告がいっぱい。

*人心の動揺――群衆の動きが活写された一幅の風俗画。

*燃え広がる炎――強い思い込みと根拠のない自信からくる饒舌が拡散していく。

*絶望した男――将棋と囲碁がごっちゃになっている?

*酷寒――ロシアの恐るべき酷寒に心身ともに凍り付く。

*川のほとり――春の情景。ジージャ川の氷の流れを筏で下る。

2019.3.11読了)
by nishinayuu | 2019-06-20 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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DOOR HET OOG VAN DE NAALD』(Willem Joekes, 2012

原題の直訳は「針の穴を通って」で、「九死に一生を得る」「一命を取り留める」の意。

著者はオランダ人で、1916年にオランダ領東インド(蘭印)中部ジャワ州のスマランで生まれた。1918年に両親とともにオランダに帰国。1937年に勤務先の日本駐在員となり、2年あまり神戸で暮らした。40年にオランダ領東インドのスラバヤに赴任。開戦時はオランダ領東インド軍の予備役少尉だった。日本軍による占領後は日本軍によって通訳を命じられたが、スパイ容疑で有罪判決を受け、日本軍刑務所で死と隣り合わせの日々を体験した。その間に妻子と離別している。戦後、オランダに帰国したが、心身ともに衰弱しきっていて、一時は死を考えたほどだった。それでも両親の許で静養したおかげで社会復帰できるまでに回復し、イギリス人女性と再婚して子どもにも恵まれた。その後はオランダ経済省勤務など順調な人生を歩んだ。本書は穏やかな老後を迎えた著者が、そこに到るまでの苦しかった人生を振り返って綴った回想録である。

7つの章のうち第2章は神戸の思い出――美しい風景、瀟洒な町並み、礼儀正しい日本人たち――が綴られている。中にはオランダ人のチェベ・マースという偉丈夫と美しい妻、妻の恋人で退役外交官のフランス人にまつわる、これだけで一つの小説になりそうなエピソードもある。

ところで本書には、インドネシアの人々を対等の人間とは見做していない感じの描写が散見される。宗主国の人間として染みついた感覚はなかなか抜けないということか。一方、若き日の神戸での体験のおかげか、著者はおおむね日本人に対して好意的で、日本軍の刑務所にいたときの体験・見聞に関しても穏やかな表現が多いので日本人としては救われる。もちろん著者は日本軍の女性蔑視からきた数々の罪については、厳しく糾弾する姿勢を示しているし、日本軍刑務所での体験が長い間トラウマとなって残り、日本人を見かけても落ち着いていられるようになるには、日本の降伏から35年あまりを要したという。

著者は、今では日本人に出会っても動揺することはなく、オランダでの滞在が楽しいものになるように、と声をかけるようになったという。邦訳のタイトルはそこから取られている。

2019.3.7読了)
by nishinayuu | 2019-06-15 11:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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Magpie Murders』(AnthonyHorowitz, 2017

この下巻は、上巻のようなまどろっこしい導入部はなくすぐに本編が始まる。上巻の前書き風部分と同じく「ロンドン、クラウチ・エンド」と題された冒頭部分で、『カササギ殺人事件』の作者名がアラン・コンウェイとなっているのはなぜなのか、この部分の語り手が誰なのかが解明されてすっきりする。そのかわり、殺人事件の解明はなかなか進展しない。というのも、作者のアランが急死したせいで、作品の結末部分の原稿が見つからないのだ。というわけで下巻ではアラン・コンウェイ作の『カササギ殺人事件』の犯人解明よりも、作者アラン・コンウェイの死の解明が主題となる。すなわち、上下巻全体がアンソニー・ホロヴィッツ作の『カササギ殺人事件』で、上巻の『カササギ殺人事件』は作中作という構造になっていたのだ。上巻冒頭部分に掲げられていた「作家アラン・コンウェイの経歴」も、「アティカス・ピュントシリーズ」も、「それに寄せられた絶賛の声」というのもすべてフィクションだったのだが、ミステリを読み慣れた読者には自明のことだろう。

主要登場人物

*スーザン・ライランド(語り手。クローヴァーリーフ・ブックス出版社の編集者)/*チャールズ・クローヴァー(クローヴァーリーフ・ブックスのCEO/*ジェマイマ・ハンフリーズ(チャールズの秘書)/*アラン・コンウェイ(『カササギ殺人事件』の作者)/*メリッサ・コンウェイ(アランの元妻)/*フレデリック・コンウェイ(アランの息子)/*クレア・ジェンキンズ(アランの姉)/*ジェイムズ・テイラー(アランの恋人)/*アンドレアス・パタキス(スーザンの恋人)

アランが「カササギ殺人事件」というタイトルにこだわったのは、シリーズ9作のタイトルの頭文字を繋げて「アナグラム解けるか」という言葉にするためだったという。すなわち(あ)アティカス・ピュント登場/(な)慰めなき道を行くもの/(ぐ)愚行の代償/ら 羅紗の幕が上がるとき/(む)無垢なる雪の降り積もる/(と)解けぬ毒と美酒/(け)気高きバラをアティカスに/(る)瑠璃の海原を越えて)となるが、原文のタイトルを忠実に訳したら日本語では意味を成さないはずなので、作品のタイトルは訳者が適当に作ったものと思われる。

アランが作中に仕掛けたもう一つのアナグラムは探偵の名アティカス・ピュントAtticusPünd。「アナグラムを解くとア・ステューピッド・カ……(a stupid c・・・)となるが、最後まで書かないことを許してほしい。読者もきっと自力で簡単に答えにたどりつくだろうから」とスーザンは言っている。(確かに簡単にたどり着けます。)

アランがカササギ殺人事件の筋立てに古い童歌を使っているのも、明らかにクリスティが何度となく使った技法をなぞったものだろう、という言及があって「一、二、わたしの靴の留め金止めて」「五匹の子豚」(以上『愛国殺人』)、「十人の小さなインディアン」(『そしてだれもいなくなった』)、「ヒッコリー・ディッコリー・ドック」(『ヒッコリー・ロードの殺人』)などが挙げられているのも興味深い。

2019.2.15読了)


by nishinayuu | 2019-06-05 09:57 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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Magpie Murders』(AnthonyHorowitz, 2017

本書の帯に、2019年の年末ミステリーベストランキングで「このミステリーがすごい」「週刊文春ミステリーベスト10」「2019本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」の全部を制覇したとある。「カササギ」が登場するタイトルも気に入って読み始めると、冒頭に「ロンドン、クラウチ・エンド」と題された前書き風の部分があり、続いて「名探偵アティカス・ピュントシリーズ カササギ殺人事件 アラン・コンウェイ」というタイトルが出てきて、そのあとに作者(アラン・コンウェイ)の経歴と既刊のアティカス・ピュントシリーズ8冊の紹介、さらに「本シリーズに寄せられた絶賛の声」と続く。なかなか本編が始まらないというなんともじれったい作りになっている。

さて本編が始まってみると、これがなかなか快調で、人物像はくっきりしているしストーリー展開もスピーディで、犯人推理の楽しみも味わえて気持ちよく読み進められる。と思いきや、なんと最後の最後が尻切れトンボ状態で終わっているのである。すぐにも下巻を読まなくては、と思わせる憎い作りになっているのだ。

主要登場人物

*アティカス・ピュント(名探偵)/*ジェイムズ・フレイザー(アティカスの助手兼個人秘書)/*サー・マグナス・パイ(准男爵)/*レディ・フランシス・パイ(マグナスの妻)/*フレディ・パイ(マグナスとフランシスの息子)/*クラリッサ・パイ(マグナスのふたごの妹)/*メアリ・エリザベス・ブラキストン(パイ邸の家政婦。最初に死体となって見つかった人物)/*マシュー・ブラキストン(メアリの元夫)/*ロブ・ブラキストン(メアリの長男)/*ネヴィル・ジェイ・ブレント(パイ邸の庭園管理人)/*ロビン・オズボーン(牧師)/*エミリア・レッドウィング(医師)/*アーサー・レッドウィング(エミリアの夫。画家)/*エドガー・レナード(エミリアの父)/*ジョイ・サンダーリング(ロブ・ブラキストンの婚約者。エミリアの診療所勤務)/*ジェフ・ウィーヴァー(墓掘り)/*ジョニー&フランシス・ホワイトヘッド(骨董屋夫婦)/*ジャック・ダートフォード(フランシスの愛人)

メアリの葬儀の場面に出てくるカササギの数え歌はマザー・グースの次の歌。

One for sorrow, two for joy, three for a girl, four for a boy, Five for silver, six for gold, Seven for a secret ne’er to be told.

2019.2.11読了)


by nishinayuu | 2019-05-31 09:50 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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From the Mixed-up Files of Mrs. Basil E.Frankweiler』(E.L.Konigsburg

読書会「かんあおい」20193月の課題図書。

本作は物語に入る前に手紙文形式のプロローグがあり、そこには二人の人物の名がある。一人は手紙の差出人であるベシル・E・フランクワイラー夫人、もう一人は手紙の受取人であるサクソンバーグ弁護士。手紙の中でフランクワイラー夫人は、遺言状を変更したことを説明するために書いたのがこの物語だ、と説明している。さて、その物語とは――

もうすぐ12歳になるクローディアは、4人姉弟の一番上の自分が不公平な扱いを受けているのにも、毎日が同じことの繰り返しなのにも、オール5のクローディア・キンケイドであることにもあきあきして、家出を計画する。家から逃げ出すのではなく、家よりもっと気持ちのいい場所、できれば美しい場所へ逃げ込む家出を。不愉快なこと、不便なことが嫌いなクローディアが選んだ家出先はメトロポリタン美術館だった。それからクローディアは家出の相棒として、3人の弟のうち下から2番目の(ただ2番目と書いてもいいのに!――これはnishinaの感想)ジェイミーを選ぶ。9歳のこの弟は、お小遣いをしっかり貯め込んでいる(つまり、けちんぼな――これは本書にある表現)ので、その方面はからきしだめなクローディアにとっては家出に欠かせない相棒なのだ。

こうして二人はお稽古で使っているバイオリンやトランペットのケースに下着をいっぱい詰め込み、ジェイミーは貯め込んだお金と1年前に思い切って買ったトランジスター・ラジオも持って家出を決行する。

二人の家出とメトロポリタン美術館滞在の山場は、ミケランジェロの作かどうか確定されていない「天使の像」との出会い。手を尽くして調べた結果を美術館に手紙で知らせたが、美術館から丁重な返事が来て、二人の調査は意味がなかったことがわかる。このままでは、つまり家出したときと同じただのクローディアでは家に帰れない、と思ったクローディアはジェイミーを説得して「天使の像」の元の所有者を訪ねる、という展開になり、ここで子どもたちの家出も終わる。そして、このあとに「天使の像」の元の所有者の「秘密」が明らかにされ、思わせぶりなプロローグの謎も解ける。大人の読者にとっては、複数の大人たちが登場して子どもたちとあれこれやり合うこの最後の部分が、この物語の中でいちばん楽しめるのではないだろうか。(2019.3.6読了)


by nishinayuu | 2019-05-26 09:27 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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Interpreter of Maladies』(Jhumpa Lahiri

読書会「かんあおい」20192月の課題図書(担当はnishina)。

本書については201754日にブログにアップしており(こちら→)、その時点で再読だったので、今回は再々読となる。前回ブログにアップしたときは『停電の夜に』『ピルザダさんが食事に来たころ』『病気の通訳』(本書の原タイトル)について書いているので、今回はその他の作品をとりあげる。

*本物の門番――4階建てアパートの階段掃除人のブーリー・マー(64歳)。入り口の郵便受けの下で雨露をしのがせてもらえるのと引き替えに、折れ曲がる階段を塵一つなく清めていた。日に2回は階段を掃きながら、ブーリー・マーは三次元の厚味のある声で、インド・パキスタン分離のあとカルカッタまで流れてきて以来の恨みつらみを述べ立てるのだった。舞台はインド。

*セクシー――職場で席を並べるラクシュミとミランダ。ラクシュミが電話で従姉妹(パンジャブ人)を慰めている。従姉妹の夫(ベンガル人)が愛人を作って家に帰ってこないのだ。その話を聞いているミランダ自身も愛人の立場にある。妻子のある男性(ベンガル人)と付き合っているのだ。舞台はアメリカ。

*セン夫人の家――エリオット(11歳)と母が、新しいベビーシッターのセン夫人(30がらみ)の許を訪れる。セン夫人はうっすらと顎に痘痕があったが、きれいな目をしていて、身にまとうのはオレンジ色のペーズリー模様のサリーだった。夜会かなにかに着ていくような、とエリオットは思ったが、それでもお母さんの、ショートパンツにすべり止めの靴のほうがおかしな恰好に見えた。話の途中でインドという言葉が出ると、セン夫人はサリーの胸元を整えて部屋を見回した。ランプシェードやカーペットの陰影に、ほかの者にはわからない何かを見ていたのでもあろうか。「みんな、あっちです」。舞台はアメリカ。

*神の恵みの家――トゥンクル(妻)とサンジーヴ(夫)が転居してきた家には、キリスト関係の品々がたくさん残されていた。夫は「うちはヒンドゥー教なのだから処分すべきだ」と考えるが、妻のほうは「こういう物を捨てるのは冒涜だ」と言う。舞台はアメリカ。

*ビビ・ハルダーの治療――「生まれてから29年の大半を、ビビ・ハルダーは病みついて過ごし、その奇病には、家族も友人も、僧侶も、手相見も、行かず後家も、宝石療法士も、預言者も、ただ首をひねるばかりだった」という文で始まる現代の民話のような話。舞台はインド。

*三度目で最後の大陸――語り手の男性は1964年にインドを離れ、船でイギリスに渡り、ロンドン大で学んだ。1969年、36歳でマサチュセッツ工科大の図書館に職を得て、アメリカに渡ることになり、その前にカルカッタで結婚式を挙げた。妻のパスポートとアメリカ滞在許可が出るのを待つ間の6週間、103歳という高齢で気むずかしいミセス・クロフトの下宿に滞在した。妻を紹介したとき、彼女は妻を念入りに検分してから言った。「完璧。いい人を見つけたね」。それを聞いて、それまでぎこちなかった語り手と妻は、初めて見つめ合い、笑顔になったのだった。舞台はアメリカ。

2019.2.27読了)


by nishinayuu | 2019-05-16 09:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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Memory Wall』(Anthony Doerr, 2010

本書は著者の第2短編集で、最も優れた短編集に与えられるストーリー賞を2010年に受賞している。収録作されている6編は、いずれも「記憶」をテーマとした作品である。



*メモリー・ウォール――記憶を特殊な装置で脳から取り出してカセットに保存できるようになった近未来の世界。金持ちの老女アルマの大切な記憶は壁一面に貼られた無数のカートリッジに記録されている。そこから金儲けの種を盗もうと企んだ男は、記憶を読み取るための「ポート」を少年の頭に埋め込む。認知症が進む老女アルマの不安と恐怖、「記憶読み取り人」の少年ルヴォが短い命を精一杯生きる姿、そしてアルマの使用人フェコの献身の日々が静かに、丁寧に語られていく。

*生殖せよ、発生せよ――避妊してきた夫婦がいよいよ子どもを作ろうと思ったところが、なぜか子どもができない。そこで彼らは全力で不妊治療に取り組む。そんな彼らの涙ぐましい奮闘の日々が、専門的医学用語をまじえながら、それでいて実に温かい筆致で綴られていく。

*非武装地帯――韓国に派遣されている米軍兵士の息子から手紙が来る。北朝鮮と韓国の間にある非武装地帯(DMZ-demilitarized zone)に飛んでくる鳥たちのことが書いてある。霧の中から現れて頭上を通過していった千羽近くのカモメの群、通信線に触れて地面に墜ちたツル、などなど。手紙を受け取るのは父親。母親が家を出て他の男と暮らしていることを息子はまだ知らない。息子から「病気で送還されることになった」という手紙が来たとき、父親は息子からの手紙の束を、元妻の家の玄関に置いてくる。

*一一三号村――中国が舞台。大規模なダム建設計画によって水没することが決まった村で、先祖代々種屋をやってきた女性の物語。人々が次々に再定住地区へ移転して行くなかで彼女は村に残る。二つの戦争と文化大革命を生き抜いてきた村の誰よりも歳をとっている柯(クー)先生も残る。

*ネムナス川――両親を相次いで病気で亡くしたアリソン(15歳)と、彼女を引き取ったリトアニアのおじいちゃんの物語。アリソンは「ネムナス川でチョウザメを釣る」と言い張り、ジーおじいちゃんは「昔はママもチョウザメ釣りに行ったが、アメリカの大学に行ってそこで結婚してしまった。この20年、誰もネムナス川でチョウザメを捕まえていないし、ネムナス川にはもうチョウザメはいない」と言う。さて。

*来世――ナチスによるユダヤ人迫害が激しくなった時期のハンブルクと、75年後のオハイオ州ジェニーバが舞台。ハンブルクの女子孤児院に収容されていた12人の少女たちのうち、当時6歳だったエスター・グラムだけがローゼンバウム医師の手で救い出されてアメリカに渡り、エスターを特別に守ってくれていた16歳のミリアムも含めて他の少女たちはみなビルケナウに送られた。けれどもエスターは今もミリアムたちと一緒にいるのを感じている。

訳者あとがきに「記憶は失われるもの、手の届かないものであるだけに、本書には静かな悲しみが流れている。その一方で、どの作品にも希望の輝きが感じられる。(中略)その希望を作り出しているのは、子どもたちだ。ウオータースライダーを滑るテンバ(フェコの息子)の興奮が、木蓮の発芽を見守る傑(ジェ-一一三号村の女性の孫)、雪遊びをするふたご(エスターの家の新しい家族)の歓声が、私たちに新たな喜びを届ける」とある。読書中も読後も静謐な感動に満たされる素晴らしい作品でした。(2019.1.9読了)


by nishinayuu | 2019-05-06 10:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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TheSleeping Prince』(Terence Rattigan1953

カルパチア国の摂政として権謀術数に明け暮れる男(眠りの森の王子)が、一夜の気晴らしに呼んだアメリカの踊り子の企みのない素直さと賢さによって愛に目覚める、というロマンチック・コメディ。作者のラティガン(19111977)はイングランド出身の劇作家・脚本家。外交官を目指して名門校で学んでいたが演劇に目覚めて学業を中断し、演劇界に入って数多くの作品を残した。『涙なしのフランス語』『銘々のテーブル』『海は青く深く』など、映画化された作品も多い。本作もローレンス・オリヴィエとマリリン・モンローの主演で映画化されている(英語のタイトル「The Prince and the Showgirl」、日本語タイトル「王子と踊り子」)。

主要登場人物は以下の通り。

カルパチア王ニコラス八世(故カルパチア女王の王位継承者。父と政治的に対立。16歳くらい)

チャールズ大公(ニコラスの父。カルパチア国摂政。元ハンガリー王子でカルパチア女王と結婚。)

チャールズ大公妃(チャールズ大公の2度目の妻。オーストリア皇帝フランツ・ジョセフ皇帝の姪)

トリゴリンスキー伯爵(チャールズ大公の侍従長)

マイセンブロン伯爵夫人(チャールズ大公妃の侍女。通称モード)

ブルンハイム男爵夫人(チャールズ大公妃の侍女。通称ロティ。中年の肥った夫人)

ピーター・ノースブルック卿(チャールズ大公付きのイギリス外交官。40歳くらい)

シュヴァルツ男爵(チャールズ大公付きの執事)

ファイフェル・フォン・ブラウン(チャールズ大公付きの下僕)

ウル・ドゥ・グリュンヌ(チャールズ大公付きの下僕)

スティリア領フェルディナンド大公妃(大柄で赤ら顔)

スティリア領ルイーザ王女(フェルディナンド大公妃の娘。ニコラスの花嫁候補。15歳くらい)

メアリー・モーガン(アメリカの踊り子。芸名はエレーヌ・ディケナム。)

チャールズ大公は罵るときはドイツ語を使い、チャールズ大公妃はフランス語が大好き、メアリーはアメリカなまりの英語、ピーターはもちろん正統な英語、などなど、いろいろな言葉が飛び交う。舞台劇として日本でも上演されているそうだが、言葉の問題はどのように処理されているのだろうか。

ところで、この翻訳書で、スティリアのルイーザ王女の髪型が「弁髪」とあってちょっとびっくり。弁髪と言えば普通、頭の周囲の髪を剃って中央に残った髪を編んで下に垂らす北方アジアの男性の髪型が思い浮かぶのではないだろうか。ルイーザ王女の髪型はおそらく「お下げ髪」もしくは「ポニー・テール」だと思われる。(2018.12.31読了)


by nishinayuu | 2019-04-26 15:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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To Say Nothing of the Dog』(Connie Willis, 1998

副題に「あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」(or How We Found The Bishop’s Bird Stump At Last)とある。タイトルの「犬は勘定に入れません」はかの有名な『ボートの三人男』(ジェローム・K・ジェローム)の副題がそのまま使われている。作中では犬も大活躍するという含みのあるタイトルであるが、犬の登場のしかたがユニークで、読者には最初、彼らが犬だとはわからない。たとえば第1章は次のように始まる。

「そこにいたのは総勢五名だった。カラザ-ス、新入生、僕、それにミスター・スピヴンズと堂守。」

語り手の僕が真ん中、という変わった順序の紹介の意味はこの時点ではわからないが、すぐあとで僕たちがタイムトラベルによって過去の世界にやって来て、その時代の堂守と出くわしたことが判明する。そのあとで、トンネルを掘ったり、ネコを見てうなり声を上げたり、果ては僕の足元にうずくまったり、という怪しい動きを見せることからミスター・スピヴンズが犬だと判明するのだ。

もっと重要な役割を持つブルドッグのシリルの正体も、読者にはすぐにはわからないように仕組まれている。ミスター・スピヴンズで学習した読者ならもう騙されることはないが、この2回の犬を介したおふざけによって作者はその独特のユーモア世界に読者を引き込んでいく。

ただしこの作品は単なるユーモア小説ではない。タイムトラベルを主題とするSF小説であり、ヴィクトリア朝を舞台にした歴史ミステリーであり、文学作品からの引用があふれる蘊蓄小説であり、登場人物たちがもつれ合う恋愛小説でもある。冒頭の場面からいきなり複雑な状況に放り込まれるので読みこなせるかどうか心許なくなるが、いったん状況が飲み込めるとストーリーとしてはそれほど複雑ではない。タイムトラベルにまつわる複雑な理屈や文学的蘊蓄はさらっと読み流してしまっても充分楽しめる。

特筆すべき点はイギリス小説ならではの「執事」の活躍である。ヴィクトリア時代の名家の執事として完璧な働きぶりを見せたベイン(本名ウィリアム・パトリック・キャラハン――これはネタバレ)。オクスフォードのダンワージー教授の許からヴィクトリア朝に移動してベインの後釜として名家に入り込み、ミステリーの解明に貢献するフィンチ。最近どなたかが愛読なさっているとかでもてはやされている「強かな執事のジーヴズ」に比べると、ふたりともきまじめな執事たちである。ところで疑問が一つ。執事になる階級と執事を雇う階級の間には確然とした壁があったと思うのだが、ベインはどうして執事になる階級ではないことがばれずに済んだのだろうか、そもそもどうして執事の仕事を完璧にこなせたのだろうか。カズオ・イシグロの『陽の名残』の主人公がうっかり「サー」と言ってしまったために紳士階級ではないことがばれてしまったのとは逆のパターンだが。(2018.12.4読了)


by nishinayuu | 2019-03-27 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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All theLight We Cannot See』(Anthony Doerr

物語の主要舞台は「フランスのブルターニュ地方、エメラルド海岸でもひときわ輝きを放つ町、古くからの城壁に囲まれたサン・マロ」(フィリップ・ベックによる)。物語の始まりは194487日、サン・マロがイギリス海峡を越えてやって来たアメリカ軍の爆撃機によってほぼ完全に破壊された日である。砲撃の前に「町の住民はただちに市街の外に退去せよ」と書かれたビラが町に降り注いだ。

町の一角、ヴォーボレル通り4番地にある建物の最上階である6階で、16歳の少女マリー・ロール・ルブランが近づいてくる爆撃機の音を聞く。そして別の小さな音に気づいて窓辺に行き、窓の鎧戸に挟まった一枚の紙を手に取ると、紙を鼻に近づけて新鮮なインクの匂いをかぐ。マリー・ロールはこの建物に一人取り残された目の見えない少女だった。

通りを5本進んだところにある「蜂のホテル」で、18歳の少年ヴェルナー・ペニヒがスタッカートのようにうなるかすかな音を聞く。海の方からは高射砲の轟音が届く。ここ4週間、ホテルはオーストリア人対空部隊の要塞として使われていた。伍長に「地下室へ行け」と声をかけられたヴェルナーは毛布をダッフルバッグに入れて廊下を進み始める。ヴェルナーは連合軍の攻撃を迎え撃つためにこの町にやってきたドイツ軍の2等兵だった。炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で育ったドイツ人二等兵だった。

こうして始まる物語は、ここに到るまでの二人の物語を交互に描いていく。一方には1934年、6歳で視力を失ったマリー・ロールが父親から点字を習い、『海底2万里』と親しんだ日々、父親とともにパリを後にすることになったいきさつ、サン・マロの大叔父の家で暮らし始めてまもなくスパイの嫌疑で父が連行されたあと、家から一歩も出ずに無線放送を続ける大叔父と過ごした日々の物語がある。そしてもう一方にはヴェルナーがドイツの炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で過ごした日々、ザクセン州のシュルプフォルタ国家政治教育学校で指導教授から眼をかけられた日々、そして軍役に就いてサン・マロにやって来たいきさつなどの物語がある。そして19448月、マリー・ロールとヴェルナーの軌跡が交わる。二人を繋いだのは大叔父の兄(マリーの祖父)による朗読と「月の光」のメロディーだった。

忘れ難い登場人物たち

*マリー・ロール関係――父(国立自然史博物館の錠前主任。娘が前向きに生きていけるように全力を尽くした)/エティエンヌ・ルブラン(祖父の弟。マリーに『ビーグル号航海記』を読んできかせる)/マネック夫人(エティエンヌ家の家政婦兼保護者。マリーの保護者ともなる

*ヴェルナー関係――ユッタ(妹。ヴェルナーがほとんど知らなかった世界のからくりをよく理解していた)/エレナ先生(孤児院の先生。愛と献身で孤児たちを育む)/フレデリック(政治教育学校の同期生。鳥博士。無抵抗を貫いて精神に異常を来す)/フォルクハイマー(政治教育学校で知り合った年長の巨体の少年。表面は上官に忠実だが、陰ではヴェルナーに共感して秘かに助ける)/

(2018.11.19読了)


by nishinayuu | 2019-03-17 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu