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To Say Nothing of the Dog』(Connie Willis, 1998

副題に「あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」(or How We Found The Bishop’s Bird Stump At Last)とある。タイトルの「犬は勘定に入れません」はかの有名な『ボートの三人男』(ジェローム・K・ジェローム)の副題がそのまま使われている。作中では犬も大活躍するという含みのあるタイトルであるが、犬の登場のしかたがユニークで、読者には最初、彼らが犬だとはわからない。たとえば第1章は次のように始まる。

「そこにいたのは総勢五名だった。カラザ-ス、新入生、僕、それにミスター・スピヴンズと堂守。」

語り手の僕が真ん中、という変わった順序の紹介の意味はこの時点ではわからないが、すぐあとで僕たちがタイムトラベルによって過去の世界にやって来て、その時代の堂守と出くわしたことが判明する。そのあとで、トンネルを掘ったり、ネコを見てうなり声を上げたり、果ては僕の足元にうずくまったり、という怪しい動きを見せることからミスター・スピヴンズが犬だと判明するのだ。

もっと重要な役割を持つブルドッグのシリルの正体も、読者にはすぐにはわからないように仕組まれている。ミスター・スピヴンズで学習した読者ならもう騙されることはないが、この2回の犬を介したおふざけによって作者はその独特のユーモア世界に読者を引き込んでいく。

ただしこの作品は単なるユーモア小説ではない。タイムトラベルを主題とするSF小説であり、ヴィクトリア朝を舞台にした歴史ミステリーであり、文学作品からの引用があふれる蘊蓄小説であり、登場人物たちがもつれ合う恋愛小説でもある。冒頭の場面からいきなり複雑な状況に放り込まれるので読みこなせるかどうか心許なくなるが、いったん状況が飲み込めるとストーリーとしてはそれほど複雑ではない。タイムトラベルにまつわる複雑な理屈や文学的蘊蓄はさらっと読み流してしまっても充分楽しめる。

特筆すべき点はイギリス小説ならではの「執事」の活躍である。ヴィクトリア時代の名家の執事として完璧な働きぶりを見せたベイン(本名ウィリアム・パトリック・キャラハン――これはネタバレ)。オクスフォードのダンワージー教授の許からヴィクトリア朝に移動してベインの後釜として名家に入り込み、ミステリーの解明に貢献するフィンチ。最近どなたかが愛読なさっているとかでもてはやされている「強かな執事のジーヴズ」に比べると、ふたりともきまじめな執事たちである。ところで疑問が一つ。執事になる階級と執事を雇う階級の間には確然とした壁があったと思うのだが、ベインはどうして執事になる階級ではないことがばれずに済んだのだろうか、そもそもどうして執事の仕事を完璧にこなせたのだろうか。カズオ・イシグロの『陽の名残』の主人公がうっかり「サー」と言ってしまったために紳士階級ではないことがばれてしまったのとは逆のパターンだが。(2018.12.4読了)


by nishinayuu | 2019-03-27 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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All theLight We Cannot See』(Anthony Doerr

物語の主要舞台は「フランスのブルターニュ地方、エメラルド海岸でもひときわ輝きを放つ町、古くからの城壁に囲まれたサン・マロ」(フィリップ・ベックによる)。物語の始まりは194487日、サン・マロがイギリス海峡を越えてやって来たアメリカ軍の爆撃機によってほぼ完全に破壊された日である。砲撃の前に「町の住民はただちに市街の外に退去せよ」と書かれたビラが町に降り注いだ。

町の一角、ヴォーボレル通り4番地にある建物の最上階である6階で、16歳の少女マリー・ロール・ルブランが近づいてくる爆撃機の音を聞く。そして別の小さな音に気づいて窓辺に行き、窓の鎧戸に挟まった一枚の紙を手に取ると、紙を鼻に近づけて新鮮なインクの匂いをかぐ。マリー・ロールはこの建物に一人取り残された目の見えない少女だった。

通りを5本進んだところにある「蜂のホテル」で、18歳の少年ヴェルナー・ペニヒがスタッカートのようにうなるかすかな音を聞く。海の方からは高射砲の轟音が届く。ここ4週間、ホテルはオーストリア人対空部隊の要塞として使われていた。伍長に「地下室へ行け」と声をかけられたヴェルナーは毛布をダッフルバッグに入れて廊下を進み始める。ヴェルナーは連合軍の攻撃を迎え撃つためにこの町にやってきたドイツ軍の2等兵だった。炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で育ったドイツ人二等兵だった。

こうして始まる物語は、ここに到るまでの二人の物語を交互に描いていく。一方には1934年、6歳で視力を失ったマリー・ロールが父親から点字を習い、『海底2万里』と親しんだ日々、父親とともにパリを後にすることになったいきさつ、サン・マロの大叔父の家で暮らし始めてまもなくスパイの嫌疑で父が連行されたあと、家から一歩も出ずに無線放送を続ける大叔父と過ごした日々の物語がある。そしてもう一方にはヴェルナーがドイツの炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で過ごした日々、ザクセン州のシュルプフォルタ国家政治教育学校で指導教授から眼をかけられた日々、そして軍役に就いてサン・マロにやって来たいきさつなどの物語がある。そして19448月、マリー・ロールとヴェルナーの軌跡が交わる。二人を繋いだのは大叔父の兄(マリーの祖父)による朗読と「月の光」のメロディーだった。

忘れ難い登場人物たち

*マリー・ロール関係――父(国立自然史博物館の錠前主任。娘が前向きに生きていけるように全力を尽くした)/エティエンヌ・ルブラン(祖父の弟。マリーに『ビーグル号航海記』を読んできかせる)/マネック夫人(エティエンヌ家の家政婦兼保護者。マリーの保護者ともなる

*ヴェルナー関係――ユッタ(妹。ヴェルナーがほとんど知らなかった世界のからくりをよく理解していた)/エレナ先生(孤児院の先生。愛と献身で孤児たちを育む)/フレデリック(政治教育学校の同期生。鳥博士。無抵抗を貫いて精神に異常を来す)/フォルクハイマー(政治教育学校で知り合った年長の巨体の少年。表面は上官に忠実だが、陰ではヴェルナーに共感して秘かに助ける)/

(2018.11.19読了)


by nishinayuu | 2019-03-17 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

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On ChristmasDay in the Morning & Other Writings』(Margery Allingham,1936

本書は『キャンピオン氏の事件簿』シリーズの第3巻で、中編の「今は亡きピッグ(豚野郎)の事件」、短編の「クリスマスの朝に」の2編の他に、アガサ・クリスティーによる追悼文「マージェリー・アリンガムを偲んで」が収められている。

*「今は亡きピッグ(豚野郎)の事件」――時は19361月。キャンピオンはその朝受け取った美文調の匿名の手紙を読みながら、従僕のラッグがタイムズの死亡欄聞を読み上げるのを上の空で聞いていたが、小学校時代のいじめっ子・ピーターズ(37歳)の名が読み上げられて、俄然興味を覚える。「おまえの葬式には必ず行く」と行ってやった相手なので、ロンドンから車を飛ばして東サフォーク州キープセイク村近郊の寒村テザリングへ。葬儀の参列者の中に小学校の後輩のウィペットもいて、彼もキャンピオンが受け取ったのと同じ美文調の匿名の手紙を受け取っていたことを知る。そして6月。キャンピオンは再びキープセイク村へ赴く。地元の警察本部長で旧知のレオ・パースウィヴァントから殺人事件捜査の応援を頼まれたからだ。警察署でキャンピオンを待っていたのは、5ヶ月前に死んだはずのピッグの、死後12時間しか経っていない死体だった。(全然怪しくないのでかえって怪しく見える人物が次々に登場して、謎解きの面白さが味わえる。)

*クリスマスの朝に――時はピッグ事件から十数年あと。同じくキープセイク村の別の地域で郵便配達の老人が車にはねられて死亡するという事件がおこる。その朝、十字路の辺りで酔っ払い運転の車が事故を起こしていて車に乗っていた二人の男が警察に拘束された。他には車の通行はなかったので、この車が配達夫をはねたのは確実なのだが、十字路のずっと先にあるコテージには郵便が配達されているという証言がある。そうなると酔っ払い運転の車が配達夫をはねたと考えるには時間的にも場所的にも矛盾が出てくる。真相を突き止めるためにキャンピオンはパースウィヴァントと証言者のパシー警視といっしょにコテージへ出向く。パシー警視によるとコテージに住むのは「かなりのご高齢で、75歳は超えているはず」の女性だった。(今だったら8595を超えないとかなりご高齢とは言えないのでは? それはさておき、クリスマスにふさわしい心温まる結末になっている。)

クリスティはアリンガムの作風について「繊細な感性で選び抜かれた言葉が使われ」、「普通はあまり探偵小説とは結びつけられない資質である優雅さがある」と言っているが、そのとおりの作品でした。

2018.11.14読了)


by nishinayuu | 2019-03-12 14:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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本作は1955年生まれの作家・梁貴子が1987年に発表した作品の邦訳。2018630日に出版されたできたての本である。

ウォンミドンは漢字で書けば遠美洞(京畿道富川市遠美区)。遠美山という幻想的な名前を持つ山の麓に位置する、大都市ソウルの周辺地域の一つである。時はソウルオリンピック(1988)の前で、町はまだ昔ながらの田舎町といった雰囲気のなかにある。そんな遠美洞に暮らす人々の日常が細やかな筆致で、しつこいくらい丁寧に描かれている。全体は11のエピソードからなり、各エピソードの主人公が他のエピソードに端役で登場したりもすれば、全体を通して出ずっぱりの人物もいて、興味深い群像劇になっている。11のエピソードのタイトルは以下の通り。

「遠くて美しい町」、「火種」、「最後の土地」、「ウォンミドンの詩人」、「一匹の旅ネズミ」、「雨降りの日はカリボンドンに行かなければならない」、「カワラヒワ」、「茶店の女」、「日用の糧」、「地下生活者」、「寒渓嶺」

以上のうち「ウォンミドンの詩人」は以前、韓国語講座で原文を読んだことがある懐かしい作品。また「雨降りの日はカリボンドンに行かなければならない」は別の翻訳集で読んだ覚えがあり、そのときは「カリボンドン」という響きだけが印象に残ったが、今回、集中でいちばん共感を持って読めた。

ところで、残念なのは翻訳文がこなれた日本語になっていないため、非常に読みにくいこと。韓国語の原文に囚われすぎているようだが、これは翻訳の問題でもあり、校閲の問題でもある。「訳者あとがき」はきちんとした日本語で書かれており、その内容もすばらしいのに、どうしてだろうか。この作品が読みでのある優れた作品であることは確かなので、訳文を吟味した改訂版が一日も早く出ることを期待する。

2018.11.9読了)


by nishinayuu | 2019-03-07 10:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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『Чехов Њмореска』(Чехов)

本書はユーモア週刊誌に寄稿された初期の作品群を集めたもので、本邦初訳が14編収録されている。掲載誌名のあとに「検閲許可」の文字がある作品が7編あり、帝政ロシアの過酷な検閲制度をうかがわせる。タイトルに「ユモレスカ」とあるけれど、辛辣すぎてついていけないもの(ロシア人のユーモアは毒気がありすぎ?)もあれば、理解が届かないものもある。が、全体としては人間の普遍的生態が浮かび上がってくる作品群と言える。特に印象的な作品をいくつか挙げておく。

*男爵――役者の下手な演技に腹を立てて、思わず自分で台詞を言ってしまうプロンプター。

*心ならずもペテン師に――いろいろな人が自分の都合で時計の針を進めたり戻したり。

*フィラデルフィア自然研究大会――ダーウィンに反対するベルギー代表は言う。「あらゆる人種が猿から派生したわけではない。たとえばロシア人は鵲から、ユダヤ人は狐から、イギリス人は冷凍魚から派生したものだ」。

*年に一度――「名の日」なのに誰も訪ねてこない侯爵令嬢(腰の曲がったしわくちゃ婆さん)のために、令嬢の甥を無理やり呼び寄せる従僕のマールク。

*親切な酒場の主人――かつてわが家の農奴だった酒場の主人が、わが家の手入れに大金をつぎ込んでくれたわけは?

*客間で――客間で愛を語る男女(実は主の留守に貴公子と令嬢を気取ってみた使用人の男女)。

*ポーリニカ――ポーリニカへの愛と「荷馬車の5番目の車輪になんかならない」というプライドの間で揺れ動くニコライ・チモフェーイチ。

2018.10.27読了)


by nishinayuu | 2019-02-15 09:39 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


c0077412_14270137.jpgOut ofAfrica』(Isak Dinesen, 1937

著者は『バベットの晩餐会』や『冬物語』(著者名はカレン・ブリクセンとなっている)で知られるデンマークの作家。デンマーク語で書くときはカレン・ブリクセン(Kren Blixen)を、英語で書くときはイサク・ディネセンを用いた、という話を聞いたことがあるが、1937年出版の本書はイギリス版とデンマーク版はカレン・ブリクセンの名で、翌年のアメリカ版はイサク・ディネセンの名で発表されている。

さて本書は1914年から1931年までアフリカで農場を経営した著者が、ずっと心に残っている「アフリカの日々」を綴った作品である。

「赤毛のせっかちな北欧人が熱帯地方と人種に寄せる熱い思慕は、異性間の思慕に似ている。北欧人は自分の国や同民族の中では理に合わないことを決して許さない。ところが彼らはアフリカ高地の旱魃、日射病、牛の疫病、雇い入れた現地人が与えられた仕事に適さないことなどなどを、自己卑下とあきらめをもって受け入れる。不一致故に一体となり得るこの人間関係のなかにひそむ可能性に、北欧人の個としての意識はのみ込まれてしまう」と著者は言う。はたして著者は「アフリカに着いて最初の何週間かでアフリカの人たちに強い愛情を覚え」、彼らと接するうちにますます彼らに惹かれていって、18年という年月を彼らと共に過ごすことになったのだ。

本書にはアフリカの大地が、アフリカの人々が、アフリカの動物たちが、そしてそれらと共にある著者の日々が、数々の迫力のあるエピソードとともに綴られている。それでいてなぜか読後には、静かな音楽の流れるなかで美しい映像を眺めていたような印象が残る。(2018.10.23読了)


by nishinayuu | 2019-02-05 14:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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The BloodPromise 』(Mark Pryor, 2014

本書のカバーには続・『古書店主』とあるが、主人公が同一人物であるというだけで、『古書店主』の続編というわけではない。ただ、始めのほうにある「ブキニストの捜査の決着がついたときに、ブキニストの娘から父親のコレクションの一品だった『星の王子様』の著者サイン入りの初版本を贈られた」という言及が『古書店主』とのつながりといえばつながりといえる。

物語の冒頭は1795年のパリ。アルベール・ピジョンという老人が現代社会で最も影響力のある人物に宛てて手紙を認めている。書き終えると自分の血で署名を記し、蠟で封をした「ル・カドゥー(寄贈品)」とともに精巧に作られたチェストに納める。これがタイトルにある「血盟の箱」で、ある男に託されて遠くに送られることになるのだが、この段階ではピジョンが何者なのか、誰に宛てて手紙を書いたのか、チェストがどこに送られたのかはまだわからない。

本書はフランス革命の折にとらわれの身となったドーファン(王太子、マリー・アントワネットの息子)が、秘かに救い出されてある家族の息子としてアメリカで育てられた、という設定を基にして構築された歴史ミステリー。フランスの名門一族、アメリカの大統領候補などが絡み合って起こる窃盗事件や殺人事件を、主人公のヒューゴが友人のトム、部下のカミーユらとじっくり(のんびりゆったり?)解決していく。主な登場人物は以下の通り。

*ヒューゴ・マーストン――駐仏アメリカ大使館の外交保安部長。「ゲイリー・クーパーばりの容姿で、ジェイムズ・ボンドばりの活躍」をする元FBIのプロファイラー。好きな作家はオスカー・ワイルド(親近感が湧く!)

*トム・グリーン――ヒューゴのよき相棒。元CIA局員。

*クラウディア――ジャーナリスト。ヒューゴの恋人。

*チャールズ・レイク――アメリカ合衆国上院議員

*アンリ・トゥールヴィユ――フランス外務省欧州局の高官

*アレクサンドラ――アンリの妹

*ラウル・ガルシア――パリ警視庁主任警部

*カミーユ・ルラン――パリ警視庁警部補。男から女に性転換した人物。大きなサイズの婦人靴を探すのに苦労している。

2018.9.26読了)


by nishinayuu | 2019-01-26 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。

☆画像は「ウクライナ日記」です。


私の10

ウクライナ日記(アンドレイ・クルコフ、訳=吉岡ゆき、集英社)

海を照らす光(ステッドマン、訳=古屋美登里、早川書房)

ブラックウォーター灯台船(コルム・トビーン、訳=伊藤範子、松籟社)

落日礼賛(ヴェチェスラフ・カザケーヴィチ、訳=太田正一、群像社)

アウシュヴィッツの図書係(アントニオ・G・イトゥルベ、訳=小原京子、集英社)

Less than AngelsBarbara Pym, USKindle

複製された男(ジョゼ・サラマーゴ、訳=阿部孝次、彩流社)

階段を下りる女(ベルンハルト・シュリンク、訳=松永美穂、新潮クレストブックス)

アフリカの日々(イサク・ディネセン、訳=横山貞子、河出書房新社)

すべての見えない光(アンソニー・ドーア、訳=藤井光、新潮クレストブックス)

お勧めの10

低地(ジュンパ・ラヒリ、訳=小川高義、新潮クレストブックス)

城砦(クローニン、訳=竹内道之助、三笠書房)

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ、訳=栗原俊秀、未知谷)

ウイルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン(ポール。トーディ、訳=小竹由美子、白水社)

The Interlopers H. H. Munro, Doubleday & Company Inc.)

また、桜の国で(須賀しのぶ、祥伝社)

ショーシャ(アイザック・シンガー、訳=大崎ふみ子、吉夏社)

夜想曲集(カズオ・イシグロ、訳=土屋政雄、早川書房)

Only Time Will Tell (Jeffrey Archer, USKindle

犬は勘定に入れません(コニー・ウィリス、訳=大森望、早川書房)


by nishinayuu | 2019-01-01 10:01 | Trackback | Comments(0)


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Nocturnes Five Stories of Music and Nightfall』(Kazuo Ishiguro, 2009

副題「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」




*「老歌手」――原題はCrooner(ビング・クロスビーなどの甘くささやく歌い方の歌手のこと)。舞台はヴェネチア。語り手は旧共産圏出身のギタリストのヤネク。そしてクルーナーは60年代にビッグネームだったアメリカの歌手トニー・ガードナー。サンマルコ広場でガードナーを見かけたヤネクは、母が熱烈なファンでした、と声をかける。それがきっかけでヤネクはその晩、ゴンドラを窓辺に寄せて妻に向かってセレナーデを歌いたい、というガードナーのために伴奏することになる。

*「降っても晴れても」――原題はCome Rain or Come Shine(レイチャールズの歌のタイトル)。語り手のレイはイングランド南部の大学でエミリとチャーリーに出逢った。レイとエミリはブロードウエイソングが大好きで、レイとチャーリーは一番の親友だった。エミリとチャーリーが結婚したあとも三人の交流は続いたが、チャーリーは世界各地を飛び回って会議をこなすという活躍ぶり。一方レイは英会話の教師をしながら独身のまま47歳になった。夏の初め、レイはロンドン行きの計画を立て、二人に連絡した。二人はいつもレイのための部屋を用意して待っていてくれるのだが、今回は様子が違った。

*「モールバンヒルズ」――Malvern Hillsはヘレフォードシャーの地名。ロンドンでは理解されないと感じた若いミュージシャンの語り手は、ロンドンを離れて姉夫婦の経営するレストランを手伝うことにする。そこで出会ったのは自分を目の敵にしたかつての教師フレーザー婆さんと、旅行者のスイス人夫婦。夫のティーロ(語り手によると髪型はABBA風)はいやに明るく、妻のゾーニャはいやにとげとげしい。語り手はフレーザー婆さんが経営するひどいと評判のホテルをスイス人夫婦に勧める

*「夜想曲」――「二日前まで、おれはリンディ・ガードナーのお隣さんだった」という文で始まる。リンディ・ガードナーは第1話で老歌手がセレナーデを献げた妻その人。大スターである。語り手は売れないサックス奏者。メジャーになる素質はあるのに売れないのは顔のせいだとマネージャーに言われ、美容整形を受ける。そして療養のためにホテルに移ると、やはり顔中包帯でぐるぐる巻きのリンディがいて、二人は急速に親しくなる。

*「チェリスト」――7年前、語り手が出会ったチェリストのティポールは、一流の音楽教育を受けていて、将来が開けている若者だった。安定した仕事がないティポールのために、語り手とバンド仲間がオーディションを受けられるようにしてやった。それをとても感謝していたティポールだったが、一夏のうちにすっかり変わり、態度がでかくなった。それもこれもあのアメリカ女のせいだ、とみんなは思った。チェロの名手だというその女性エロイーズ・マコーマックは、自ら指導を申し出てティポールを虜にしてしまった。

しみじみとした話、ドタバタ調の話、なんとも奇妙な話などを組曲のようにまとめた味わいのある短編集である。名翻訳者による「訳者あとがき」も楽しい。(2018.9.7読了)


by nishinayuu | 2018-12-22 11:21 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


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An Unsuitable Job For a Woman』(P.D. James, 1972

物語の主要舞台はケンブリッジ。冒頭に「作者の覚え書き」があって「舞台をオクスブリッジとしたり、登場人物たちにケムシズ川でボートを漕がせたりすると、登場人物を、読者を、そして作者をも混乱させるだけであり、モデル問題で怒らせる機会を与える相手を二つもこしらえてしまう」とかなんとか言っている。いくつかの作品の印象から重くて堅苦しい人物のような気がしていた作者が、俄然、ふつうの人に見えてくる一文である。

本作の主人公はコーデリア、22歳。私立探偵事務所の所員だったが、探偵としての資格も経験もなかった。それなのにある日、事務所の所長バーニー・プライドが自殺してしまう。死後の後始末も、備品や書類も、そして不法所持していた拳銃までコーデリアの手に残して。そこへ一人の女性が仕事を依頼するために所長を訪ねてきた。所長が死んだと聞いて帰ろうとする彼女を、コーデリアはとっさに引き留める。「私に御用を聞かせてください。私はプライドさんとは共同提携を組んでいた者で、今は一人で仕事を引き継いでいます。」

こうしてコーデリアはその女性エリザベス・レミングといっしょに、仕事の依頼主であるロナルド・カレンダー卿の住むケンブリッジに出かけて行く。さて――

主な登場人物は上記の人々の他に

マーク(ロナルド卿の息子)/エヴリン(ロナルド卿の妻)/ゴダード夫人(エヴリンの乳母)/クリス・ルン(科学者であるロナルド卿の助手)/グラドウィン(医師)/アダム・ダルグリッシュ(犯罪捜査部の警視)

コーデリアは所長のバーニーから探偵としてのノウハウを学んだが、そのバーニーがその教えを信奉し、尊敬していたのがダルグリッシュだった。すなわちコーデリアは温かい人柄だが運のなかったバーニーの弟子であり、なぜかバーニーには冷たかったダルグリッシュの孫弟子ということになる。ただし本作のコーデリアは探偵というより、「当事者」と深く関わりすぎた素人、という印象。事件の全容を解明し、解説するのはベテランのダルグリッシュなのである。やっぱり探偵は「女には向かない」?(2018.8.26読了)


by nishinayuu | 2018-12-02 18:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu