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『Чехов Њмореска』(Чехов)

本書はユーモア週刊誌に寄稿された初期の作品群を集めたもので、本邦初訳が14編収録されている。掲載誌名のあとに「検閲許可」の文字がある作品が7編あり、帝政ロシアの過酷な検閲制度をうかがわせる。タイトルに「ユモレスカ」とあるけれど、辛辣すぎてついていけないもの(ロシア人のユーモアは毒気がありすぎ?)もあれば、理解が届かないものもある。が、全体としては人間の普遍的生態が浮かび上がってくる作品群と言える。特に印象的な作品をいくつか挙げておく。

*男爵――役者の下手な演技に腹を立てて、思わず自分で台詞を言ってしまうプロンプター。

*心ならずもペテン師に――いろいろな人が自分の都合で時計の針を進めたり戻したり。

*フィラデルフィア自然研究大会――ダーウィンに反対するベルギー代表は言う。「あらゆる人種が猿から派生したわけではない。たとえばロシア人は鵲から、ユダヤ人は狐から、イギリス人は冷凍魚から派生したものだ」。

*年に一度――「名の日」なのに誰も訪ねてこない侯爵令嬢(腰の曲がったしわくちゃ婆さん)のために、令嬢の甥を無理やり呼び寄せる従僕のマールク。

*親切な酒場の主人――かつてわが家の農奴だった酒場の主人が、わが家の手入れに大金をつぎ込んでくれたわけは?

*客間で――客間で愛を語る男女(実は主の留守に貴公子と令嬢を気取ってみた使用人の男女)。

*ポーリニカ――ポーリニカへの愛と「荷馬車の5番目の車輪になんかならない」というプライドの間で揺れ動くニコライ・チモフェーイチ。

2018.10.27読了)


by nishinayuu | 2019-02-15 09:39 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


c0077412_14270137.jpgOut ofAfrica』(Isak Dinesen, 1937

著者は『バベットの晩餐会』や『冬物語』(著者名はカレン・ブリクセンとなっている)で知られるデンマークの作家。デンマーク語で書くときはカレン・ブリクセン(Kren Blixen)を、英語で書くときはイサク・ディネセンを用いた、という話を聞いたことがあるが、1937年出版の本書はイギリス版とデンマーク版はカレン・ブリクセンの名で、翌年のアメリカ版はイサク・ディネセンの名で発表されている。

さて本書は1914年から1931年までアフリカで農場を経営した著者が、ずっと心に残っている「アフリカの日々」を綴った作品である。

「赤毛のせっかちな北欧人が熱帯地方と人種に寄せる熱い思慕は、異性間の思慕に似ている。北欧人は自分の国や同民族の中では理に合わないことを決して許さない。ところが彼らはアフリカ高地の旱魃、日射病、牛の疫病、雇い入れた現地人が与えられた仕事に適さないことなどなどを、自己卑下とあきらめをもって受け入れる。不一致故に一体となり得るこの人間関係のなかにひそむ可能性に、北欧人の個としての意識はのみ込まれてしまう」と著者は言う。はたして著者は「アフリカに着いて最初の何週間かでアフリカの人たちに強い愛情を覚え」、彼らと接するうちにますます彼らに惹かれていって、18年という年月を彼らと共に過ごすことになったのだ。

本書にはアフリカの大地が、アフリカの人々が、アフリカの動物たちが、そしてそれらと共にある著者の日々が、数々の迫力のあるエピソードとともに綴られている。それでいてなぜか読後には、静かな音楽の流れるなかで美しい映像を眺めていたような印象が残る。(2018.10.23読了)


by nishinayuu | 2019-02-05 14:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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The BloodPromise 』(Mark Pryor, 2014

本書のカバーには続・『古書店主』とあるが、主人公が同一人物であるというだけで、『古書店主』の続編というわけではない。ただ、始めのほうにある「ブキニストの捜査の決着がついたときに、ブキニストの娘から父親のコレクションの一品だった『星の王子様』の著者サイン入りの初版本を贈られた」という言及が『古書店主』とのつながりといえばつながりといえる。

物語の冒頭は1795年のパリ。アルベール・ピジョンという老人が現代社会で最も影響力のある人物に宛てて手紙を認めている。書き終えると自分の血で署名を記し、蠟で封をした「ル・カドゥー(寄贈品)」とともに精巧に作られたチェストに納める。これがタイトルにある「血盟の箱」で、ある男に託されて遠くに送られることになるのだが、この段階ではピジョンが何者なのか、誰に宛てて手紙を書いたのか、チェストがどこに送られたのかはまだわからない。

本書はフランス革命の折にとらわれの身となったドーファン(王太子、マリー・アントワネットの息子)が、秘かに救い出されてある家族の息子としてアメリカで育てられた、という設定を基にして構築された歴史ミステリー。フランスの名門一族、アメリカの大統領候補などが絡み合って起こる窃盗事件や殺人事件を、主人公のヒューゴが友人のトム、部下のカミーユらとじっくり(のんびりゆったり?)解決していく。主な登場人物は以下の通り。

*ヒューゴ・マーストン――駐仏アメリカ大使館の外交保安部長。「ゲイリー・クーパーばりの容姿で、ジェイムズ・ボンドばりの活躍」をする元FBIのプロファイラー。好きな作家はオスカー・ワイルド(親近感が湧く!)

*トム・グリーン――ヒューゴのよき相棒。元CIA局員。

*クラウディア――ジャーナリスト。ヒューゴの恋人。

*チャールズ・レイク――アメリカ合衆国上院議員

*アンリ・トゥールヴィユ――フランス外務省欧州局の高官

*アレクサンドラ――アンリの妹

*ラウル・ガルシア――パリ警視庁主任警部

*カミーユ・ルラン――パリ警視庁警部補。男から女に性転換した人物。大きなサイズの婦人靴を探すのに苦労している。

2018.9.26読了)


by nishinayuu | 2019-01-26 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。

☆画像は「ウクライナ日記」です。


私の10

ウクライナ日記(アンドレイ・クルコフ、訳=吉岡ゆき、集英社)

海を照らす光(ステッドマン、訳=古屋美登里、早川書房)

ブラックウォーター灯台船(コルム・トビーン、訳=伊藤範子、松籟社)

落日礼賛(ヴェチェスラフ・カザケーヴィチ、訳=太田正一、群像社)

アウシュヴィッツの図書係(アントニオ・G・イトゥルベ、訳=小原京子、集英社)

Less than AngelsBarbara Pym, USKindle

複製された男(ジョゼ・サラマーゴ、訳=阿部孝次、彩流社)

階段を下りる女(ベルンハルト・シュリンク、訳=松永美穂、新潮クレストブックス)

アフリカの日々(イサク・ディネセン、訳=横山貞子、河出書房新社)

すべての見えない光(アンソニー・ドーア、訳=藤井光、新潮クレストブックス)

お勧めの10

低地(ジュンパ・ラヒリ、訳=小川高義、新潮クレストブックス)

城砦(クローニン、訳=竹内道之助、三笠書房)

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ、訳=栗原俊秀、未知谷)

ウイルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン(ポール。トーディ、訳=小竹由美子、白水社)

The Interlopers H. H. Munro, Doubleday & Company Inc.)

また、桜の国で(須賀しのぶ、祥伝社)

ショーシャ(アイザック・シンガー、訳=大崎ふみ子、吉夏社)

夜想曲集(カズオ・イシグロ、訳=土屋政雄、早川書房)

Only Time Will Tell (Jeffrey Archer, USKindle

犬は勘定に入れません(コニー・ウィリス、訳=大森望、早川書房)


by nishinayuu | 2019-01-01 10:01 | Trackback | Comments(0)


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Nocturnes Five Stories of Music and Nightfall』(Kazuo Ishiguro, 2009

副題「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」




*「老歌手」――原題はCrooner(ビング・クロスビーなどの甘くささやく歌い方の歌手のこと)。舞台はヴェネチア。語り手は旧共産圏出身のギタリストのヤネク。そしてクルーナーは60年代にビッグネームだったアメリカの歌手トニー・ガードナー。サンマルコ広場でガードナーを見かけたヤネクは、母が熱烈なファンでした、と声をかける。それがきっかけでヤネクはその晩、ゴンドラを窓辺に寄せて妻に向かってセレナーデを歌いたい、というガードナーのために伴奏することになる。

*「降っても晴れても」――原題はCome Rain or Come Shine(レイチャールズの歌のタイトル)。語り手のレイはイングランド南部の大学でエミリとチャーリーに出逢った。レイとエミリはブロードウエイソングが大好きで、レイとチャーリーは一番の親友だった。エミリとチャーリーが結婚したあとも三人の交流は続いたが、チャーリーは世界各地を飛び回って会議をこなすという活躍ぶり。一方レイは英会話の教師をしながら独身のまま47歳になった。夏の初め、レイはロンドン行きの計画を立て、二人に連絡した。二人はいつもレイのための部屋を用意して待っていてくれるのだが、今回は様子が違った。

*「モールバンヒルズ」――Malvern Hillsはヘレフォードシャーの地名。ロンドンでは理解されないと感じた若いミュージシャンの語り手は、ロンドンを離れて姉夫婦の経営するレストランを手伝うことにする。そこで出会ったのは自分を目の敵にしたかつての教師フレーザー婆さんと、旅行者のスイス人夫婦。夫のティーロ(語り手によると髪型はABBA風)はいやに明るく、妻のゾーニャはいやにとげとげしい。語り手はフレーザー婆さんが経営するひどいと評判のホテルをスイス人夫婦に勧める

*「夜想曲」――「二日前まで、おれはリンディ・ガードナーのお隣さんだった」という文で始まる。リンディ・ガードナーは第1話で老歌手がセレナーデを献げた妻その人。大スターである。語り手は売れないサックス奏者。メジャーになる素質はあるのに売れないのは顔のせいだとマネージャーに言われ、美容整形を受ける。そして療養のためにホテルに移ると、やはり顔中包帯でぐるぐる巻きのリンディがいて、二人は急速に親しくなる。

*「チェリスト」――7年前、語り手が出会ったチェリストのティポールは、一流の音楽教育を受けていて、将来が開けている若者だった。安定した仕事がないティポールのために、語り手とバンド仲間がオーディションを受けられるようにしてやった。それをとても感謝していたティポールだったが、一夏のうちにすっかり変わり、態度がでかくなった。それもこれもあのアメリカ女のせいだ、とみんなは思った。チェロの名手だというその女性エロイーズ・マコーマックは、自ら指導を申し出てティポールを虜にしてしまった。

しみじみとした話、ドタバタ調の話、なんとも奇妙な話などを組曲のようにまとめた味わいのある短編集である。名翻訳者による「訳者あとがき」も楽しい。(2018.9.7読了)


by nishinayuu | 2018-12-22 11:21 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


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An Unsuitable Job For a Woman』(P.D. James, 1972

物語の主要舞台はケンブリッジ。冒頭に「作者の覚え書き」があって「舞台をオクスブリッジとしたり、登場人物たちにケムシズ川でボートを漕がせたりすると、登場人物を、読者を、そして作者をも混乱させるだけであり、モデル問題で怒らせる機会を与える相手を二つもこしらえてしまう」とかなんとか言っている。いくつかの作品の印象から重くて堅苦しい人物のような気がしていた作者が、俄然、ふつうの人に見えてくる一文である。

本作の主人公はコーデリア、22歳。私立探偵事務所の所員だったが、探偵としての資格も経験もなかった。それなのにある日、事務所の所長バーニー・プライドが自殺してしまう。死後の後始末も、備品や書類も、そして不法所持していた拳銃までコーデリアの手に残して。そこへ一人の女性が仕事を依頼するために所長を訪ねてきた。所長が死んだと聞いて帰ろうとする彼女を、コーデリアはとっさに引き留める。「私に御用を聞かせてください。私はプライドさんとは共同提携を組んでいた者で、今は一人で仕事を引き継いでいます。」

こうしてコーデリアはその女性エリザベス・レミングといっしょに、仕事の依頼主であるロナルド・カレンダー卿の住むケンブリッジに出かけて行く。さて――

主な登場人物は上記の人々の他に

マーク(ロナルド卿の息子)/エヴリン(ロナルド卿の妻)/ゴダード夫人(エヴリンの乳母)/クリス・ルン(科学者であるロナルド卿の助手)/グラドウィン(医師)/アダム・ダルグリッシュ(犯罪捜査部の警視)

コーデリアは所長のバーニーから探偵としてのノウハウを学んだが、そのバーニーがその教えを信奉し、尊敬していたのがダルグリッシュだった。すなわちコーデリアは温かい人柄だが運のなかったバーニーの弟子であり、なぜかバーニーには冷たかったダルグリッシュの孫弟子ということになる。ただし本作のコーデリアは探偵というより、「当事者」と深く関わりすぎた素人、という印象。事件の全容を解明し、解説するのはベテランのダルグリッシュなのである。やっぱり探偵は「女には向かない」?(2018.8.26読了)


by nishinayuu | 2018-12-02 18:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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編訳者あとがきによると「昔から、うっすら不安な気持ちになる小説が好きだった。()夢の中で、電車を一本乗り違えただけなのに、もう二度と許の世界には帰れないような()というものばかり選んで翻訳し、『野性時代』に連載したものをまとめた」のが本書だという。さてその居心地の悪い小説とは……


*ヘベはジャリを殺す(HB KILLS JARRY ブライアン・エヴンソン, 1994

 まぶたの縫合で始まりまぶたの縫合で終わる殺しの儀式。(とっても痛そう。)

*チャメトラ(CHAMETLA ルイス・アルベルト・ウレア, 2010

 瀕死の兵士のえぐり取られた後頭部から、ミニチュアの生家や、小学校の教科書や、両親や、幼馴染みや、司祭や、山羊や、荷馬車が次々と押し出されてきて

*あざ(THE BIRTHMARK アンナ・カヴァン、1940

 (『チェンジ・ザ・ネーム』と同じく、作者のぴりぴりした神経がこちらの神経に障る。)

*来訪者(VISITORS ジュディ・バドニッツ、2005

 (両親の車はどこにいるの?何が起きているの?続きが読みたい!)

*どう眠った?(HOU DID YOU SKEEP ポール・グレノン, 2000

 二人の男が建築物になぞらえて眠りの質を競い合う。日本の紙の家のように不安な眠りで話は終わる。

*父、まばたきもせず(THE FATHER< UNBLINKING ブライアン・エヴンソン, 1994

 娘の死体を黙々と片付ける父親。母親の問に答えることもなく。(答えてあげればいいのに。)

*分身(THE DOUBLE リッキー・デュコーネイ, 1994

 (気持ち悪い話だけれどもここまでシュールだと笑える。夫が出て行ったのも納得できる。)

*潜水夫(THE DIVER ルイス・ロビンソン, 2003

 (メイン州のポイント・アリソンという舞台も、若い夫婦と強かなダイバーという登場人物も、話の展開も映画向き。)

*やあ!やってるかい!(HI,HOWYADOIN! ジョイス・キャロル・オーツ2007

 ジョギングしながら誰にも彼にも「やあ!やってるかい!」と声を掛ける男。それがいやだった「あなた」は声を掛けられたとたんに玩具みたいな銃で彼を撃つ。アア、殺ッテヤルサ、と。

*ささやき(WHISPER レイ・ヴクサヴィッチ, 2001

 (集中でいちばん「居心地が悪い」作品。何度読み返してもよくわからない。解説が欲しい!)

*ケーキ(CAKES ステイシー・レヴィーン, 1993

 丸々となりたくて、部屋を改造して棚を巡らし、その棚をケーキでいっぱいにした語り手。いざケーキを食べようとしたとき、家の外に猫と犬がいた。(だからどうなの?といいたいけれど…。)

*喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ(THE JOY AND MELANCHOLY BASEBALLTRIVIA QUIZ ケン・カルファス, 1998

 野球にまつわる架空のトリビアを集めた話。(この作品が集中でいちばん面白い。)

2018.8.13読了)


by nishinayuu | 2018-11-27 10:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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Die Frauauf der Treppe』(Bernhard Schlink, 2014

シドニーのアートギャラリーで語り手が一枚の絵を目にするところから物語は始まる。その絵は階段を降りている全裸で青白くブロンドの女性を描いたもので、女性は浮遊するような軽やかさで鑑賞者に向かってくる。グラントラッハ家のサロンで初めて見たときと同じように、その絵は語り手を感動させた。語り手はゆっくりその絵に向かって歩いて行く。そして困惑する。あの頃のできごとを思い出させられたせいだった。

絵の中の女性はイレーネで、当時はグラントラッハという名字だった。描いたのはカール・シュヴィント。70の誕生日にはあらゆる新聞・テレビに登場した世界で最も有名で、値の張る画家であるが、当時はこれからの有望株といったところだった。イレーネがグラントラッハの許を去ってシュヴィントと暮らし始めると、グラントラッハは妻をモデルにしてシュヴィントに描かせた「階段を降りる女」に傷を付け、シュヴィントに修復させてはまた傷つけることを繰り返した。絵を買い戻すことも写真を撮ることも拒否されたシュヴィントが解決策を求めて訪れたのが語り手の法律事務所だった。1968年のことで、シュヴィントは30代初め、イレーネは20代初めで、語り手も新進気鋭の弁護士だった。そして語り手もやはりイレーネに強く惹かれていた。

40年の時が流れ、シドニーで「階段を降りる女」に再開した語り手は、グラントラッハ、シュヴィントとも顔を合わせることになる。病に冒されて余命いくばくもないイレーネが二人を招き寄せたのだ。現場に立ち会った語り手を、イレーネはほとんど記憶していなかった。語り手はあくまでもただの第三者だったのだ。それにもかかわらず語り手は、二人の男が去ったあともイレーネの許に残る。一人では階段が降りられなくなって語り手に背負われて「階段を降りる女」の最期のときを見守るために。

もしあのとき二人が一緒になっていたら、という仮定で語り手がイレーネに語って聞かせる物語が、イレーネにも語り手にもそして読者にも安らぎを与える。(2018.8.10読了)


by nishinayuu | 2018-11-22 09:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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Island ofthe Blue Dolphins』(Scott O’Dell, 1960

物語の舞台はカリフォルニア沖にあるサンニコラス島。高い地点から見下ろすと全体がイルカの形をしているこの島で、12歳(1835)から30歳(1853)までの18年間、たった一人で生き抜いていく女性の物語。


ガラサット族の暮らすこの島の沖にある日、北の方から赤い帆の船が現れる。ラッコを捕るためにやって来たアリュート人の船だった。浜に降り立った船長とガラサット族の酋長が交渉のために向き合う。このとき酋長が本名を名のったことに、酋長の娘であるカラーナは驚く。本名をやたらに明かすと禍が降りかかるおそれがあるからだ(本名を隠すのは世界各地にみられる風習ですね)。案の定、アリュート人たちはガラサット族との取り決めを守らずに島を立ち去ろうとし、それを阻止しようとして武器をとったガラサットの男たちの多くが死んだり大けがをしたりして、カラーナの父である酋長も死んでしまう。

何とか生き延びた人々の前に、やがて東の方から白い帆の船が現れる。人々は島を捨てて新しい土地に移ることにする。このとき、忘れ物を取りに行った弟がまだ船に乗っていないのに気づいたカラーナは、みんなが止めるのを振り切って海に飛び込む。船はそのまま東の方に消えていき、弟とカラーナは島に取り残される。その弟が、野犬に襲われて死んでしまったため、カラーナはついに独りぼっちになってしまう。そしてカラーナのまるでロビンソンクルーソーのような生活が始まる。家を造り、食べ物を集め、着る物も作れば、移動手段のカヌーも作る。そして、「女は武器を作ってはいけない」という一族の掟や、「女の持つ弓はその人がいちばん危なくなったときに折れる」という父の教えも乗り越えてたくましく生きていく。18年後にやっとまた東のほうから船が現れる日まで。

実話に基づいた作品で、モデルになった女性は実際に12歳から30歳まで(18351853)の18年間、サンニコラス島に一人で暮らしていたという。ただし彼女は東の地(カリフォルニア)の人々とは言葉が通じなかったため、島での生活に関する詳しい記録は残っていない、とあとがきにある。ほとんど資料のないところからこのような魅力的な物語を作り出した作者の力量に驚かされる。とくにカラーナが野犬のボスになっていたアリュートの大型犬、傷ついて死にかけていたラッコ、などの動物たちと心を通わせていくエピソードは感動的。

エピソードの一つとして大津波と大地震が出てくるのは、カリフォルニア地方の人々に1906年の大地震の記憶がまだ新しかったからだろうか。カラーナが島にいた期間には別に大地震の記録はない。(2018.7.31読了)


by nishinayuu | 2018-11-12 09:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


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本書には「本にまつわるサスペンス」が4つ収録されている。




1.『受け入れがたい犠牲』(ジェフリー・ディーヴァー)

 『An Acceptable Sacrifice』(Jeffery Deaver,2012

『ボーン・コレクター』で有名な作家による短編。麻薬王のクチージョを殺すために雇われたアメリカとメキシコのエージェント。ただしクチージョは、世間的には合法的な会社経営で富を築いた実業家であり、慈善家でもある。教養のある古書マニアという顔を持つ。彼が観光バスの襲撃を計画しているという情報があって動くことになった二人だが、彼は本当に悪人なのか、という疑問が任務遂行をためらわせ……。

2.『美徳の書』(ケン・ブルーエン)

 『The Book of Virtue』(Ken Bruenn,2012

若者のテンポで展開する若者の感覚に溢れた1編。この作者の作品は連発されるジョークが特徴だそうだが、正直、ついていけない!

3.『ナチス・ドイツと書斎の秘密』C.J.ボックス)

 『Pronghorns of the Third Reich』(C.J.Box,2011

ライルとファンの二人組に拉致された弁護士のパーカーは、人里離れたアングラー牧場に連れて行かれる。かつてパーカーは「ナチとの取引で資金を得たアングラーによって祖父が不正に牧場を奪われた」というライルの主張を証拠不十分として退け、アングラーを無罪にしている。そのライルがアングラーの遺した膨大な蔵書を手に入れようとして、遺産管理人であるパーカーを拉致したのだ。雪嵐の中、気が変わったファンは二人を残してピクアップ・トラックと共に立ち去る。酷寒の中でパーカーとライルの命がけの駆け引きが始まる。緊迫感にあふれ、結末の衝撃度も大きい印象的な作品。

4.『死者の永いソナタ』(アンドリュー・テイラー)

 『The Long Sonata of the Dead』(Andrew Taylor,2013

文学史上のマイナーな資料にまつわる長年の仇敵との因縁。文学的色合いが濃厚で、余韻のある作品。

翻訳者によって紹介されている作品のうち、今後読んでみたいものをいくつかメモしておく。

『幻の特装本』(ジョン・ダニング、1995)/『匿名原稿』(ウィル・ハリス、1983)/『二巻の殺人』(エリザベス・デイリイ、1941)/『章の終わり』(ニコラス・ブレイク、1957)/『著者略歴』(ジョン・コラピント、2001

2018.8.3読了)
by nishinayuu | 2018-10-18 14:22 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu