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『セルノグラッツのオオカミ』(マンロウ、『サキ短編集』)

セルノグラッツ城の主となった男爵夫妻が招いた客たちと歓談している場面から物語は始まる。こういう古いお城には伝説がつきものだ、と男爵夫人が語り始める。「ここの場合は、お城で誰かが死ぬと森の野獣たちが一晩中遠吠えする、という伝説があるのだけど、でたらめよ。去年の春に義母が亡くなったときだって何も起こらなかったわ」。

すると家庭教師のアマーリアが「それは違います」と声を上げる。普段は雇い主たちの会話に口を出すことはないのに。アマーリアによると、誰かが死ぬと獣たちの遠吠えが聞こえる、ということではなく、「セルノグラッツ家の人間が死ぬ時に」あちこちからオオカミがやって来て森の外れで吠えるのだという。普段はこの森に棲むオオカミの数は限られているのに、ものすごい数のオオカミがやって来て吠えるので、お城や村の農場の犬たちもおびえて吠えるのだという。「それだけではありません。死んでいく人の魂が身体を離れた瞬間、庭の木が裂けて倒れるのです。城と無関係の人が死んでもオオカミが吠えたり木が倒れたりはしません」 と彼女は挑むような、蔑むような調子で言い放つ。

アマーリアはさらに、零落して雇われる身になったときに名前を変えたが、本名はアマーリア・フォン・セルノグラッツだと告げる。男爵も夫人も家庭教師の不遜な態度にあきれて、当分は人手が必要なのでこのままにしておくが、年明けのパーティーが済んだら彼女を解雇しようと考える。ところが、クリスマス後の寒さのせいで家庭教師は病の床についてしまい、老齢のせいもあってどんどん弱っていく。そんなある日、男爵家の飼い犬が突然クッションから飛び降りて震えながらソファーの下にもぐり込む。それと同時に城の庭で犬たちが吠えだし、遠くからも犬の吠える声が聞こえてくる。耳を澄ますとあちこちからオオカミの遠吠えの声もするではないか。

深い森に囲まれた古い城に伝わる伝説が現実のものとなる、という神秘的な物語展開が魅力的。ただし、それだけでは終わらずに皮肉の効いた結末が付いているところがサキらしい。(2018.1028読了)
by nishinayuu | 2019-02-20 09:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

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『時のみぞ知る』(ジェフリー・アーチャー、US Kindle

Clifton Chroniclesの最初の巻。主人公の少年期から青年期への成長を、視点を変え、時期を少しずつずらしながら綴っていくという構成で、それによって主人公のハリー・クリフトンはもちろん、主人公を取り巻く人々の像もくっきりと浮かび上がってくる。心覚えのために各章のエピソードを列挙しておく。

1章「Happy Clifton」(1920-1933)港町ブリストルにおけるハリーの子ども時代の物語。父親のいない家庭の貧しい生活、聖歌隊のソリストとして活躍する日々、世捨て人のジャックとの出会い、St. Bede’s 校への進学と学校生活、Bristol Grammar Schoolへの進学など。

2章「Maisie Clifton」(1920-1936)ハリーの母メイジーの物語。アーサー・クリフトンとの結婚とハリーの誕生、アーサーの事故死、ハリーの進学に伴う苦労と喜び、Hugo Barringtonとの因縁など。

3章「Hugo Barrington」(1921-1936)バリントン海運の御曹司であるヒューゴの物語。アーサーを死に追いやった経緯。メイジーとの関係。メイジーとハリー母子を極力避ける理由などが綴られる。

4章「Old Jack Tar」世捨て人オールド・ジャックの物語。バリントン海運の社主ウォルターとの縁。アーサーの子ハリーへの肩入れ、ミスター・ホウルカム、ディーキンズ、ミスター・フロビシャーとの数奇なつながり、父の死と残された手紙など。

5章「Giles Barrington」(1936-1938)ハリーと親友になったジャイルズの物語。ハリーを嫌う父への反発、夏休みのトスカーナ旅行、演劇シーズンでのハプニング、ジャイルズの妹エマとハリーの交際に対するメイジーとジャックの懸念、母とエマの家出、ハリーと一緒に母方の祖父ハーヴェイ卿訪問、ハーヴェイに諭されてヒューゴが家族に語ったハリーを避ける理由、ハリーとディーキンズのオクスフォード入学決定など。

6章「Emma Barrington(1932-1939) ジャイルズの妹エマの物語。ハリーとエマが恋人になった経緯、母とエディンヴァラに行ったいきさつ、ハリーの父の死についてのエマの推測、ハリーとの交際をヒューゴばかりかメイジーもジャックも喜んでいないと知ったときの困惑、ジャックの「異議あり」という声で流れた結婚式など。

7章「Harry Crifton」(1939-1940)一瞬にして人生を閉ざされたハリーのその後の物語。衝撃を受けて式場を去る人々のその後の動き、エマがハリーに残した手紙、イギリスの開戦と町にあふれる軍服姿、心臓発作で倒れたオールド・ジャック、ハリーが老朽船デヴォウニアン号に乗ることになったいきさつ、ハリーの船員修行と高級船員トム・ブラドショウとの親交、ハリーがトム・ブラドショウになりかわったいきさつ、ニューヨークに入港したハリーを待っていた「第1級殺人罪」による逮捕、などなど。

本書で最も感動的なのは、ハリーの回りには母メイジーをはじめとして、ミス・マンデイ(聖歌隊長、ハリーのを見いだし、メイジーの仕事探しも助ける)、オールド・ジャック(世捨て人。ハリーに目をかけて教え導く。ハリーの父親の死の真相を知っている)、ミスター・ホウルカム(公立小の先生、ハリーを進学させようと個人指導にのりだす)、ミスター・フロビシャー(St. Bede’s の歴史教師)、オークショット師(St. Bede’s の校長)など、温かく見守って手をさしのべてくれる人が大勢いたという事実である。

2018.10.16読了)


by nishinayuu | 2019-01-31 09:46 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


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☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。

☆画像は「ウクライナ日記」です。


私の10

ウクライナ日記(アンドレイ・クルコフ、訳=吉岡ゆき、集英社)

海を照らす光(ステッドマン、訳=古屋美登里、早川書房)

ブラックウォーター灯台船(コルム・トビーン、訳=伊藤範子、松籟社)

落日礼賛(ヴェチェスラフ・カザケーヴィチ、訳=太田正一、群像社)

アウシュヴィッツの図書係(アントニオ・G・イトゥルベ、訳=小原京子、集英社)

Less than AngelsBarbara Pym, USKindle

複製された男(ジョゼ・サラマーゴ、訳=阿部孝次、彩流社)

階段を下りる女(ベルンハルト・シュリンク、訳=松永美穂、新潮クレストブックス)

アフリカの日々(イサク・ディネセン、訳=横山貞子、河出書房新社)

すべての見えない光(アンソニー・ドーア、訳=藤井光、新潮クレストブックス)

お勧めの10

低地(ジュンパ・ラヒリ、訳=小川高義、新潮クレストブックス)

城砦(クローニン、訳=竹内道之助、三笠書房)

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ、訳=栗原俊秀、未知谷)

ウイルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン(ポール。トーディ、訳=小竹由美子、白水社)

The Interlopers H. H. Munro, Doubleday & Company Inc.)

また、桜の国で(須賀しのぶ、祥伝社)

ショーシャ(アイザック・シンガー、訳=大崎ふみ子、吉夏社)

夜想曲集(カズオ・イシグロ、訳=土屋政雄、早川書房)

Only Time Will Tell (Jeffrey Archer, USKindle

犬は勘定に入れません(コニー・ウィリス、訳=大森望、早川書房)


by nishinayuu | 2019-01-01 10:01 | Trackback | Comments(0)


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永井 淳の訳で新潮社から出ている版のタイトルは『十二本の毒矢』で、12の短編が収録されている。本書はそれより2編少ない10編の短編集となっている。講談社の出版なので、和書に分類すべきかもしれないが、英文の本なので原書としておく。


収録作品のなかで面白かったのは……

*The Chinese Statue――サザビーズのオークションに出品された中国の皇帝像。像そのものより台座に高額の値がつく。(ところでポンドとギニーという貨幣単位を併用しているイギリス人って賢い?)

*The Luncheon――よく覚えていない女性に高級レストランで食事を御馳走する羽目になった語り手。支払い額が心配で自分はサラダだけで我慢した語り手の手許に残ったのはバス代のみ。別れ際、女性はこの店のオーナーと再婚したの、としらっと言って去って行く。(これもまた作者お得意の?お金の話。)

*The Coup――ナイジェリアにやって来た二人のブラジル人事業家。クーデター勃発による大混乱、銀行融資の滞りなどに直面する中で、ライバルだった二人が急接近し、共同で事業を進めることに。(長編にしてもいいような読み応えのある話でした。)

*The First Miracle――時は紀元1年。キリストの奇跡に最初に遭遇したのは少年ピラトだった!

*The Hungarian Professor――イギリスを愛し、イギリス文学に一生を捧げたのに一度もイギリスに行けない教授。涙を誘う物語。

その他は――「One-Night Stand」「Broken Routine」「Henry’s Hiccup」「A Matter of Principle」「OldLove」。いずれもちょっと哀れだったりちょっと滑稽だったりする掌編で、「毒矢」と言うほどではない。

語句に関するメモ

*hiccup――ちょっとした不都合、妨害、挫折。(Henrys hiccup)

*statu pupillari――学生の身分。(Henrys hiccup」)

*V-J Day――Victory Over Japan。アメリカなどで92日に祝う。

(Henrys hiccup)

*Bonheur-du-jour――女性用の文机兼化粧テーブル。(Henrys hiccup)

*langouste――伊勢エビ。(Henrys hiccup)

*B.N.C.――Brasenose College(オクスフォード大のカレッジ)

(「The Hungarian Professor」)

*IBA――ITVとチャンネル4を統合した会社。(「Old Love」)

2018.8.30読了)


by nishinayuu | 2018-12-12 11:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


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本作は『ショーシャ』の作家による最初の児童書で、ヨーロッパのユダヤ人社会に伝わる民話や伝説をもとにした7つの物語からなる。

Fool’sParadise」には怠け者の男が、「Grandmother’s Tale」には悪魔が、「The Snow in Chelm」「The Mixed-Up Feet and theSilly Bridegroom」「The First Shlemiel」の3編には愚か者たちの村「ヘルム」で起こったできごとが、「The Devil’sTrick」には悪魔より賢かった少年が、「Zlateh the Goat」には互いに助け合って雪嵐を切り抜けた少年と山羊が登場する。愉快な話もあれば、ぞわっと鳥肌の立つ話もあり、心温まる話もある。中では巻の最後に置かれている「Zlateh the Goat」がいちばん心に残った。表題になるだけのことはある。

作者のシンガーは1904年(もしくは1902年)ポーランドに生まれ、1935年に渡米してイディシュ語によって作家活動をした。邦訳書としては『ワルシャワで大人になっていく少年』(金敷力、新潮社)、『ヘルムのあんぽん譚』(関憲治、篠崎書店)、『やぎと少年』(工藤幸雄、岩波書店)、『ルブリンの魔術師』(大崎ふみ子、吉夏社)『父の法廷』(桑山孝子、未知谷)などがある。

ところで本書の表紙絵をはじめとする17点の絵は、絵本『かいじゅうたちのいるところ』で知られるモーリス・センダック(19282012)の作品である。実はこの本はわが家の本棚でずっとツンドク状態になっていたのだが、それはセンダックの絵が苦手だったからだ。子どもだけでなく大人も56頭身に描かれていて、しかも顔つきや目つき、全体の雰囲気がかなり不気味で。それが今回、捨てる前に一度だけ、と思って目を通してみたところ、この内容にはこの絵しかないと思えるほどのすばらしい絵であることがわかり、「食わず嫌い」を反省したのだった。センダックさん、ごめんなさい。(2018.6.28読了)


by nishinayuu | 2018-10-03 14:26 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


c0077412_10251653.png『天使未満の人たち』(バーバラ・ピム)

この作者は教会を核にした穏やかなコミュニティーの日常を描くことが多いのでそのつもりで読み始めると、ちょっと面食らう。冒頭に描かれているのはオクスフォード大の人類学者たちが集うパーティーの場面なのだ。時は春4月の夕べ、所は人類学の重鎮Felix Byron Mainwaringの名を冠したFelix’s Folly――ゴシック風の模造廃墟で23号の建物である。集まったのは上記のメナリング、主任教授のフェアファクス博士、パトロネスのミニー・フォーサイト、秘書のエスター・クロウヴィス、アフリカ語のエキスパートであるガートルード・リギット等と、会場の図書室にたまたま居合わせた学生たち――1年生のディアドゥリ・スワン、3年生のマーク・ペンフォウルドとディグビィ・フォクス。

続く第2章の舞台は、ロンドンはリージェント・パークのぱっとしないフラット。3部屋にキッチンとバスルームのこのフラットの主は小説家のキャスリン・オリファント。同居人である前途有望の若き人類学徒トム・マロウズはアフリカのフィールド・ワークを終えて来週、2年ぶりに帰ってくる予定。トムの家はシュロプシャーの大地主だが、家族はトムが人類学を専攻したことに失望している。母方の叔父のように植民地行政官になる道もあるのに、と。家族や親戚のいないキャスリンは、トムの母親やハロッズのお得意様の姉妹と知り合いになれたら、と思っているが、トムは結婚ということに思い至らない様子。トムの後輩のディグビィはそんなキャスリンの心を読んで優しく接する。

3章の舞台はディアドゥリ・スワンが家族といっしょに住んでいる、ピカデリー・サーカスからバスで1ペニーの所にある家。ここでやっとこの作者の定番の人々――教会の仕事が好きな中年の姉妹――ディアドゥリの母メイベルと結婚経験のない姉のローダが登場する。メイベルとローダの姉妹とメイベルの息子マルコムの三人が夕食のテーブルに着いた頃、ディアドゥリはバスで家に向かっている。翌日のランチタイムにディアドゥリは「貴族的で明るい灰色の瞳の青年」トムに声を掛けられて一目惚れすることになるのだが、この日はまだそれを知らない。この話は次の第5章で語られる。

そして第5章。スワン家の隣には長年トムの研究を指導してきたアラリック・リギットが住んでいる。ガートルードの兄であるアラリックは、自分は失敗者だ、なぜなら植民地行政官だった11年の間に相応の地位を得ることもできなかったし、人類学や言語学の分野でもこれといった成果を上げられなかった、と考えている。偏屈な変わり者で、人に顔を見られたくないからと仮面を付けて庭を歩き回るし、11年間の研究ノートをトランクにしまい込んでいて誰にも見せようとしない。世間に一つだけ知られているのは皮肉なレビューを書くライターであること。几帳面なアラリックは出版社に送る原稿を封書に入れたあと、目覚まし時計を600にセットして床につく。翌朝、ローダがその目覚ましの音で目を覚ます。

こんな具合に主要人物たちが紹介されていき、続く6章から最後の23章まで、人類学者たちの権謀術数に未来の学者たちの恋愛が絡んだ物語がテンポよく展開していく。

2018.5.26読了)


by nishinayuu | 2018-08-14 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)


c0077412_11421960.jpg『闖入者』(モンロー)

本作は『サキ全集』の「TheToys of Peace」の1編。

舞台は東部カルパチア山地にある広大な山林。狩猟に適した野獣の宝庫であるこの山林は、かつて所有権をめぐって裁判が行われ、大地主のグラドヴィツ家が正統な所有者として認められた。しかし訴訟の相手だった小地主のズネーム家はその裁判結果を受け入れず、両家は3代にわたって争い続けている。その争いは今や土地争いの域を超えて、互いに相手の不幸を願うという個人的憎悪にまで発展している。

ある冬の夜、グラドヴィツ家の当主はライフルを手にして、数人の部下とともに領地の外れをパトロールしている。彼が耳を澄まし、目を凝らして待ち構えているのは野獣ではなく、ズネームとその部下たちだ。風の強い夜なのに、いつもなら茂みに隠れているはずの牡鹿たちが駆け回り、眠っているはずの獣たちもなぜか落ち着かないのは、密猟者が入り込んでいるからに違いないのだ。今日こそは決着を付けてやる、という思いでグラドウィツは、部下を山の上に潜伏させて、一人で麓の深い森に降りていく。そして、いきなりズネームと出くわしてしまう。ズネームも部下と離れて一人きりだった。

二人は銃を向け合ってにらみ合うが、やはりそう簡単には発砲できずにためらっているうちに、風に煽られて倒れてきた橅の大木の下敷きになってしまう。二人とも怪我をして身動きもできないまま、このときとばかり積年の憎しみをぶつけ合う。が、やがてどちらも部下たちの助けを待つしかない身であることに気づくと同病相憐れむ気持ちが起こる。徐々に相手への憎しみは薄れていき、ついには仲直りをして世間を驚かせてやろう、ということで一致するに至る。

そこで二人は声を合わせて部下たちを呼ぶ。どちらの部下が先に来ても、まず相手を助けさせてから自分も助けてもらう、と心に決めて。やがて遠くにいくつかのシルエットが浮かび上がり、こちらに向かって力強く走ってくるのを目にしたグラドウィツは、目に怪我をして何も見えないズネームに、9人か10人のようだ、と教える。じゃあ、そっちの部下たちだな、こっちは7人しか連れてきていないから、とズネーム。が、近づいてくるシルエットを見つめていたグラドウィツは、いきなりばかのように笑い出す。恐怖に戦慄しながら。

巧みな語り口とブラックな結末という「サキらしさ全開」の作品。(2018.4.13読了)


by nishinayuu | 2018-06-05 11:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


c0077412_15483053.jpg本作は1963年に4巻本として発行された短編集の第4巻に収録されている。(今回読んだのは1980年代発行の版。)

舞台はオーストラリア領の木曜島。ニュージーランド島とオーストラリアの間にあるトレス海峡に位置する小島で、キャプテン・クックが木曜日に発見したことから名付けられたという。

語り手はその島が「神の作った最後の土地」だと聞いて、シドニーから日本の貨物船「シカ丸」に乗って出かけて行った。「何もないところだよ。それに、喉をかき切られるかもしれない」とシドニーの連中にからかわれたけれど。夜中に真っ暗な海岸に下ろされ、数マイル歩いてやっと「ホテル」にたどり着いた翌日、語り手はキャプテン・バートレットという船乗りと知り合う。語り手が、フランス語もわかる、と言うとバートレットが、フレンチ・ジョウに会いに行こう、フランス語がしゃべれるのを喜ぶだろうから、語り手を誘う。そうして訪ねていった病院で、93歳のフレンチ・ジョウは語り手に、波瀾万丈の生涯の物語を語り聞かせる。

ひとりの男の「波瀾万丈の生涯」が2ページ弱の紙幅におさめられているところが強く印象に残る短編である。

ところで、夜中にやってきた語り手にホテルのおかみが「I’ll makeup the bed before you can say Jack Robinson」 と言う場面がある。「before you can say Jack Robinson」の意味は前後関係から「すぐに、あっという間に」だとわかるが、Jack Robinsonって何者?と思って調べてみました。が、何者かは判明していない、ということしかわかりませんでした。18世紀頃から使われている慣用句だそうです。

2017.12.6読了)


by nishinayuu | 2018-01-31 15:49 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

私の10冊(2017年)

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☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。

☆画像は「ふたつの海のあいだで」です。


「私の10冊」

聖ペテロの雪(レオ・ペレック、訳=垂野創一郎、国書刊行会)

イザベルに 曼荼羅(アントニオ・タブッキ、訳=和田忠彦、河出書房新社)

植物たちの私生活(李承雨、訳=金順姫、藤原書店)

The Buried Giant (KazuoIshiguro, Vintage)

冬の灯台が語るとき(ヨハン・テオリン、訳=三角和代、早川書房)

ぼくが逝った日(ミシェル・ロスタン、訳=田久保麻里、白水社)

ふたつの海のあいだで(カルミネ・アバーテ、訳=関口英子、新潮クレストブックス)

あの素晴らしき七年(エトガル・ケレット、訳=秋元孝文、新潮クレストブックス)

ジヴェルニーの食卓(原田マハ、集英社)

黄昏に眠る秋(ヨハン・テオリン、訳=三角和代、早川書房)


「お勧めの10冊」

회색 문헌 (강영숙, 문확과지성사)

書店主フィクリーのものがたり(ガブリエル・ゼヴィン、訳=小尾芙佐、早川書房)

The Sheep (H. H. Munro,Doubleday & Company Inc.)

妻は二度死ぬ(ジョルジュ・シムノン、訳=中井多津夫、晶文社)

A Woman of No Importance(Oscar Wilde)

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹、文藝春秋)

ゴリオ爺さん(バルザック、訳=中島英之、青空文庫)

チェーホフ短編集(編=沼野充義、集英社)

地図のない道(須賀敦子、新潮社)

人生の段階(ジュリアン・バーンズ、訳=土屋政雄、新潮クレストブックス)


by nishinayuu | 2018-01-02 17:09 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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本作は1963年に4巻本として発行された短編集の第4巻に収録されている。(今回読んだのは1980年代発行の版。)


舞台はシャム王国。シャムの王様は二人の娘に「夜」と「昼」という名を付けたが、娘が4人に増えたので最初の二人の名前を変えて、4人を「春」「夏」「秋」「冬」と呼ぶことにした。そのあとまた3人の娘が生まれると、全員を曜日の名で呼ぶことにした。そして8人目が生まれたとき、はたと困った王様は12ヶ月の名で娘たちを呼ぶことにした。王様は極めて規律正しい精神の持ち主なのだった。そのあと生まれたのがこの物語の主人公で、王様の決めた規則に従って「9月」と名付けられたセプテンバー王女だ。

さて物語は、何度も名前を変えられてちょっと性格がねじれてしまった姉たちと違って、かわいくて優しい子に育ったセプテンバー王女が、まどから飛び込んできたナイチンゲールとなかよくなって……という、まあよくある展開になっている。

8ページ余りのごく短い話なので、あっという間に読める。読みどころは、物事がすべて規則的になっているシャムの王室の様子と、決して暴君ではないのになにかというと「首を撥ねる」ことで物事を解決しようとする王様、という「異国情緒」だろうか。(「王様と私」と同じように、シャムが「ちょっとへんてこな」国として描かれているわけです。)

ところで、手許の本は長年放置しておいたため紙面の黄ばみが進んだ古い版で、使われている活字がとても小さい。日本語や韓国語だったら読もうと思っても読み取れそうもない大きさである。それなのに、英語の活字は読み取れる。漢字やハングルに比べると、アルファベットというのは本当によくできた文字である、と改めて思った。(2017.10.5読了)


by nishinayuu | 2017-12-10 11:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu