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c0077412_06323351.jpgDie Karawane』(Wilhelm Hauff, 1825

本作は隊商を構成する商人たちが語る数編の数奇な物語と、それらをつなぎ合わせる一つの大きな物語という形になっている。カイロに向かって沙漠を横切っている商人たちは、日差しのきつい昼の間に身体を休め、涼しい夜間に歩みを進める。途中で一行に加わった客人の提案で、商人たちは休息の間の退屈しのぎに、ひとりずつ物語を語ることになる。さて、それらの物語と語り手は――

*コウノトリになったカリフの話(セリム・バルフ、途中で加わった客人)

*幽霊船の話(アハメット、バルゾラの老商人)

*切り取られた手の話(ツァロイコス、ギリシアの商人、赤マントの男のせいで左手をなくしている)

*ファトメの救い出し(レザー、アカラの商人、盗賊オルバザンに助けられたことがある)

*小さいムクの話(ムライ、若くて陽気な商人、ニケア出身)

*偽りの王子のおとぎ話(アリ・ジツァー)

商人たちは沙漠の王者である盗賊オルバザンを怖れていて、ときどきその名が話題に上る。一度などはオルバザン一味に襲われそうになったが、なぜか一行のひとりが持っていた旗をテントに掲げたおかげで難を免れる。この、なんとなくおぞましい響きの名をもつ盗賊の正体が、最後の最後に明かされて、おどろおどろしい物語が人情味溢れる物語として幕を閉じる。

この作品には特別な思い出がある。家族みんなが読み終えたと早とちりした私が「〇〇がオルバザンだったなんてね」と言ったら、小学生だった長女が叫んだ。「えー!まだ最後まで読んでないのに!」。それ以来わが家では作品の結末をばらしてしまうことを「オルバザンする」と言うようになり、今でも普通に使っている。2018.5.14読了)


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by nishinayuu | 2018-07-30 06:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


c0077412_13411957.jpg『私の文化遺産踏査記9---ソウル編1』(兪弘濬、創作と批評社)

1993年に「南道踏査一番地」から始まった兪弘濬の文化遺産踏査記は、済州島、北韓、日本を経てついに大韓民国の首都ソウルに突入。本書は日本編4編をのぞくと第9巻目、日本編を入れると第13巻目となる。ソウル編その1である本書において著者は、寺刹の都市・京都、庭園の都市・蘇州に対する宮闕の都市・ソウルの魅力を語り、朝鮮建築の美と朝鮮王朝の王族たちの暮らしと哀歓を、誇りと情愛を籠めて綴っている。なお、本書のサブタイトルとなっている「萬川明月主人翁」は昌徳宮の尊徳亭に掲げられている正祖の文からとられたものだ。

本書は4部構成で、各部のタイトルと内容は次のようになっている。

*1部「宗廟」――宗廟(宗廟礼讃、宗廟建築の美と宗廟の意義)/宗廟祭礼(宗廟祭礼の楽「保太平」と「定大業」、世宗大王の絶対音感など)

*2部「昌徳宮」――敦化門から仁政殿まで(ソウルの五大宮闕紹介、「東闕図」、禁川橋、仁政殿、「倹而不陋 華而不侈」など)/宣政殿と煕政堂(昌徳宮の構造、賓廳と御車庫、儒教イデオロギーと経筵など)/大造殿と誠正閣(大造殿の花階、喜雨楼など)/楽善齋(楽善齋の扁額、李王家の女人たち、李玖とジュリアなど)

*3部「昌徳宮後苑」――芙蓉亭(芙蓉池、四井記碑閣、暎花堂、茶山・丁若鏞)/奎章閣 宙合楼(魚水門、正祖と奎章閣、『奎章總目』、檀園・金弘道など)/愛蓮亭と演慶堂(不老門、倚斗閤の寄傲軒、孝明世子の「倚斗閤上棟文」、魚水堂、演慶堂、春鶯囀」)/尊徳亭と玉流川(後苑の亭子、萬川主人翁、流觴曲水、朝鮮最後の梓宮、樹齢700年のイブキなど)

*4部「昌慶宮」――外朝と治朝(明政殿、弘化門と英祖の均役法、鋳字所、思悼世子と正祖など)/内殿(涵仁亭、歓慶殿、景春殿と正祖・純祖の記文、仁顕王后と張禧嬪、内命婦の女人たち、集福軒など)/昌徳宮から昌慶苑へ(慈悲慶殿、惠慶宮と『閑中録』、風旗台、仰釜日晷、春塘台の観徳亭など)

なお、『文化遺産踏査記』シリーズは累積販売部数が380万に達し、韓国人文書籍では初めてのミリオンセラーになっているという。2018.5.12読了)


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by nishinayuu | 2018-07-25 13:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)


c0077412_10060638.jpg『The Girl on the Train』(Paula Hawkins)

(上巻からの続き)

本作ではレイチェル、メガン(ジェスの本名)、アナの三人が交代に登場してそれぞれの過去と現在を語っていく。時間的には201375日(金曜日)から910日(火曜日)までの期間に、1年前の2012516日から2013713日(土曜日、メガンが失踪した日)までの期間が並行して綴られる形になっている。

はじめのうちは主人公がアルコール依存症ではた迷惑なダメ女なのであまり共感できず、男たちがあまりに寛大で優し過ぎるのにも違和感があって、作品世界にすんなり入り込めない。そこを乗り越えると話は徐々に好調な展開を見せ、やがて敵同士だった二人の女性が心を合わせ、自分たちを苦しめた嘘つき男、もう一人の女性を死に追いやった酷い男を追いつめることになる。ヒロインがアルコール依存症を克服するというおまけが付くのもいい。

上巻の裏表紙には「絶望と闇を抱える女性三人の独白で描く、サイコスリラーの傑作!」とあり、下巻の裏表紙には「世界で絶賛された英国ミステリー、驚愕の結末!」とある。たしかに「驚愕の結末」であり、フィクションならではの「痛快な結末」でもある。

☆2013713日、メガンの頭の中に響いているのは「マザー・グース」のカササギの歌。

Magpie, magpie,flutter and flee,/Turn up your tail and good luck come to me./ One for sorrow,two for joy,/ Three for a girl, four for a boy,/ Five for silver, six forgold,/ Seven for a secret ne’er to be told.

(2018.4.30読了)


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by nishinayuu | 2018-07-20 10:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


c0077412_10231902.jpgThe Girl onthe Train』(Paula Hawkins

物語はレイチェルの視点で語られる部分から始まる。レイチェルは804のアシュベリー発ユーストン行きの各駅停車に乗っている。老朽化の進んだ線路を這うように進む電車の窓から、レイチェルは線路沿いを流れていく家並みをぼんやりと眺める。そこにすむ住民たちにさえ馴染みのないアングルから、なんの縁もゆかりもない人々の日常を見ていると、レイチェルは不思議と心が落ち着くのだった。

ロンドンまでの道のりの中間あたりに信号があり、電車はほぼ毎日ここで停止する。すると線路脇の住宅の中でレイチェルがいちばん気に入っている15番地の家がちょうど見える。レイチェルはその家に住む夫婦にジェイソンとジェスという名前を付ける。整った顔立ちのジェイソンは背が高く、頼りがいがあり、思いやりに満ちている。金髪をショートカットにしたジェスは小鳥のように華奢な美人。ふたりは理想的なカップルで、彼らを見ていると幸せぶりが伝わってくる。二人は5年前のトムとレイチェルそのままだった。あの二人になりたい、とレイチェルは思う。

15番地の家から4軒先に、レイチェルがトムと5年間暮らしたブレナム・ロード23番地の家がある。この家を見ると自分が傷つくことはわかっているのに、レイチェルはつい見てしまう。見ずにはいられない。そこには今、トムと新しい妻のアナが住んでいる。帰路も電車の中から幸せそうな二組の夫婦の住む家を見る。そしてアシュベリーの家に戻るとレイチェルは、惨めさと絶望感に打ちのめされてアルコールにおぼれる。そんなある日、新聞がメガンという女性の失踪を顔写真付きで報じる。写真の女性はレイチェルがジェスと名付けた15番地の女性だった。(下巻へ続く)

2018.4.29読了)


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by nishinayuu | 2018-07-15 10:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

翻訳練習 課題12


2017年度後期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。2018.1.1529

名詞20-侵食

意味:(自然現象としての침식、(比喩的表現としては잠식하다, 서서히 삼키다, 서서히 장악하다, 서서히 빼앗다 등

原文1:近年、海岸侵食が急速に進行し、海辺の良好な環境を損ない、海辺の利用に影響を与えている。

訳文:최근 해안침식이 급속히 진행되면서 해변의 양호한 환경을 훼손하고 해변이용에 나쁜 영향을 주고 있다.

原文2:新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などのメディア業界が持っている影響力は、インターネットによって侵食されつつある。

訳文:인터넷으로 인해 신문, 텔레비전, 라디요, 잡지 등 미디어 업계의 영향력이 쇠되하고 있다.

原文3:新技術が創出する新市場はしばしば既存市場を侵食し、優良企業の地位を危機に陥れる場合がある。

訳文:신기술이 창출하는 새로운 시장은 종종 기존 시장을 잠식하고, 유양기업의 지위를 위기에 빠뜨리기도한다.c0077412_09250465.jpg

原文4:太陽が沈み、巨大な町は徐々に闇に侵食されていく。

訳文:태야이 저물고, 거대한 도시는 서서히 어둠에 물든다.

名詞21-~力(りょく)

意味と用法:名詞について力や能力を表す。

原文142.195という距離を、体力の限界を感じながらも気力だけで最後まで走り抜けた。

訳文:42.195km라는 거리를 체력의 한계를 느끼면서도 정신력만으로 끝까지 달렸다. (기력は身体的な力の意味で使う。「走り抜けた」を달려 냈다とすると韓国語としては不自然。)

原文2:若者の雇用情勢が厳しいのは、近年の厳しい経済情勢や即戦力となる労働者を求めるという企業の採用行動の変化などが背景にある。

訳文:청년 고용 상황이 어려운 이유는 최근 경제 정세가 좋지 않은 데다 기업에서 실전 능력을 갖춘 근로자를 원하는 채용 행태가 변화되었기 때문이다. (即戦力を直訳しないこと。「労働者」は一般に肉体労働者を指すので、ここでは働く人全般を指す「勤労者」とする。)

原文3:当社では、たとえ安価な商品であっても一定以上の品質を保つことに精力を傾けています。

訳文:당사는 비록 저렴한 상품일지라도 일정 수준 이상의 품질을 유지하도록 힘을 기울이고 있습니다.

原文4:人生を生きる上で、本当に必用なことは「学力」よりも「人間力」である。

訳文:인생을 살아가는 데에 진정으로 필요한 것은 학력 아니라 인성이다.

(‘인성は漢字で書くと「人性」。「人間としての品位や品格」といった意味あいで韓国語ではよく使われる。ところで原文の「人間力」って日本語として不自然では?)


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by nishinayuu | 2018-07-10 20:31 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)


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Dieversunkene Glocke』(Gerhart Hauptmann1896

著者はドイツのシュレージェン州生まれの劇作家(18621946)。代表作は『はたおりたち』(自然主義的群衆劇)、『海狸の外套』(ドイツの三大喜劇の一つとされる)、『ハンネの昇天』(ロマン主義的傾向が現れ始めた作品)など。


本作は『フローリアン・ガイアー』(自然主義的群衆劇で、不評に終わった失敗作)と同じ年に初演されたもので、五幕の「ドイツ童話劇」と銘打たれたロマン主義的作品である。主人公ハインリヒが妻子を捨て、妖精めいた乙女のラウテンデラインにめろめろになるという設定や、そこここにみだらな台詞や仕草が出てくるので、これが「童話劇」?と思わないでもない。が、妖精やら小人たちが登場する森の雰囲気は幻想的で、子どもにも楽しめそうではある。登場人物は以下の通り。

*村の住人――ハインリヒ(鐘造り師)、マグダ(妻)と子どもたち、牧師、教師、床屋。

*山の住人――老婆(ウィッチヒェン)、ラウテンデライン、水の精ニッケルマン(年老いた男の妖精)、森の神(山羊足、山羊鬚で角の生えた男の妖精)、妖精たち、小人たち。

美しい音色の鐘を作ろうと苦悩する一方で妻子がありながらラウテンデラインに惹かれるハインリヒには、自然主義とロマン主義のあいだで、また妻マリーと若い愛人マルガレーテとのあいだで苦悩していたハウプトマン自身が投影されていると思われる。この作品は日本では非常に愛好され、泉鏡花などにも影響を与えたという(納得!)が、現在ドイツではほとんど評価されていないという(これも納得)。

2018.5.10読了)


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by nishinayuu | 2018-07-05 09:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu