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カテゴリ:読書ノート( 1192 )

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While the Sun Shines』(Terence Rattigan

本作は3幕ものの戯曲で、19431224日(クリスマスイヴ)にGlobe座で上演されている。



登場人物は

*ハーペンデン伯爵――ボビー。234歳。ちょっと華奢な感じだがハンサム。士官になる面接を受ける必要があって、婚約者とよく知らない男たちを残して家を空ける。

*ホートン――ハーペンデン卿の執事。50歳位。やせていて陰気な表情。両親はアメリカ人。

*エリザベス・ランドール――ハーペンデンの婚約者。WAAF(空軍婦人補助部隊)の伍長。男は父親しか知らないという娘で、同じ家で過ごすはめになった男たちに惑わされ、結婚に迷い出す。

*マルヴェイニー中尉――ジョー。20代後半のアメリカ人。酔っ払ってハーペンデン家にかつぎこまれ、そのまま泊まることに。エリザベスに好意を抱く。

*コルベール中尉――エリザベスが列車で乗り合わせたフランス人。エリザベスの好意でハーペンデン家に泊まることに。ハーペンデンを「fade とろい」と評する。エリザベスに好意を抱き、ハーペンデンとの結婚に反対する。

*スターリング公爵――エリザベスの父。55歳。ギャンブル好き。エリザベスの結婚によってハーペンデンから金銭的援助が引き出せると期待している。

*メイベル・クラム――娼婦。ハーペンデンもスターリングも客。ハーペンデンとも「下心」なしに付き合ってきた「優しくて純情な」女性。公爵の思い込みのおかげで、名流夫人にのし上がるチャンスを手に入れる。

舞台はロンドンのオールバアニー(ピカデリーの外れ)にあるハーペンデン卿の居間。登場人物全員がはち合わせし、ハーペンデンとエリザベスの婚約がなかったことになりそうになるが、結局は予定通り結婚することになる。マルヴェイニーとコルベールは結婚式の付き人の地位を賭けてサイコロゲームを始め、公爵とハーペンデンまで、彼らのどちらが勝かに賭け始め、勝負がつかないまま幕が下りる。

1幕でマルヴェイニーが暗誦したバイロンの詩の一節(夜が更けてきた。/ もうさまよい歩くのはやめよう/ だけど心は、君を思って…/ だって間だ、月があんなに明るいじゃないか)の原文は

  So we’ll go no more a-roving/So late into the night,/ Though the heart be still as loving,/ And the moon bestill as bright

2019.5.28読了)


by nishinayuu | 2019-08-05 09:53 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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英題『Killing Commendatore』、サブタイトル『遷ろうメタファー編』。ちなみに第Ⅰ部のサブタイトルは『顕れるイデア編』。

本編で語り手は、人生を終えようとしている雨田具彦のもとに赴き、彼が『騎士団長殺し』にこめた思いを知ることになり、騎士団長のアドヴァイスによって「騎士団長殺し」を決行する。そしてその結果、語り手は具彦の病室の床から続く地下の路を辿ることになるのである。この異次元の地下道で語り手は様々な選択を迫られるのだが、その一つが川の右手に行くか左手に行くか、というものだった。ここで巻Ⅰにあった免色のことば「右か左かどちらかに行けと言われたら、いつも左を取るようにしています」が生きてくる。この地下道の先に何があるのかは読者には容易に予想できるのだが、それでもかなりドキドキ、ワクワクさせられる。

この部分だけでなく、物語の流れが平易な文で綴られていてとても読みやすく、予想以上に楽しく読めた。ただし、免色とは結局何者なのかなどなど、読み終えてもなんとなくすっきりしないものは残る。軽音楽や文学作品に関する言及なども、全部を理解するのは無理。この作者は硬軟どちらの方面にも強く、ペダンティックでもある、言ってみれば「蘊蓄派」の作家なのだから、わかる部分だけ、おもしろいと思う部分だけを読めばいいのではないだろうか。英語のタイトルで、騎士団長をイタリア語にしていること、語り手に「『悪霊』の登場人物の長い名前を、キリーロフを含めて七人まで思い出すことができた」と言わせていることなどは「おもしろい」ことの一部である。

さて、平易で読みやすい文なのに、ちょっとひっかかる文に出くわすこともある。重箱の隅ではあるが、心覚えのためにメモしておく。

*私は彼女を慰め、何かわかったらすぐに教えてほしいと言った。そうすると彼女は言った。(「そうする」のあとに読点がほしい。)

*人妻のガールフレンド(「ガールフレンドの人妻」のほうがいいような)

*体を突っ張って、地上に引きずり出されるまいとした。(「引きずり出されまい」)

*口にするべきうまい言葉が見つからなかった。(「口にすべき」――この作者は「べき」の前の活用形が一定していない)

2019.4.23読了)


by nishinayuu | 2019-07-31 09:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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2年前のベストセラーをやっと図書館で借りることができた。2年前にすぐに読んだ友人から「おもしろいと評判の本はやっぱりおもしろい。感想文を書いたのでそれについてコメントを聞かせてほしい」という手紙を受け取っていた。そんな気の重い宿題がやっと果たせそうで、ホッとしている。

さて本作は、小田原郊外の山荘に住むことになった36歳の画家が、『騎士団長殺し』という絵にであったことから始まった不思議な体験を物語るという形で展開する。語り口は平明であり、クラシック音楽がBGMとなっているのも心地よいが、車やらグルメに関する言及も多くてちょっとめんどうでもある。また、〇〇の描写も必要以上に多い気がするが、語り手が30代の独り身の男性という設定なのでまあ許そう。この先の展開が読めないので、今は「登場人物」と「気になったことば」をメモしておくに留める。

[登場人物]

*雨田具彦(山荘の持ち主。高名な日本画家だが今は高齢者施設に入居している)

*雨田政彦(語り手の友人。具彦の息子)

*ユズ(語り手の別れた妻)

*まりえ(12歳の少女。語り手のためにモデルを務める)

*コミチ(12歳で死んだ語り手の妹)

*免色(向かいの山上にある豪邸に住む男性。語り手に肖像画を依頼する)

[気になったことば]

*「ちなみに私は左利きです」と免色はふと思い出したように言った。「なにかの役に立つかどうかわかりませんが、それも私という人間に関する情報のひとつになるかもしれない。右か左かどちらかに行けと言われたら、いつも左を取るようにしています。(後略)」

*……可能性として示唆されていた非現実生が、免色の言葉によって現実のものとなり、そのせいで世界の合わせ目にかすかなずれが生じてしまった……(14章)Hamletの次の句節が思い浮かぶ。

The time is out of joint(1.5.189, Hamlet)

村上春樹は最初に読んだ『ノルウェーの森』に嫌悪感を覚え、それ以来、読まず嫌いの時期が長く続いた。『IQ84』が出たとき、ジョージ・オーウェルの『1984』との関連に興味を覚えて読んでみたら、実におもしろかったので、嫌悪感は解消された。『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』もおもしろく読み、エルサレム賞受賞記念のスピーチには大いに好感を覚えた。ただし、これまでに読んだ作品は以上の3作(今のところ2.5作)だけなので、好きな作家と言えるところまではいっていない。

2019.4.14読了)


by nishinayuu | 2019-07-26 09:04 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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Coбачье сердце・Роковые ЯЙца』(МихаилБулrаков)

『犬の心臓』は人間の下垂体を移植された犬のコロが、劣悪な人間コロフに変身する物語。『巨匠とマルガリータ』で知られるブルガーコフ(18911940)が1926年に書いたものだが、検閲によって発禁となっている。「新しい人間の創造」という夢の実現のために邁進する共産主義理論家たちによる「革命という名の実験」が悲劇的結末を迎えるであろうことを予見している作品だからだ。ところで、移植されたのは脳の「下垂体」なのに、タイトルが犬の「心臓」なのはなぜなのだろうか。

登場人物は以下の通り。

*コロ――人間の下垂体(人間らしい外見を作り出すホルモン)を移植されたせいで人間化した犬。

*フリップ・フィリーパヴィチ・プレオブラジェンスキー教授――移植をした医師。

*ボルメンタール(イヴァン・アルノルドヴィチ)――助手のドクター。

*ジーナ(ジナイダ・ブーニナ)――教授の家の小間使い。

*ダリア・ペトロヴナ――料理番。

*フョードル・パヴロヴィチ――守衛。

*シュヴォルデン――住宅管理委員会の委員長。

クリム・グリゴーリエヴィチ・チュグンキン――25歳で独身の党のシンパ。居酒屋のバラライカ弾き。前科2犯でアル中。心臓を刺されて死亡し、下垂体をコロに提供することになる。

『運命の卵』は近未来を舞台にしたパニック小説。物語は19284月にモスクワ動物学研究所で、ペルシコフ教授がプレパラートに「赤い光線」を発見したところから始まる。その赤い光線の中ではアメーバが活性化して成熟し、新しい生命体になっていた。伝統の赤い光線を捕らえるボックスを作って蛙の卵に光線をあててみると、何千匹ものオタマジャクシが孵化し、24時間でカエルとなり、2日後には光線を宛てなくても新しい世代が生まれた。すなわち教授は「生命の光」を発見したのだ。

同じ年の8月、アレクサンドル・セミョーノヴィチ・ロックが公文書を持って教授の許を訪れる。モデル・ソフホーズ「赤い光線」の農場長のロックは赤い光線のボックス3つを持って立ち去り、スモレンス県のソフホーズに据え付ける。ドイツから「卵」が届く。すると翌朝、村の林から鳥がすべて北へ飛び立った。昼には雀がソフホーズの中庭から消え、晩には池が黙り込み(蛙が死に絶え)、犬たちが吠えはじめ、ボックス装置から卵をつつく音がした。翌朝、巨大な蛇が現れて、ロックの妻マーニャが襲われて食われてしまった。ソフホーズで大蛇が大変な勢いで繁殖し始める。ペルシコフが注文したアナコンダの卵がソフホーズに送られてしまったのだ。さて、ソフホーズの運命やいかに。

訳者の注によると、ロック(赤い光線のボックスをソフホーズに持ち込んだ人物)という名にはロシア語で「運命」の意味があるという。本書の訳注は本文と同じくらいの読みでがある。(2019.4.7読了)


by nishinayuu | 2019-07-16 13:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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本書は「クリフトン年代記」の第3巻で、邦訳は『裁きの鐘は』というタイトルで新潮社から出ている。

各章がそれぞれ別の人物の視点から語られる形は12巻と同じだが、この巻の場合は各章に時代の重なりはほとんどなく、年代順に物語が綴られていく。実在の人物・歴史上の出来事・慣用句・ことわざなどなどが随所に嵌め込まれているのがこの作品の魅力のひとつと言える。さらに、大筋には影響なさそうなエピソードがいろいろ盛り込まれていること、端役の人物も名前や性格がきちんと与えられてそれなりに活躍していることなどがこの作品をいっそう魅力的なものにしている。各章の中心人物と年代、内容は以下の通り。

*序章――大法院でジャイルズがヒューゴ・バリントンの跡継ぎと認定され、ヒューゴとハリーの父子関係は不問にされる。〈色盲はいわゆる劣性遺伝なので、父子に続けて色盲が顕れるのは異例であることはさておいて、前巻で父子関係決定の重要なヒントとしていたことをスルーしていてズルイ!〉

*1章ハリー・クリフトンとエマ・バリントン(1945-1951)――ハリーとエマは結婚。ハリーがヒューゴの息子かもしれないので子どもはセバスチャンだけにすると決めて。ジャイルズとハリーは親友のまま。ハリーは米国の出版社からの招請でニューヨークへ。エマはヒューゴが捨てた女性の娘を探し出し養女にする。エマはバリントン海運の経営に参加するためにスタンフォード大学の通信教育に登録。

*2章ジャイルズ・バリントン(1951-1954)――母のエリザベス死去。ヴァージニア・フェンウィックと結婚。ジャイルズは労働党議員に当選(首相は保守党のチャーチル)。ヴァージニアがエリザベスの遺書は無効だと主張。しかしエリザベスはクロスワードパズルによって、死の間際まで「compos mentis健全な精神」状態だったことを証明していた。ヴァージニアはこの後バリントン家と縁を切ることに。

*3章アレックス・フィッシャー(1954-1955)――軍隊時代のことでジャイルズを逆恨み。ヴァージニアと組んでジャイルズの政治生命を絶とうと画策し、バリントン海運に入り込む。バリントン海運の新会長ロス・ブキャナン、ジャイルズ、エマの三人はフィッシャーの動きを警戒。

*4章ジャイルズ・バリントン(1955)――ブリストル・ドックランズ選挙区の代表者選挙。候補者はフィッシャー(保守党)、エルズワーシー(リベラル)、ジャイルズ(労働党)の三人。開票のチェックを手伝っていたセバスチャンがフィッシャー側の不正を発見し、結局ジャイルズが当選する。〈選挙や開票の流れが細かい数字とともに実に詳細に語られている。〉

*5章セバスチャン・クリフトン(1955-1958)――ブルーノ・マルティネス、ヴィク・カウフマンとともにケンブリッジの奨学生候補になる。食堂の従業員ルビーとデートを重ねる。規則違反で停学になるが、共犯のブルーノとヴィクのことは黙秘。ブルーノの父ドン・ペドロはそれをso Britishだとセバスチャンに感謝し、小遣い稼ぎ(実は危ない運び屋)の仕事に誘う。祖父は貴族、伯父は国会議員というblue bloodで、運び屋にされたとは知らないセバスチャンは、マルティネスにとってはbestkept secretだった。彼が危ないことに巻き込まれたことを知ったジャイルズが港に駆けつけたときは手遅れだった。

*6章ハリー・クリフトン(1958)――内閣官房長官とハリーたちの作戦会議。国際詐欺師マルティネスの経歴。セバスチャン奪還とマルティネスの妨害のためにハリーがアルゼンチンへ飛ぶ。英国大使館のガーデンパーティー。

*7章セバスチャン・クリフトン(1958)――マルティネスの「荷」をサザンプトンで受け取った時点でセバスチャンの仕事は終了。その「荷」には大金が仕込んであったのだがマルティネスはそれを手にすることができなかった〈この部分が本書の山場〉。大損害を蒙ったマルティネスは英国政府とクリフトン、バリントン一族のせいだと確信し、報復としてまずセバスチャンを亡き者にしようと、彼の乗った車を挟み撃ちにしてつぶすことにする。ところがその車には息子のブルーノも同乗していた。二人が進学する予定のケンブリッジ大の入学担当者は学生の父親に「あなたの息子さんが亡くなりました」と電話をかけるが、「あなたの息子さん」が誰なのかは明かされないまま、この巻は終わる。

2019.3.28読了)


by nishinayuu | 2019-07-11 10:24 | 読書ノート | Trackback | Comments(4)

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Piège pour Cendrillon』(Sebastien Japrisot

本作は後年の長い日曜日などの大作でも知られるジャプリゾが若い頃(1962年)に発表したもの。

そのときのキャッチコピーは「私の名はミシェル・イゾラ。/歳は二十歳。/わたしが語るのは、殺人事件の物語です。/わたしはその事件の探偵です。/そして証人です。/また被害者です。/さらには犯人です。わたしは四人全部なのです。いったいわたしは何者でしょう。」

訳者あとがきによるとこのインパクトのあるキャッチコピーは現行の版でも引き継がれており、作品自体もミステリファンの心をとらえ続けているという。

もう一つ目を惹くのが各章のタイトル――わたしは殺してしまうでしょう/わたしは殺しました/わたしは殺したかもしれません/わたしは殺すでしょう/わたしは殺したのです/わたしは殺します/わたしは殺してしまいました。なんだかおちょくられているような感じがしないでもないが、それでも読まずにはいられない、という気持ちにさせられ、読み始めると止まらなくなり、読み終わると満足のため息が出る。ジャプリゾはやはりすごい。

登場人物は以下の通り。

*ミシェル・イゾラ――通称ミッキー。20歳。美貌に恵まれ華やかな暮らしを楽しむ娘。

*ドムニカ・ロイ――ミシェルの幼なじみ。

*アンジェラ――同上。

*ミドラ伯母さん――ミシェルの母の姉。ミシェルのミ、ドムニカのド、アンジェラのラからミドラ伯母さんと呼ばれる。ミシェルに莫大な遺産を残す。

*ジャンヌ・ミュルノ――ミシェルの後見人。ドムニカにミシェル殺し・遺産の横取りを持ちかける。

*ウランソワ・シャンス――弁護士。

*フランソワ・ルッサン――ミシェルの男友達のひとり。

*ガブリエル――ドミニカの恋人。

*セルジュ・レッポ――郵便局員。

2019.3.25読了)


by nishinayuu | 2019-07-06 09:26 | 読書ノート | Trackback(1) | Comments(0)

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The Story of a Dog and America』(Boston Teran

一風変わったタイトルに惹かれて手に取ったこの本は、その内容も一風変わっていた。各章の冒頭に「この犬をご覧」ということばで始まる導入部があるのだが、このことばを語っているのが誰なのかははっきりしない。作者のようでもあり、「神」のようでもある人物が語るこの導入部のことばが、物語に厳かな雰囲気を与えていることは確かだ。

物語自体の語り手は元海兵隊員のディーン。イランから心に深い傷を負って帰還した彼が、嵐の夜に車でケンタッキーの裏道を走っていたとき、ヘッドライトが死にかけている犬の姿を捕らえた。死にかけてはいたが、その犬「ギヴ」には生きたいという強い意志があり、人間の残虐さから自由になろうとする固い決意があり、そして後になっても消えることも衰えることもなかった善良さがあった。その夜、運命のなせる業によってギヴとであったディーンは、ギヴの旅を追うことによって様々な人々の人生に触れることになった。それは様々な人々の生きた時代を辿る旅、アメリカの歴史を辿る旅でもあった。

*主要な登場人物――アンナ(モーテルの経営者、ハンガリー移民、ギヴの本来の飼い主)/エンジェル(アンナの飼う盲目の雌犬)/イアン(ミュージシャン志望の少年)/ジェム(同左、イアンの兄)/ルーシー・ルース(イアンの恋人、ギヴの飼い主)/ストーナー(イアン兄弟の知人、音響技師)/ミズ・エル(ソーシャルワーカー、ルーシーの知人)/レイファー(ミズ・エルの息子、警官)/ランディ(ディーンの戦友)/ジョン・ヘルナンデス(ランディの父)/スリップ(ランディの弟)、トルトゥーガとビゴーテ(ランディの名付け親、ヴェトナム帰還兵)

*忘れ難いシーン――ギヴは目の前にいる人間の善良さを感知したのだった。ミズ・エルに感じたように。アンナ・ペレナに感じたように。それに、もちろんルーシー・ルースに感じたように。ギヴは少し前に身を乗り出すと、ディーンの頬を舐めた。それが彼のことばになっていた。ぼくはここにいるよ、ということばに。(犬が人の伴侶となってくれる存在であることにディーンが初めて気づいた場面。)

*印象的な句節――天地創造に際して神は地上をふたつに分けた。そのために底知れぬ深淵が掘られ、その一方の地上には人間、もう一方の地上にはそれ以外のすべての生き物が住まわせられた。ところが、深い溝が広がるのを見て、犬はその溝を跳んだ。人間と同じ地上に住むために。(物語の最後にある「犬にまつわる言い伝え」の一部)

これは犬好きの人もそうでない人も、またアメリカ好きの人もそうでない人も感動することまちがいなしの『犬とアメリカの物語』である。(2019.3.23読了)


by nishinayuu | 2019-06-25 10:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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『Чехов Њмореска Ⅱ』(Чехов)

本書には49の短編が収められており、そのうち本邦初訳が9編、検閲の日付が付記されているものが8編ある。『チェーホフ・ユモレスカⅠ』に比べるとブラックな感じのものは少ないが、どこがユモレスクなのかわかりにくい作品もいくつかある。(こちらの理解力のせいもあるでしょうが。)気に入った作品、気になった作品を記録しておく。

*二兎を追う者は一兎をも得ず――溺れた少佐と少佐夫人の両方の約束を信じて両方とも救ったばかりにとんでもない結果に。

*車内風景――ハチャメチャなロシアの汽車旅行。

*逃した魚は大きい――格好を付けたばかりに持参金付きの娘を逃がしてしまった男。

*狩猟解禁日――オトレターエフ村の人々は喧嘩をし、悪口を言い、憎み合い、軽蔑しあっているが、きっぱり別れることはできないのだ。

*牧歌「ああ」と「おお」――金の切れ目が縁の切れ目。

*おじいさんそっくり――孫息子の芳しからぬ行状は、おじいさんの血を受け継いだせい。

*わかってくれた!――身長1m10cmの超小柄な百姓が熱弁で自由を勝ち取る。

*悲劇俳優――悲劇俳優を愛してしまった娘の悲劇。

*証明書――証明書を書いてもらうには3ルーブルの賄賂が必用だと思い知らされた男。最後につい、1ルーブルのお礼まで手渡してしまう。

*マヨネーズあえ――4つのエピソード中「当意即妙」がいい。

*中傷――中傷が広まらないようにと予防線を張ったつもりが、自分で中傷を広めた結果に。

*聖歌隊――敵対していた聖歌隊指揮者と輔祭が意気投合したのは無神論者の伯爵のおかげ。

*別荘地の掟――愉快な忠告がいっぱい。

*人心の動揺――群衆の動きが活写された一幅の風俗画。

*燃え広がる炎――強い思い込みと根拠のない自信からくる饒舌が拡散していく。

*絶望した男――将棋と囲碁がごっちゃになっている?

*酷寒――ロシアの恐るべき酷寒に心身ともに凍り付く。

*川のほとり――春の情景。ジージャ川の氷の流れを筏で下る。

2019.3.11読了)
by nishinayuu | 2019-06-20 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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DOOR HET OOG VAN DE NAALD』(Willem Joekes, 2012

原題の直訳は「針の穴を通って」で、「九死に一生を得る」「一命を取り留める」の意。

著者はオランダ人で、1916年にオランダ領東インド(蘭印)中部ジャワ州のスマランで生まれた。1918年に両親とともにオランダに帰国。1937年に勤務先の日本駐在員となり、2年あまり神戸で暮らした。40年にオランダ領東インドのスラバヤに赴任。開戦時はオランダ領東インド軍の予備役少尉だった。日本軍による占領後は日本軍によって通訳を命じられたが、スパイ容疑で有罪判決を受け、日本軍刑務所で死と隣り合わせの日々を体験した。その間に妻子と離別している。戦後、オランダに帰国したが、心身ともに衰弱しきっていて、一時は死を考えたほどだった。それでも両親の許で静養したおかげで社会復帰できるまでに回復し、イギリス人女性と再婚して子どもにも恵まれた。その後はオランダ経済省勤務など順調な人生を歩んだ。本書は穏やかな老後を迎えた著者が、そこに到るまでの苦しかった人生を振り返って綴った回想録である。

7つの章のうち第2章は神戸の思い出――美しい風景、瀟洒な町並み、礼儀正しい日本人たち――が綴られている。中にはオランダ人のチェベ・マースという偉丈夫と美しい妻、妻の恋人で退役外交官のフランス人にまつわる、これだけで一つの小説になりそうなエピソードもある。

ところで本書には、インドネシアの人々を対等の人間とは見做していない感じの描写が散見される。宗主国の人間として染みついた感覚はなかなか抜けないということか。一方、若き日の神戸での体験のおかげか、著者はおおむね日本人に対して好意的で、日本軍の刑務所にいたときの体験・見聞に関しても穏やかな表現が多いので日本人としては救われる。もちろん著者は日本軍の女性蔑視からきた数々の罪については、厳しく糾弾する姿勢を示しているし、日本軍刑務所での体験が長い間トラウマとなって残り、日本人を見かけても落ち着いていられるようになるには、日本の降伏から35年あまりを要したという。

著者は、今では日本人に出会っても動揺することはなく、オランダでの滞在が楽しいものになるように、と声をかけるようになったという。邦訳のタイトルはそこから取られている。

2019.3.7読了)
by nishinayuu | 2019-06-15 11:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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Magpie Murders』(AnthonyHorowitz, 2017

この下巻は、上巻のようなまどろっこしい導入部はなくすぐに本編が始まる。上巻の前書き風部分と同じく「ロンドン、クラウチ・エンド」と題された冒頭部分で、『カササギ殺人事件』の作者名がアラン・コンウェイとなっているのはなぜなのか、この部分の語り手が誰なのかが解明されてすっきりする。そのかわり、殺人事件の解明はなかなか進展しない。というのも、作者のアランが急死したせいで、作品の結末部分の原稿が見つからないのだ。というわけで下巻ではアラン・コンウェイ作の『カササギ殺人事件』の犯人解明よりも、作者アラン・コンウェイの死の解明が主題となる。すなわち、上下巻全体がアンソニー・ホロヴィッツ作の『カササギ殺人事件』で、上巻の『カササギ殺人事件』は作中作という構造になっていたのだ。上巻冒頭部分に掲げられていた「作家アラン・コンウェイの経歴」も、「アティカス・ピュントシリーズ」も、「それに寄せられた絶賛の声」というのもすべてフィクションだったのだが、ミステリを読み慣れた読者には自明のことだろう。

主要登場人物

*スーザン・ライランド(語り手。クローヴァーリーフ・ブックス出版社の編集者)/*チャールズ・クローヴァー(クローヴァーリーフ・ブックスのCEO/*ジェマイマ・ハンフリーズ(チャールズの秘書)/*アラン・コンウェイ(『カササギ殺人事件』の作者)/*メリッサ・コンウェイ(アランの元妻)/*フレデリック・コンウェイ(アランの息子)/*クレア・ジェンキンズ(アランの姉)/*ジェイムズ・テイラー(アランの恋人)/*アンドレアス・パタキス(スーザンの恋人)

アランが「カササギ殺人事件」というタイトルにこだわったのは、シリーズ9作のタイトルの頭文字を繋げて「アナグラム解けるか」という言葉にするためだったという。すなわち(あ)アティカス・ピュント登場/(な)慰めなき道を行くもの/(ぐ)愚行の代償/ら 羅紗の幕が上がるとき/(む)無垢なる雪の降り積もる/(と)解けぬ毒と美酒/(け)気高きバラをアティカスに/(る)瑠璃の海原を越えて)となるが、原文のタイトルを忠実に訳したら日本語では意味を成さないはずなので、作品のタイトルは訳者が適当に作ったものと思われる。

アランが作中に仕掛けたもう一つのアナグラムは探偵の名アティカス・ピュントAtticusPünd。「アナグラムを解くとア・ステューピッド・カ……(a stupid c・・・)となるが、最後まで書かないことを許してほしい。読者もきっと自力で簡単に答えにたどりつくだろうから」とスーザンは言っている。(確かに簡単にたどり着けます。)

アランがカササギ殺人事件の筋立てに古い童歌を使っているのも、明らかにクリスティが何度となく使った技法をなぞったものだろう、という言及があって「一、二、わたしの靴の留め金止めて」「五匹の子豚」(以上『愛国殺人』)、「十人の小さなインディアン」(『そしてだれもいなくなった』)、「ヒッコリー・ディッコリー・ドック」(『ヒッコリー・ロードの殺人』)などが挙げられているのも興味深い。

2019.2.15読了)


by nishinayuu | 2019-06-05 09:57 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu