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c0077412_10290683.jpg(編=オフィス・ジロチョー、2017、平凡社)


前書きに「佐野洋子の大勢の友人の協力によって完成したこの一冊を、これから初めてご覧になるみなさまと一緒に私たちももう一度ページを開いていきたいと思います。そしてともに新しい佐野洋子を発見し、共有することができれば幸せです」とある。

本当に大勢の友人・知人が佐野洋子を語っていて、佐野洋子がかくも大勢の人に愛され、かくも大勢の人に影響を与えたことに感銘を受ける。そして多くの友人・知人が共有する佐野洋子像がくっきりと浮かび上がると同時に、人々にあまり知られていなかった佐野洋子像にも出会える。

絵と写真がふんだんにあり、文章もいっぱいあって、それらがどれもこれも素通りできない魅力で迫ってくる。それらの中でも夭折した兄の思い出を綴った「妹だったとき」と、70人近い友人知人の言葉が収録されている「佐野洋子を一言でいうと……」が特に印象に残った。(2018.12.23読了)


# by nishinayuu | 2019-04-21 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『Tea』(H. W. Munro)

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主人公は、独身のまま34歳を迎えたジェイムズ・カシャット・プリンクリ。結婚する意思はありながら、大勢の女性の中からひとりを選ぶということができずに、一族の人たちや友人・知人をやきもきさせてきた。そんな彼も、伯父が亡くなってかなりの財産を残してくれたのをきっかけに、周囲がすすめてくれるジョウン・セバスタブルとの結婚を前向きに考え出す。

ジェイムズがプロポーズのためにジョウンの家に向かっているとき、4時半の時報が響く。ということは、ちょうど「午後のお茶」の時間にジョウンの家に着くことになる。ジョウンは銀の湯沸かしやクリーム入れ、陶器のティーカップの並んだテーブルを前にして「お茶は濃いめがいいかしら、それとも薄めにします?お砂糖はいくつだったかしら?ミルクは?クリームは?もう少しお湯を足しましょうか?」とかなんとか、楽しげに聞いてくるだろう。そういう場面を小説でも読んできたし、実際に経験もしてきたから、ジェイムズにはよくわかっていた。そして彼はそういう「午後のお茶」の儀式が大嫌いだった。女性は長椅子にゆったり掛けておしゃべりしたり、なにか考えごとをしたりしていて、そこへヌビア人の召使いがお茶を運んでくる、というのがジェイムズの理想とする「午後のお茶」だった。

「午後のお茶」のテーブルでジョウンと差し向かいになるのを怖れつつも、ジョウンの住むメイフェアに向かっていたジェイムズは、途中でふと、遠い親戚のローダ・エラムが近くに住んでいるのを思いだして立ち寄ることにする。そうすればジョウンと会う時間を30分ほど遅らせることができ、お茶の道具が片付けられたあとに顔を出すことになるだろうから。

ローダは帽子制作で生計を立てている自立した女性だった。ローダはジェイムズの訪問を喜んで、ジェイムズの手も借りながら手際よくお茶と食べ物を並べただけで、余計な儀式はなかった。彼女の出してくれた食べ物はとてもおいしく、互いのことを尋ねたり答えたり、というおしゃべりも楽しかった。そしてローダとのお茶の間にジェイムズの気持ちは固まった。ローダと結婚することにしたのだ。

その年の9月、ミノルカへの新婚旅行を終えて家に着いたジェイムズが居間に入って行くと、銀器や陶器のお茶の道具が並んだテーブルを前にしたローダが楽しそうに尋ねてきた。「薄めの方がいいかしら?もう少しお湯を足しましょうか?」

☆二人が新婚旅行で訪れたミノルカ(Minorca)は西地中海にあるスペイン領の島。1713年のユトレヒト条約でイギリス領となったが、1802年にスペインに返還された。

2018.12.17読了)


# by nishinayuu | 2019-04-16 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

翻訳練習 課題24


2018年度後期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。20191/71/28

形容詞6-

意味:춥다, 오싹하다, 빈약하다, 썰렁하다

原文:A-最近どうしてお父さんと話さないの? B-だってサムいんだもん。

訳文:A-요즘 왜 아빠랑 말을 안 해? B-너무 썰렁하다니까요.

形容詞7-上手

意味:맛있다, 훌륭하다, 바람직하다

原文1:相手に「上手いこというなぁ」と思わず感心させ、場の空気を和ませる人がいる。

訳文:재치있는 말로 상대방의 혀를 내두르게 해서 분위기를 전환하는 사람이 있다.

原文2:除雪用品が各所で品切れ状態のところ、うまい具合に購入できた。c0077412_09311954.jpg

訳文:제설용품이 여기저기서 품절 상태인데 다행스럽게 구입할 수 있었다.

原文3:同僚たちは上手くいっているように感じ、疎外感を覚えるときがある。

訳文:(原文の意味の取り方によって次のように二通りの訳が考えられる。

동료들만 잘나가는/동료들끼리 잘 지내는 것 같아서 소외감이 들 때가 있다.

形容詞8-ほしい

意味:갖고 싶다, 원하다, 필요하다, ~하기 바란다, ~해달라

原文:息子に土地や家、家業を継いでほしいと思う人が多かったため、昔は男の子を欲しがる傾向があった。

訳文:아글이 땅과 집과 과업을 잇기를 바라는 사람이 많았기 때문에, 예전에는 아들을 원하는 경향이 있었다.

形容詞9-しい

意味:엄격하다, 까다롭다, 힘들다, 철저하다

原文1:彼は社会人なのに、親が厳しくて門限は9時らしい。

訳文:그 사람은 어른이인데도, 부모님이 엄해서 귀가 시간이 9시라고 한다.

原文2:彼氏はお金には厳しい人で、計画をきちんと立てて、貯金もしている。

訳文:남자 친구는 금전 관리를 잘해서, 계획을 철저히 세우고 저축도 하고 있다.

形容詞10-やりきれない

意味:해낼 수 없다, 견뎌낼 수 없다

原文:一冊の本を通じて改めて戦争の悲惨さ、その傷跡を知り、やりきれない思いでいっぱいになった。

訳文:한권의 책을 통해 전쟁의 비참함과 상처를 알게 돼서 견뎌낼 수 없을 만큼 마음이 아팠다.


# by nishinayuu | 2019-04-11 09:31 | Trackback | Comments(0)


『誰でもない』(黄貞殷)

本書は1976年ソウル生まれの若手作家による3冊目の小説集。20122015に発表された8編が収録されている。登場するのは孤独でわびしい男女(著者のポートレートが象徴的!?)だが、悲惨さやむごたらしさはなく、おおむね共感できる。凝った文章、難解な言い回しもないので読みやすい

*『上行』――語り手と男友達のオジェがオジェの母親と一緒に、母親の養母が暮らす田舎に出かけて唐辛子やら柿やらの収穫を手伝い、収穫したもの以上のお土産をもらってソウルに帰る。(集中で唯一明るくて楽しい話。)

*『ヤンの未来』――書店員のヤンは不良たちと談笑している少女チンジュを目にするが、そのまま仕事を続けていたらチンジュが行方不明になった。何日も書店の前に座り込んでチンジュを待ち続ける母親。ヤンは黙って立ち去り、今は目立たない所でひっそり暮らしている。同僚のホジェのかわいがっていた猫たちのことを思うこともあれば、チンジュに関する情報を求めて夜を過ごすこともある。

*『上流には猛禽類』――ジェヒとその母親と樹木園に行った語り手。それなりに楽しい一日だったのだが、2年後にジェヒと別れることになったのは自分のせいでは、と思う。

*『ミョンシル』――長年連れ添ったシリルに死なれて長い間ひとりぼっちのミョンシル。ふと思いついてノートを買うことにした。机の抽出にはシルリが使っていた万年筆もあるし。

*『誰が』――アパートの上の階と下の階の騒音問題に悩まされる語り手は、やがて社会の階級問題を意識することに。(李孝石文学賞受賞作品。)

*『誰も行ったことのない』――ふと思い立って初めての海外旅行に旅立った夫婦。ヘルシc0077412_10333993.jpgンキ、ワルシャワ、クラクフを経てプラハへ。そこで2回、はぐれそうになる。ベルリン行きの列車内で険悪な雰囲気になり、ベルリン駅では降り損なった妻を乗せたまま列車が出発してしまうという事態に。

*『笑う男』――決定的な瞬間に思わず回避する人間は、次の時も回避してしまう。語り手の父がそうだった。語り手はバスを待っていたとき、自分の方に倒れかかってきた老人を支えずに身を引いてしまい、しかも地面に頭を打ち付けた老人をそのままにしてバスに乗ってしまった。ディディが死んでしまったのも、彼女を引き寄せるべきときに自分の鞄を引き寄せてしまったからだ。狭い部屋に閉じこもって男は考え続ける。男は笑ってはいないのだが、この部屋を出て行けばやがて笑うこともあるだろう。

*『作り笑い』――デパートの寝具売り場で働く女性。他人との摩擦を避けるためにいつも笑っている。笑いたいわけではないのに笑ってしまう。(感情労働に携わる人間の日常を描きつつ、暴力について考察した作品。我々は日々、他人からの暴力に曝されていると同時に、自分も他人に対して暴力的な存在になり得るのだ。)

2018.12.16読了)


# by nishinayuu | 2019-04-06 10:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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『ルイーズ』(マンロウ)

『サキ全集』の「TheToys of Peace1923」に収められている1編。

場面は老姉妹スーザンとジェインのティータイム。ジェインはミドゥルセクスでいちばんのうっかり者で、いつも上の空。そのジェインが「今日の午後はわたし、珍しくとっても冴えていたのよ。訪ねようと思ったところはみんな訪ねたし、スーザンのためにデパートにも寄ったし」と姉に向かって得意げに語る。そんなジェインを見ながらスーザンが尋ねる。「ルイーズはどうしたの?」。そう、ジェインはその日、姪のルイーズを連れて出かけたはずなのに、帰ってきたときは一人だったのだ。

さあ、それからが大変。ジェインは、キャリウッズ家には立ち寄ったのかカードを置いてきただけなのか、デパートはハロッズだったかセルフリッジだったか、思い出せない。救世軍の行進に巻き込まれたのは覚えているけれど、そのときルイーズがそばにいたかどうかは覚えていないし、アダ・スペルヴェクシットのところに行ったときルイーズが一緒だったのかもはっきりしない。あいまいな記憶をたぐりながらその午後に行った場所、会った人たちの話をしながら、のんびりとお茶を楽しんでいるジェインにスーザンはあきれる。ジェインの話からわかったのは、キャリウッズのところにもアダ・スペルヴェクシットのところにも、ウエストミンスター寺院にもルイーズはいない、ということだけ。さて、ルイーズはいったいどこに?

この短編のおもしろみは、ロンドンの市街の雰囲気や、有閑階級の暮らしぶりを垣間見ることができることと、もう一つ、これは作者が意図したものかどうかわからないが、姉と妹の対比である。姉から見ると妹というのは幼いときも歳をとっても、なんとも頼りないものなのです。ジェインほどひどいのも珍しいでしょうが。(2018.12.13読了)


# by nishinayuu | 2019-04-01 22:08 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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To Say Nothing of the Dog』(Connie Willis, 1998

副題に「あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」(or How We Found The Bishop’s Bird Stump At Last)とある。タイトルの「犬は勘定に入れません」はかの有名な『ボートの三人男』(ジェローム・K・ジェローム)の副題がそのまま使われている。作中では犬も大活躍するという含みのあるタイトルであるが、犬の登場のしかたがユニークで、読者には最初、彼らが犬だとはわからない。たとえば第1章は次のように始まる。

「そこにいたのは総勢五名だった。カラザ-ス、新入生、僕、それにミスター・スピヴンズと堂守。」

語り手の僕が真ん中、という変わった順序の紹介の意味はこの時点ではわからないが、すぐあとで僕たちがタイムトラベルによって過去の世界にやって来て、その時代の堂守と出くわしたことが判明する。そのあとで、トンネルを掘ったり、ネコを見てうなり声を上げたり、果ては僕の足元にうずくまったり、という怪しい動きを見せることからミスター・スピヴンズが犬だと判明するのだ。

もっと重要な役割を持つブルドッグのシリルの正体も、読者にはすぐにはわからないように仕組まれている。ミスター・スピヴンズで学習した読者ならもう騙されることはないが、この2回の犬を介したおふざけによって作者はその独特のユーモア世界に読者を引き込んでいく。

ただしこの作品は単なるユーモア小説ではない。タイムトラベルを主題とするSF小説であり、ヴィクトリア朝を舞台にした歴史ミステリーであり、文学作品からの引用があふれる蘊蓄小説であり、登場人物たちがもつれ合う恋愛小説でもある。冒頭の場面からいきなり複雑な状況に放り込まれるので読みこなせるかどうか心許なくなるが、いったん状況が飲み込めるとストーリーとしてはそれほど複雑ではない。タイムトラベルにまつわる複雑な理屈や文学的蘊蓄はさらっと読み流してしまっても充分楽しめる。

特筆すべき点はイギリス小説ならではの「執事」の活躍である。ヴィクトリア時代の名家の執事として完璧な働きぶりを見せたベイン(本名ウィリアム・パトリック・キャラハン――これはネタバレ)。オクスフォードのダンワージー教授の許からヴィクトリア朝に移動してベインの後釜として名家に入り込み、ミステリーの解明に貢献するフィンチ。最近どなたかが愛読なさっているとかでもてはやされている「強かな執事のジーヴズ」に比べると、ふたりともきまじめな執事たちである。ところで疑問が一つ。執事になる階級と執事を雇う階級の間には確然とした壁があったと思うのだが、ベインはどうして執事になる階級ではないことがばれずに済んだのだろうか、そもそもどうして執事の仕事を完璧にこなせたのだろうか。カズオ・イシグロの『陽の名残』の主人公がうっかり「サー」と言ってしまったために紳士階級ではないことがばれてしまったのとは逆のパターンだが。(2018.12.4読了)


# by nishinayuu | 2019-03-27 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

翻訳練習 課題23

2018年度後期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。11/512/17


形容詞1-しい

意味:상냥하다, 친절하다, 자상하다, 순하다

原文1:優しいおじいさんは、かわいそうな魚を池に戻してやりました。

訳文:마음 작한 할아버지는 물고기를 가엾게 여기고 연못에 풀어 주었습니다.

原文2:彼女は男性に優しく扱われることに慣れていない。

訳文:그녀는 남자가 잘해주는 것에 익숙하지 않다.

原文3:環境に優しい製品を生み出すことが、企業のイメージアップにつながっていく。

訳文:친환경 제품을 만드는 것이 기업 이미지 향샹에 도움이 된다.

形容詞2-気持ちよい

意味:기분 좋다, 상쾌하다

原文1:「気持ちのよい挨拶でお客様を迎えましょう」と朝のアナウンスが響いた。

訳文:상냥한 인사로 손님을 맞이합시다 하고 아침 구내 방송이 흘러나왔다.

(言葉などは흘러 나왔다、音楽などは을려 보지다)

原文2:窓の外は、気持ちいいくらい雨が降っている。

訳文:창밖에 시원스럽게 비가 내리고 있다.

形容詞3-めまぐるしい

意味:어지럽다

原文1:景気低迷のあおりを受けて社会情勢がめまぐるしく変動している。

訳文:경기 침체의 여파로 사회정세가 급속히 변동하고 있다.

原文2:父は「じゃあまたな」とひとこと言い残して、人々のめまぐるしい往来の中に消えていっc0077412_09070479.jpgた。

訳文:아버지는 다음에 보자라는 한마디를 남기고 어지럽게 왕래하는 인파 속으로 사라졌다.

(다음에 いつかまた、나중에 あとで 이따가 あとで(場所や時間が決まっている場合)

形容詞4-おかしい

意味:이상하다, 우습다, 의심스럽다

原文1:「おかしなことを訊くようだけど、まだ独り立ちしてないって言うのかい?」

訳文:기분 나쁘게 듣지 말고, 아직도 독립하지 않났다는 거야?

原文2:「世界を変えられるのは天才か頭のおかしい人だけだ」それが彼の口癖だ。

訳文:세상을 바꾸는 건 천재 아니면 괴짜뿐이다.’ 이것이 그의 입버릇이다.

形容詞5-ない

意味:위험하다, 미덥지 않다, 아슬아슬하다, 불안하다

原文:もし彼が現代に生きていたら、アブない人以外の何者でもない。

訳文:만약 그가 현대에 살았다면 그저 정신 나간 사람에 불과하다.


# by nishinayuu | 2019-03-22 09:09 | 翻訳 | Trackback | Comments(2)

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All theLight We Cannot See』(Anthony Doerr

物語の主要舞台は「フランスのブルターニュ地方、エメラルド海岸でもひときわ輝きを放つ町、古くからの城壁に囲まれたサン・マロ」(フィリップ・ベックによる)。物語の始まりは194487日、サン・マロがイギリス海峡を越えてやって来たアメリカ軍の爆撃機によってほぼ完全に破壊された日である。砲撃の前に「町の住民はただちに市街の外に退去せよ」と書かれたビラが町に降り注いだ。

町の一角、ヴォーボレル通り4番地にある建物の最上階である6階で、16歳の少女マリー・ロール・ルブランが近づいてくる爆撃機の音を聞く。そして別の小さな音に気づいて窓辺に行き、窓の鎧戸に挟まった一枚の紙を手に取ると、紙を鼻に近づけて新鮮なインクの匂いをかぐ。マリー・ロールはこの建物に一人取り残された目の見えない少女だった。

通りを5本進んだところにある「蜂のホテル」で、18歳の少年ヴェルナー・ペニヒがスタッカートのようにうなるかすかな音を聞く。海の方からは高射砲の轟音が届く。ここ4週間、ホテルはオーストリア人対空部隊の要塞として使われていた。伍長に「地下室へ行け」と声をかけられたヴェルナーは毛布をダッフルバッグに入れて廊下を進み始める。ヴェルナーは連合軍の攻撃を迎え撃つためにこの町にやってきたドイツ軍の2等兵だった。炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で育ったドイツ人二等兵だった。

こうして始まる物語は、ここに到るまでの二人の物語を交互に描いていく。一方には1934年、6歳で視力を失ったマリー・ロールが父親から点字を習い、『海底2万里』と親しんだ日々、父親とともにパリを後にすることになったいきさつ、サン・マロの大叔父の家で暮らし始めてまもなくスパイの嫌疑で父が連行されたあと、家から一歩も出ずに無線放送を続ける大叔父と過ごした日々の物語がある。そしてもう一方にはヴェルナーがドイツの炭鉱町ツォルフェアアインの孤児院で過ごした日々、ザクセン州のシュルプフォルタ国家政治教育学校で指導教授から眼をかけられた日々、そして軍役に就いてサン・マロにやって来たいきさつなどの物語がある。そして19448月、マリー・ロールとヴェルナーの軌跡が交わる。二人を繋いだのは大叔父の兄(マリーの祖父)による朗読と「月の光」のメロディーだった。

忘れ難い登場人物たち

*マリー・ロール関係――父(国立自然史博物館の錠前主任。娘が前向きに生きていけるように全力を尽くした)/エティエンヌ・ルブラン(祖父の弟。マリーに『ビーグル号航海記』を読んできかせる)/マネック夫人(エティエンヌ家の家政婦兼保護者。マリーの保護者ともなる

*ヴェルナー関係――ユッタ(妹。ヴェルナーがほとんど知らなかった世界のからくりをよく理解していた)/エレナ先生(孤児院の先生。愛と献身で孤児たちを育む)/フレデリック(政治教育学校の同期生。鳥博士。無抵抗を貫いて精神に異常を来す)/フォルクハイマー(政治教育学校で知り合った年長の巨体の少年。表面は上官に忠実だが、陰ではヴェルナーに共感して秘かに助ける)/

(2018.11.19読了)


# by nishinayuu | 2019-03-17 10:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

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On ChristmasDay in the Morning & Other Writings』(Margery Allingham,1936

本書は『キャンピオン氏の事件簿』シリーズの第3巻で、中編の「今は亡きピッグ(豚野郎)の事件」、短編の「クリスマスの朝に」の2編の他に、アガサ・クリスティーによる追悼文「マージェリー・アリンガムを偲んで」が収められている。

*「今は亡きピッグ(豚野郎)の事件」――時は19361月。キャンピオンはその朝受け取った美文調の匿名の手紙を読みながら、従僕のラッグがタイムズの死亡欄聞を読み上げるのを上の空で聞いていたが、小学校時代のいじめっ子・ピーターズ(37歳)の名が読み上げられて、俄然興味を覚える。「おまえの葬式には必ず行く」と行ってやった相手なので、ロンドンから車を飛ばして東サフォーク州キープセイク村近郊の寒村テザリングへ。葬儀の参列者の中に小学校の後輩のウィペットもいて、彼もキャンピオンが受け取ったのと同じ美文調の匿名の手紙を受け取っていたことを知る。そして6月。キャンピオンは再びキープセイク村へ赴く。地元の警察本部長で旧知のレオ・パースウィヴァントから殺人事件捜査の応援を頼まれたからだ。警察署でキャンピオンを待っていたのは、5ヶ月前に死んだはずのピッグの、死後12時間しか経っていない死体だった。(全然怪しくないのでかえって怪しく見える人物が次々に登場して、謎解きの面白さが味わえる。)

*クリスマスの朝に――時はピッグ事件から十数年あと。同じくキープセイク村の別の地域で郵便配達の老人が車にはねられて死亡するという事件がおこる。その朝、十字路の辺りで酔っ払い運転の車が事故を起こしていて車に乗っていた二人の男が警察に拘束された。他には車の通行はなかったので、この車が配達夫をはねたのは確実なのだが、十字路のずっと先にあるコテージには郵便が配達されているという証言がある。そうなると酔っ払い運転の車が配達夫をはねたと考えるには時間的にも場所的にも矛盾が出てくる。真相を突き止めるためにキャンピオンはパースウィヴァントと証言者のパシー警視といっしょにコテージへ出向く。パシー警視によるとコテージに住むのは「かなりのご高齢で、75歳は超えているはず」の女性だった。(今だったら8595を超えないとかなりご高齢とは言えないのでは? それはさておき、クリスマスにふさわしい心温まる結末になっている。)

クリスティはアリンガムの作風について「繊細な感性で選び抜かれた言葉が使われ」、「普通はあまり探偵小説とは結びつけられない資質である優雅さがある」と言っているが、そのとおりの作品でした。

2018.11.14読了)


# by nishinayuu | 2019-03-12 14:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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本作は1955年生まれの作家・梁貴子が1987年に発表した作品の邦訳。2018630日に出版されたできたての本である。

ウォンミドンは漢字で書けば遠美洞(京畿道富川市遠美区)。遠美山という幻想的な名前を持つ山の麓に位置する、大都市ソウルの周辺地域の一つである。時はソウルオリンピック(1988)の前で、町はまだ昔ながらの田舎町といった雰囲気のなかにある。そんな遠美洞に暮らす人々の日常が細やかな筆致で、しつこいくらい丁寧に描かれている。全体は11のエピソードからなり、各エピソードの主人公が他のエピソードに端役で登場したりもすれば、全体を通して出ずっぱりの人物もいて、興味深い群像劇になっている。11のエピソードのタイトルは以下の通り。

「遠くて美しい町」、「火種」、「最後の土地」、「ウォンミドンの詩人」、「一匹の旅ネズミ」、「雨降りの日はカリボンドンに行かなければならない」、「カワラヒワ」、「茶店の女」、「日用の糧」、「地下生活者」、「寒渓嶺」

以上のうち「ウォンミドンの詩人」は以前、韓国語講座で原文を読んだことがある懐かしい作品。また「雨降りの日はカリボンドンに行かなければならない」は別の翻訳集で読んだ覚えがあり、そのときは「カリボンドン」という響きだけが印象に残ったが、今回、集中でいちばん共感を持って読めた。

ところで、残念なのは翻訳文がこなれた日本語になっていないため、非常に読みにくいこと。韓国語の原文に囚われすぎているようだが、これは翻訳の問題でもあり、校閲の問題でもある。「訳者あとがき」はきちんとした日本語で書かれており、その内容もすばらしいのに、どうしてだろうか。この作品が読みでのある優れた作品であることは確かなので、訳文を吟味した改訂版が一日も早く出ることを期待する。

2018.11.9読了)


# by nishinayuu | 2019-03-07 10:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu