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『Чехов Њмореска Ⅱ』(Чехов)

本書には49の短編が収められており、そのうち本邦初訳が9編、検閲の日付が付記されているものが8編ある。『チェーホフ・ユモレスカⅠ』に比べるとブラックな感じのものは少ないが、どこがユモレスクなのかわかりにくい作品もいくつかある。(こちらの理解力のせいもあるでしょうが。)気に入った作品、気になった作品を記録しておく。

*二兎を追う者は一兎をも得ず――溺れた少佐と少佐夫人の両方の約束を信じて両方とも救ったばかりにとんでもない結果に。

*車内風景――ハチャメチャなロシアの汽車旅行。

*逃した魚は大きい――格好を付けたばかりに持参金付きの娘を逃がしてしまった男。

*狩猟解禁日――オトレターエフ村の人々は喧嘩をし、悪口を言い、憎み合い、軽蔑しあっているが、きっぱり別れることはできないのだ。

*牧歌「ああ」と「おお」――金の切れ目が縁の切れ目。

*おじいさんそっくり――孫息子の芳しからぬ行状は、おじいさんの血を受け継いだせい。

*わかってくれた!――身長1m10cmの超小柄な百姓が熱弁で自由を勝ち取る。

*悲劇俳優――悲劇俳優を愛してしまった娘の悲劇。

*証明書――証明書を書いてもらうには3ルーブルの賄賂が必用だと思い知らされた男。最後につい、1ルーブルのお礼まで手渡してしまう。

*マヨネーズあえ――4つのエピソード中「当意即妙」がいい。

*中傷――中傷が広まらないようにと予防線を張ったつもりが、自分で中傷を広めた結果に。

*聖歌隊――敵対していた聖歌隊指揮者と輔祭が意気投合したのは無神論者の伯爵のおかげ。

*別荘地の掟――愉快な忠告がいっぱい。

*人心の動揺――群衆の動きが活写された一幅の風俗画。

*燃え広がる炎――強い思い込みと根拠のない自信からくる饒舌が拡散していく。

*絶望した男――将棋と囲碁がごっちゃになっている?

*酷寒――ロシアの恐るべき酷寒に心身ともに凍り付く。

*川のほとり――春の情景。ジージャ川の氷の流れを筏で下る。

2019.3.11読了)
# by nishinayuu | 2019-06-20 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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DOOR HET OOG VAN DE NAALD』(Willem Joekes, 2012

原題の直訳は「針の穴を通って」で、「九死に一生を得る」「一命を取り留める」の意。

著者はオランダ人で、1916年にオランダ領東インド(蘭印)中部ジャワ州のスマランで生まれた。1918年に両親とともにオランダに帰国。1937年に勤務先の日本駐在員となり、2年あまり神戸で暮らした。40年にオランダ領東インドのスラバヤに赴任。開戦時はオランダ領東インド軍の予備役少尉だった。日本軍による占領後は日本軍によって通訳を命じられたが、スパイ容疑で有罪判決を受け、日本軍刑務所で死と隣り合わせの日々を体験した。その間に妻子と離別している。戦後、オランダに帰国したが、心身ともに衰弱しきっていて、一時は死を考えたほどだった。それでも両親の許で静養したおかげで社会復帰できるまでに回復し、イギリス人女性と再婚して子どもにも恵まれた。その後はオランダ経済省勤務など順調な人生を歩んだ。本書は穏やかな老後を迎えた著者が、そこに到るまでの苦しかった人生を振り返って綴った回想録である。

7つの章のうち第2章は神戸の思い出――美しい風景、瀟洒な町並み、礼儀正しい日本人たち――が綴られている。中にはオランダ人のチェベ・マースという偉丈夫と美しい妻、妻の恋人で退役外交官のフランス人にまつわる、これだけで一つの小説になりそうなエピソードもある。

ところで本書には、インドネシアの人々を対等の人間とは見做していない感じの描写が散見される。宗主国の人間として染みついた感覚はなかなか抜けないということか。一方、若き日の神戸での体験のおかげか、著者はおおむね日本人に対して好意的で、日本軍の刑務所にいたときの体験・見聞に関しても穏やかな表現が多いので日本人としては救われる。もちろん著者は日本軍の女性蔑視からきた数々の罪については、厳しく糾弾する姿勢を示しているし、日本軍刑務所での体験が長い間トラウマとなって残り、日本人を見かけても落ち着いていられるようになるには、日本の降伏から35年あまりを要したという。

著者は、今では日本人に出会っても動揺することはなく、オランダでの滞在が楽しいものになるように、と声をかけるようになったという。邦訳のタイトルはそこから取られている。

2019.3.7読了)
# by nishinayuu | 2019-06-15 11:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

翻訳練習 課題27


2019年度前期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。(20194/14/15

形容動詞11-きれい

意味:예쁨, 깨끗함, 남김없음, 시원스러움

原文1:悩みなど一つもなさそうな、やや冷たくも見えるきれいな顔

訳文:고민과는 거리가 멀어 보이는 다소 차가워 보이기도 하는 맑안 얼굴

原文2:あんなドッキリにひっかかるなんて、きれいな心の持ち主に違いない。

訳文:저런 몰카에 속다니 순수한 사람인 분명하다. (ドッキリたる韓国語몰카(‘몰래 카메라’의 줄임말로, 몰래 설치한 카메라로 남을 촬영하는 행동을뜻한다)。순하다は子どものような素直さをいうので、ここでは순수하다がいい。)

形容動詞12-たくさん

意味:많음, 충분함, 질색임

原文:泣いてばかりの恋はもうたくさん。心から笑える恋がしたい。

訳文:눈물뿐인 사랑은 진절머리가 난다. 진심으로 웃을 있는 사랑을 하고 싶다. (눈물뿐인 사랑, 진절모리가 난다はどちらもまり文句)

形容動詞13-わずか

意味:사소함, 약간, 근소함

原文1:子供のときに住んでいた町の風景は、わずかに記憶に残っている。

訳文:어릴 살던 마을 풍경은 어렴풋이 기억에 남아 있다.c0077412_09570946.jpg

原文2:わずかな時間差で、電車に乗り損ねてしまった。

訳文:간발의 차로 전절을 놓쳤다. (버리다不要)

形容動詞14-丁寧

意味:정중함, 공손함, 세심함

原文1:あの先生の説明は丁寧でわかりやすい。

訳文: 선생님은 꼼꼼히 설명해 주셔서 알기 쉽다. (세심해精神的、꼼꼼히具体的動作)

原文2:美しい言葉遣いや丁寧な振る舞いは、女性をより美しく見せるそうだ。

訳文:고운 말씨와 얌전한 몸가짐을 가진 여성은 아름다워 보인다고 한다.


# by nishinayuu | 2019-06-10 09:58 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)

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Magpie Murders』(AnthonyHorowitz, 2017

この下巻は、上巻のようなまどろっこしい導入部はなくすぐに本編が始まる。上巻の前書き風部分と同じく「ロンドン、クラウチ・エンド」と題された冒頭部分で、『カササギ殺人事件』の作者名がアラン・コンウェイとなっているのはなぜなのか、この部分の語り手が誰なのかが解明されてすっきりする。そのかわり、殺人事件の解明はなかなか進展しない。というのも、作者のアランが急死したせいで、作品の結末部分の原稿が見つからないのだ。というわけで下巻ではアラン・コンウェイ作の『カササギ殺人事件』の犯人解明よりも、作者アラン・コンウェイの死の解明が主題となる。すなわち、上下巻全体がアンソニー・ホロヴィッツ作の『カササギ殺人事件』で、上巻の『カササギ殺人事件』は作中作という構造になっていたのだ。上巻冒頭部分に掲げられていた「作家アラン・コンウェイの経歴」も、「アティカス・ピュントシリーズ」も、「それに寄せられた絶賛の声」というのもすべてフィクションだったのだが、ミステリを読み慣れた読者には自明のことだろう。

主要登場人物

*スーザン・ライランド(語り手。クローヴァーリーフ・ブックス出版社の編集者)/*チャールズ・クローヴァー(クローヴァーリーフ・ブックスのCEO/*ジェマイマ・ハンフリーズ(チャールズの秘書)/*アラン・コンウェイ(『カササギ殺人事件』の作者)/*メリッサ・コンウェイ(アランの元妻)/*フレデリック・コンウェイ(アランの息子)/*クレア・ジェンキンズ(アランの姉)/*ジェイムズ・テイラー(アランの恋人)/*アンドレアス・パタキス(スーザンの恋人)

アランが「カササギ殺人事件」というタイトルにこだわったのは、シリーズ9作のタイトルの頭文字を繋げて「アナグラム解けるか」という言葉にするためだったという。すなわち(あ)アティカス・ピュント登場/(な)慰めなき道を行くもの/(ぐ)愚行の代償/ら 羅紗の幕が上がるとき/(む)無垢なる雪の降り積もる/(と)解けぬ毒と美酒/(け)気高きバラをアティカスに/(る)瑠璃の海原を越えて)となるが、原文のタイトルを忠実に訳したら日本語では意味を成さないはずなので、作品のタイトルは訳者が適当に作ったものと思われる。

アランが作中に仕掛けたもう一つのアナグラムは探偵の名アティカス・ピュントAtticusPünd。「アナグラムを解くとア・ステューピッド・カ……(a stupid c・・・)となるが、最後まで書かないことを許してほしい。読者もきっと自力で簡単に答えにたどりつくだろうから」とスーザンは言っている。(確かに簡単にたどり着けます。)

アランがカササギ殺人事件の筋立てに古い童歌を使っているのも、明らかにクリスティが何度となく使った技法をなぞったものだろう、という言及があって「一、二、わたしの靴の留め金止めて」「五匹の子豚」(以上『愛国殺人』)、「十人の小さなインディアン」(『そしてだれもいなくなった』)、「ヒッコリー・ディッコリー・ドック」(『ヒッコリー・ロードの殺人』)などが挙げられているのも興味深い。

2019.2.15読了)


# by nishinayuu | 2019-06-05 09:57 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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Magpie Murders』(AnthonyHorowitz, 2017

本書の帯に、2019年の年末ミステリーベストランキングで「このミステリーがすごい」「週刊文春ミステリーベスト10」「2019本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」の全部を制覇したとある。「カササギ」が登場するタイトルも気に入って読み始めると、冒頭に「ロンドン、クラウチ・エンド」と題された前書き風の部分があり、続いて「名探偵アティカス・ピュントシリーズ カササギ殺人事件 アラン・コンウェイ」というタイトルが出てきて、そのあとに作者(アラン・コンウェイ)の経歴と既刊のアティカス・ピュントシリーズ8冊の紹介、さらに「本シリーズに寄せられた絶賛の声」と続く。なかなか本編が始まらないというなんともじれったい作りになっている。

さて本編が始まってみると、これがなかなか快調で、人物像はくっきりしているしストーリー展開もスピーディで、犯人推理の楽しみも味わえて気持ちよく読み進められる。と思いきや、なんと最後の最後が尻切れトンボ状態で終わっているのである。すぐにも下巻を読まなくては、と思わせる憎い作りになっているのだ。

主要登場人物

*アティカス・ピュント(名探偵)/*ジェイムズ・フレイザー(アティカスの助手兼個人秘書)/*サー・マグナス・パイ(准男爵)/*レディ・フランシス・パイ(マグナスの妻)/*フレディ・パイ(マグナスとフランシスの息子)/*クラリッサ・パイ(マグナスのふたごの妹)/*メアリ・エリザベス・ブラキストン(パイ邸の家政婦。最初に死体となって見つかった人物)/*マシュー・ブラキストン(メアリの元夫)/*ロブ・ブラキストン(メアリの長男)/*ネヴィル・ジェイ・ブレント(パイ邸の庭園管理人)/*ロビン・オズボーン(牧師)/*エミリア・レッドウィング(医師)/*アーサー・レッドウィング(エミリアの夫。画家)/*エドガー・レナード(エミリアの父)/*ジョイ・サンダーリング(ロブ・ブラキストンの婚約者。エミリアの診療所勤務)/*ジェフ・ウィーヴァー(墓掘り)/*ジョニー&フランシス・ホワイトヘッド(骨董屋夫婦)/*ジャック・ダートフォード(フランシスの愛人)

メアリの葬儀の場面に出てくるカササギの数え歌はマザー・グースの次の歌。

One for sorrow, two for joy, three for a girl, four for a boy, Five for silver, six for gold, Seven for a secret ne’er to be told.

2019.2.11読了)


# by nishinayuu | 2019-05-31 09:50 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

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From the Mixed-up Files of Mrs. Basil E.Frankweiler』(E.L.Konigsburg

読書会「かんあおい」20193月の課題図書。

本作は物語に入る前に手紙文形式のプロローグがあり、そこには二人の人物の名がある。一人は手紙の差出人であるベシル・E・フランクワイラー夫人、もう一人は手紙の受取人であるサクソンバーグ弁護士。手紙の中でフランクワイラー夫人は、遺言状を変更したことを説明するために書いたのがこの物語だ、と説明している。さて、その物語とは――

もうすぐ12歳になるクローディアは、4人姉弟の一番上の自分が不公平な扱いを受けているのにも、毎日が同じことの繰り返しなのにも、オール5のクローディア・キンケイドであることにもあきあきして、家出を計画する。家から逃げ出すのではなく、家よりもっと気持ちのいい場所、できれば美しい場所へ逃げ込む家出を。不愉快なこと、不便なことが嫌いなクローディアが選んだ家出先はメトロポリタン美術館だった。それからクローディアは家出の相棒として、3人の弟のうち下から2番目の(ただ2番目と書いてもいいのに!――これはnishinaの感想)ジェイミーを選ぶ。9歳のこの弟は、お小遣いをしっかり貯め込んでいる(つまり、けちんぼな――これは本書にある表現)ので、その方面はからきしだめなクローディアにとっては家出に欠かせない相棒なのだ。

こうして二人はお稽古で使っているバイオリンやトランペットのケースに下着をいっぱい詰め込み、ジェイミーは貯め込んだお金と1年前に思い切って買ったトランジスター・ラジオも持って家出を決行する。

二人の家出とメトロポリタン美術館滞在の山場は、ミケランジェロの作かどうか確定されていない「天使の像」との出会い。手を尽くして調べた結果を美術館に手紙で知らせたが、美術館から丁重な返事が来て、二人の調査は意味がなかったことがわかる。このままでは、つまり家出したときと同じただのクローディアでは家に帰れない、と思ったクローディアはジェイミーを説得して「天使の像」の元の所有者を訪ねる、という展開になり、ここで子どもたちの家出も終わる。そして、このあとに「天使の像」の元の所有者の「秘密」が明らかにされ、思わせぶりなプロローグの謎も解ける。大人の読者にとっては、複数の大人たちが登場して子どもたちとあれこれやり合うこの最後の部分が、この物語の中でいちばん楽しめるのではないだろうか。(2019.3.6読了)


# by nishinayuu | 2019-05-26 09:27 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

翻訳練習 課題26


2018年度後期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。20192/253/11

形容動詞6-素直

意味:순진하다, 솔직하다, 순순하다

原文1:派手な見かけとはうらはらに、素直な字を書く人だなあと思った。c0077412_10323554.jpg

訳文:화려한 복장과는 정반대로 기교없이 투박한 글씨를 쓰는 사람이라고 생각했다.

原文2:人間関係で悩む前に、まず素直な心で相手に接することが大切だと思います。

訳文:대인관계로 고민하기 전에 우선 열린 마음으로 상대편과 마주하는 것이 중요하다.

形容動詞7-見事

意味:훌륭하다, 멋지다, 보기 좋게

原文1:万引で捕まったのに、見事なまでにシラを切る態度が許せない。

訳文:절도로 잡혔는데도 완벽하게 시치미를 떼는 태도는 용서할 없다.

原文2:やっとわが家を持てるかもしれないという希望は見事に打ち砕かれた。

訳文:드디어 집을 있겠다는 희망은 여지없이 무너졌다.

形容動詞8-いたずらに

意味:「徒なら공연히, 헛되이、「悪戯なら장난으로, 장난 삼아

原文1:財源がなくなればその都度増税するというのであれば、いたずらに国民の負担が増えるばかりだ。

訳文:재원이 바닥날 때마다 세금을 올린다면 애끛은 국민만 부담이 커진다.

原文2:大学生の頃、講義に出ても先生の話は聞かず、いたずらに小説を書いていた。

訳文:대학 시절 강의실에 앉아 있어도 강의는 듣고 장난삼아 소설을 썼다.

形容動詞9-抜本的

意味:근본적인, 대담한, 철저히

原文1:同社は、業務を抜本的に効率化するために、IT技術を採用した。

訳文: 회사는 업무를 획기적으로 효율화하기 위해 IT기술을 도입했다.

原文2:学力低下に歯止めをかけるためには、教育制度の抜本的な見直しが必用だ。

訳文:학력 저하 현상에 제동을 걸기 위해서는 교육 제도를 근본적으로 재검토해야 한다.

形容動詞10-普通

意味:보통, 일반적으로

原文:「普通の女の子に戻りたい」というのがキャンディーズが芸能界を引退した理由だった。

訳文:다시 평범한 여자로 살고 싶어요.” 그것이 캔디즈가 연예계를 은퇴한 이유였다.


# by nishinayuu | 2019-05-21 10:34 | 翻訳 | Trackback | Comments(2)

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Interpreter of Maladies』(Jhumpa Lahiri

読書会「かんあおい」20192月の課題図書(担当はnishina)。

本書については201754日にブログにアップしており(こちら→)、その時点で再読だったので、今回は再々読となる。前回ブログにアップしたときは『停電の夜に』『ピルザダさんが食事に来たころ』『病気の通訳』(本書の原タイトル)について書いているので、今回はその他の作品をとりあげる。

*本物の門番――4階建てアパートの階段掃除人のブーリー・マー(64歳)。入り口の郵便受けの下で雨露をしのがせてもらえるのと引き替えに、折れ曲がる階段を塵一つなく清めていた。日に2回は階段を掃きながら、ブーリー・マーは三次元の厚味のある声で、インド・パキスタン分離のあとカルカッタまで流れてきて以来の恨みつらみを述べ立てるのだった。舞台はインド。

*セクシー――職場で席を並べるラクシュミとミランダ。ラクシュミが電話で従姉妹(パンジャブ人)を慰めている。従姉妹の夫(ベンガル人)が愛人を作って家に帰ってこないのだ。その話を聞いているミランダ自身も愛人の立場にある。妻子のある男性(ベンガル人)と付き合っているのだ。舞台はアメリカ。

*セン夫人の家――エリオット(11歳)と母が、新しいベビーシッターのセン夫人(30がらみ)の許を訪れる。セン夫人はうっすらと顎に痘痕があったが、きれいな目をしていて、身にまとうのはオレンジ色のペーズリー模様のサリーだった。夜会かなにかに着ていくような、とエリオットは思ったが、それでもお母さんの、ショートパンツにすべり止めの靴のほうがおかしな恰好に見えた。話の途中でインドという言葉が出ると、セン夫人はサリーの胸元を整えて部屋を見回した。ランプシェードやカーペットの陰影に、ほかの者にはわからない何かを見ていたのでもあろうか。「みんな、あっちです」。舞台はアメリカ。

*神の恵みの家――トゥンクル(妻)とサンジーヴ(夫)が転居してきた家には、キリスト関係の品々がたくさん残されていた。夫は「うちはヒンドゥー教なのだから処分すべきだ」と考えるが、妻のほうは「こういう物を捨てるのは冒涜だ」と言う。舞台はアメリカ。

*ビビ・ハルダーの治療――「生まれてから29年の大半を、ビビ・ハルダーは病みついて過ごし、その奇病には、家族も友人も、僧侶も、手相見も、行かず後家も、宝石療法士も、預言者も、ただ首をひねるばかりだった」という文で始まる現代の民話のような話。舞台はインド。

*三度目で最後の大陸――語り手の男性は1964年にインドを離れ、船でイギリスに渡り、ロンドン大で学んだ。1969年、36歳でマサチュセッツ工科大の図書館に職を得て、アメリカに渡ることになり、その前にカルカッタで結婚式を挙げた。妻のパスポートとアメリカ滞在許可が出るのを待つ間の6週間、103歳という高齢で気むずかしいミセス・クロフトの下宿に滞在した。妻を紹介したとき、彼女は妻を念入りに検分してから言った。「完璧。いい人を見つけたね」。それを聞いて、それまでぎこちなかった語り手と妻は、初めて見つめ合い、笑顔になったのだった。舞台はアメリカ。

2019.2.27読了)


# by nishinayuu | 2019-05-16 09:29 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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『クリスピナ・アンバリーの失踪』(マンロウ)

バルカンに向かう列車に乗りあわせた二人のイギリス人。一人はジャーナリストで、もう一人はワイン業界の人物。二人とも「おしゃべり」ではないので、そのためかえってときどきことばを交わすことになる、というわけでワイン業の男が伯母クリスピナ・アンバリーの数奇な失踪事件を語り始める。

伯母のクリスピナ・アンバリーは、家族をはじめ周囲のすべての者の上に君臨する恐るべき女性だった。伯父のエドワード・アンバリーは世間的には強い男性として通っているが、明らかに伯母に支配されていた。息子たちや娘たちにいたっては、勉強・友人・食事・娯楽・信仰から髪型まで、伯母の考えと好みによって決められていた。そんな伯母が何の前触れもなく不可解な失踪をしたため、家族は茫然自失した。セント・ポール大聖堂が、あるいはピカデリー・ホテルが一夜にして消えてしまい、その跡がぽっかりと空き地になったかのようだった。

しかし家族の立ち直りは早かった。娘たちはみんな自転車を買った(当時は女性の間でサイクリングが流行っていたのに、クリスピナは娘たちが自転車に乗ることを断固として許さなかった)。成績が思わしくなかった末の男の子は学校に行かないことにした。その兄たちは母親が外国を放浪しているという説を立てて、母親が行きそうもないところを熱心に探した。アンバリー氏の許には、クリスピナを誘拐してノルウェーの島に閉じ込めている。毎年2000ポンドを払えばずっとここに置いておく。さもないと彼女を家族の許に送り返す」という普通の誘拐犯の要求とは逆の脅迫状が来た。が、アンバリー氏は自由を思いきり楽しんでいる子どもたちのために、さらにはa strong manからthe strong manに昇格した自分のためにも、身代金を払い続けるほうを選択したのだった。さて、クリスピナ・アンバリーはいったいどうしていなくなったのだろうか、そして今、どこにいるのだろうか。

例によって、害のない皮肉を交えた突拍子もないお話でした。(2019.1.11読了)


# by nishinayuu | 2019-05-11 10:14 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)


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Memory Wall』(Anthony Doerr, 2010

本書は著者の第2短編集で、最も優れた短編集に与えられるストーリー賞を2010年に受賞している。収録作されている6編は、いずれも「記憶」をテーマとした作品である。



*メモリー・ウォール――記憶を特殊な装置で脳から取り出してカセットに保存できるようになった近未来の世界。金持ちの老女アルマの大切な記憶は壁一面に貼られた無数のカートリッジに記録されている。そこから金儲けの種を盗もうと企んだ男は、記憶を読み取るための「ポート」を少年の頭に埋め込む。認知症が進む老女アルマの不安と恐怖、「記憶読み取り人」の少年ルヴォが短い命を精一杯生きる姿、そしてアルマの使用人フェコの献身の日々が静かに、丁寧に語られていく。

*生殖せよ、発生せよ――避妊してきた夫婦がいよいよ子どもを作ろうと思ったところが、なぜか子どもができない。そこで彼らは全力で不妊治療に取り組む。そんな彼らの涙ぐましい奮闘の日々が、専門的医学用語をまじえながら、それでいて実に温かい筆致で綴られていく。

*非武装地帯――韓国に派遣されている米軍兵士の息子から手紙が来る。北朝鮮と韓国の間にある非武装地帯(DMZ-demilitarized zone)に飛んでくる鳥たちのことが書いてある。霧の中から現れて頭上を通過していった千羽近くのカモメの群、通信線に触れて地面に墜ちたツル、などなど。手紙を受け取るのは父親。母親が家を出て他の男と暮らしていることを息子はまだ知らない。息子から「病気で送還されることになった」という手紙が来たとき、父親は息子からの手紙の束を、元妻の家の玄関に置いてくる。

*一一三号村――中国が舞台。大規模なダム建設計画によって水没することが決まった村で、先祖代々種屋をやってきた女性の物語。人々が次々に再定住地区へ移転して行くなかで彼女は村に残る。二つの戦争と文化大革命を生き抜いてきた村の誰よりも歳をとっている柯(クー)先生も残る。

*ネムナス川――両親を相次いで病気で亡くしたアリソン(15歳)と、彼女を引き取ったリトアニアのおじいちゃんの物語。アリソンは「ネムナス川でチョウザメを釣る」と言い張り、ジーおじいちゃんは「昔はママもチョウザメ釣りに行ったが、アメリカの大学に行ってそこで結婚してしまった。この20年、誰もネムナス川でチョウザメを捕まえていないし、ネムナス川にはもうチョウザメはいない」と言う。さて。

*来世――ナチスによるユダヤ人迫害が激しくなった時期のハンブルクと、75年後のオハイオ州ジェニーバが舞台。ハンブルクの女子孤児院に収容されていた12人の少女たちのうち、当時6歳だったエスター・グラムだけがローゼンバウム医師の手で救い出されてアメリカに渡り、エスターを特別に守ってくれていた16歳のミリアムも含めて他の少女たちはみなビルケナウに送られた。けれどもエスターは今もミリアムたちと一緒にいるのを感じている。

訳者あとがきに「記憶は失われるもの、手の届かないものであるだけに、本書には静かな悲しみが流れている。その一方で、どの作品にも希望の輝きが感じられる。(中略)その希望を作り出しているのは、子どもたちだ。ウオータースライダーを滑るテンバ(フェコの息子)の興奮が、木蓮の発芽を見守る傑(ジェ-一一三号村の女性の孫)、雪遊びをするふたご(エスターの家の新しい家族)の歓声が、私たちに新たな喜びを届ける」とある。読書中も読後も静謐な感動に満たされる素晴らしい作品でした。(2019.1.9読了)


# by nishinayuu | 2019-05-06 10:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu