『闇の守り人』(上橋菜穂子著、新潮文庫)
2008年 10月 21日
バルサの父を追い詰めて亡き者にした先代の王はすでになく、今は旅人として戻っても危険はないと思われたが、バルサは敢えて、六歳のときジグロに手を引かれて通り抜けた真っ暗な洞窟を抜ける道を選ぶ。道しるべは、ジグロの短槍から自分の短槍に写し取った刻み目だけで、灯りは使えない。洞窟を行き来する「闇の守り人」ヒョウルは炎を憎んでいるから、灯りをもって洞窟に入るとヒョウルに殺されてしまうのだ。
ところがこの洞窟に灯りをもって侵入した少女がいた。少女と、そのあとを追って洞窟に入った兄を、バルサは危ういところで救い出した。ふたりは実はジグロの甥と姪だったが、この時点ではバルサはまだそのことを知らない。ただ、用心のため、自分と出会ったことは誰にもいわないようにふたりに約束させる。ジグロや自分が、故郷でどう思われているのかがわからないためだったが、事態はバルサが懸念したとおり悪い方へと展開していくのである。ジグロが故郷を離れていた25年の間に、一族の間にはジグロやバルサが思いも寄らなかったジグロ像ができあがっていたのだった。(2008.7.20記)
☆バルサと叔母が25年ぶりに出会う場面は実に感動的に描かれています。電車の中などで読まないよう、くれぐれもご用心を。‘衆人環視の中で滂沱の涙’なんてことになるかもしれませんから。