『ビルマとミャンマーの間』(瀬川正仁著、凱風社)
2008年 02月 05日
たとえば国名について著者は、ミャンマーという国名は軍事政権が各国に向けて用意した踏み絵である、という。日本政府も日本の主要メディアもいちはやくミャンマーを採用したが、アメリカ、オーストラリアなど、この呼称を認めていない国も多いし、そもそも軍事政権が変更を求めたのは英語のburmaなのだから、オランダ語から来たビルマは変える必要はなかったというのだ。こうした考えのもとに、この本では従来の地名表記を主とし、必要に応じて新しい表記を併記するという形が取られている。また、ビルマ民族が主導権を握るこの国で、少数民族がいかに虐げられているかを象徴する一つのエピソードとして、民族浄化によって急速に衰退させられたモン民族について、かつての国連事務総長でビルマ人のウ・タントが国連演説で「この世にモン民族などというものは存在しない」と発言したことが紹介されている。この話には、タイの国連大使が「私の祖先はモン民族だ」と言い返したのでウ・タントは顔色を失った、というオチがついている。 あるいは、充分富を蓄えたあとで麻薬から足を洗い、地域の奉仕活動をしたりして申し分のない人格者になる麻薬成金の話を聞いて、世界の富を収奪して紳士の国になったイギリスのような感じだろうか、と評する文があったりもする。どのページを開いてもはっとさせられたり、考えさせられたりする、中身の濃い本である。(2007.11.16記)