『午後四時の男』(アメリー・ノートン著、柴田都志子訳、文藝春秋社)
2007年 12月 22日
さて、午後四時の男とは、ふたりだけの静かな生活を楽しもうと、人里離れた田舎町にやってきた65歳の夫婦のもとに、毎日夕方4時になるとやって来て、2時間座り込んでいく男のことである。ただ一軒の「ご近所」に住むこの男が初めて訪ねてきたとき、夫婦はコーヒーでもてなす。男は何を話すでもなく、問いかけには「ええ」と「いや」のどちらかを発するだけで、きっかり2時間後に帰って行った。これで儀礼的挨拶は終わったから男はもう来ないだろう、と思ったのが大間違いで、それから毎日、この男は午後4時にやってきてコーヒーを「要求」し、居間の肘掛け椅子に不機嫌な顔で座り続けていくようになる。
高校でギリシア語とラテン語を教えていた夫。小学校1年で出会って以来ずっと相思相愛の仲の妻。このふたりが手に入れたと思った穏やかな生活は、午後四時の男の出現ですっかりかき乱され、ふたりの気持ちにも少しずつずれが生じていく。午後四時の男と、語り手の夫とその妻、三者の心理戦争がどう展開していくのかという興味で最後まで一気に読ませる、迫力のある小説である。(2007.10.10記)