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『漁師』(フィオナ・マクラウド、訳=松村みね子、青空文庫)

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フィオナ・マクラウド(1855~1905)はケルト文学の作家。ウォルター・スコット、マシュー・アーノルドらの編集者として活動したウイリアム・シャープと同一人物であるが、このことは彼の生前には伏せられていた。

本ブログでこれまでに取り上げたマクラウド名の作品は以下の通り。

『髪あかきダフウト』 『女王スカァアの笑い』『約束』

本書の底本は『かなしき女王 ケルト幻想作品集』(ちくま文庫 2005年)、底本の底本は『 かなしき女王 フイオナ・マクラオド短篇集』(第一書房 1925年)。

物語の舞台は、ネイルの嶺の向こうに隠れている5,60人しか住人のいない渓谷の村からさらに3里以上離れた山の斜面に建つ草屋。登場するのはその草屋に住むシェーン婆さんと息子のアラスデル。その日、シェーン婆さんはひどく疲れていて、息子のアラスデルが牝牛を牛舎に引き入れる音も聞いていなかった。やがて二人は食卓について神に感謝を捧げてから黙って食事した。母の老いの目に平和があった。食事のあと母と子が炉の前に腰を下ろしたとき母が言った。

「狐には穴がある、空の鳥には巣がある、人の子は枕するところもない」

その意味を息子が問うと母が言った。

「私も年を取って、いよいよの時が近くなってきたよ。ゆんべ窓の外で声が聞こえた。今まで70年の間聞いたことのない声だった。。それは優しい声だった」

母は前の月当たりから一日一日と弱ってきたようだった。「前の前の日曜の朝、空に鐘の音が聞こえた。金曜日、月の13日目の朝は夢の中で胸の上に土が載っていて、目の孔に白い雛菊の根がびっしり詰まっていた」という母の言葉に、息子は何も言うことがなかった。母は老年の賢い目にものを見ているのだった。そして話を続けた。

「楊の谷で流れのところに立っていた時、川淵に立っている人を見た。背が高くて疲れたような瘦せた人で、ふいと顔上げた時、涙が見えた。イギリス語で話しかけてみたら、その人はゲエル語で返事をしたよ、まじりっ気のない美しいゲエル語で。その人はマック・アン・テイル(大工の子)という名の「漁師」だった。女の人が丘を降りてきて男のことを尋ねた。ヤソという名前だという」

母は二人が誰だかよくわかっている、と言った。アラスデルが火に泥炭をくべた時、母の顔は白く、眼の光は霜の溶けたあとの水のようだった。母の手が椅子から垂れた。棒のようにまっすぐに。そのとき戸口に黄色い髪の人が現れ、大工の子ヤソと名のった。「つい今しがたアラスデウ・ルア(アラスデルの父親)に手を引かれて楊の谷を下りていくシェーンの魂に行きあった」といった。跪いたアラステルが目を上げた時はもう誰もいなかった。戸の外の闇のかなたに、一つの星がましろく光って脈を打つように動いていた。

ケルトの幻想的な物語世界の魅力あふれる作品である。なお、「ヤソ」は漢字表記すれば「耶蘇」で、ラテン語Jesusを中国語に音訳したものである。


Commented by マリーゴールド at 2026-03-22 11:17
牧歌的な物語ですね。迎えに来てくれる人がいるのがいいですね。天国も地獄もなく、三途の川もない穏やかな世界が生と死を結んでいますね。
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by nishinayuu | 2026-03-12 16:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu