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『西洋の敗北と日本の選択』(エマニュエル・トッド、2025,文春新書)

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心地よい読書生活に浸っていると現実社会の情勢に疎くなる。このままではまずいと思い、遅ればせながら本書を読んでみた。著者Emmanuel Todd(1951~ )はフランスの歴史人口学者・家族人類学者。2024年1月に刊行された『西洋の敗北』は英語以外の25か国で翻訳されているベストセラー。

冒頭にある著者の自己紹介によると——パリとケンブリッジで研究者としての教育を受けた/戦時中、米国に亡命していたユダヤ系の母から偉大な米国への感謝の念を引き継いだ/「社会の多様性」という著者のヴィジョンは、英国の社会人類学と米国の文化人類学に由来する/「世界の多様性」を超越する「普遍的人間」という著者のヴィジョンは、自国のフランス文化から受け継いだ。著者の世界である「西洋の民主主義」を共に作り出した英・米・仏の3極が今崩壊しつつある。

本書は日本の読者を対象にしたものなので、非常に読みやすかったし、共感できる部分が多かった。が、消化しきれない部分、理解が届かない部分もあって、きちんと読めたとは言い難い。もともと政治・経済には疎いので。とりあえず今回は、共感できた部分〇と共感できないorしたくない部分▼を羅列しておくことにする。

〇トランプは、米国産業の真の競争相手は独、伊、日、韓の工業生産ではなく、米国自身によるドルの生産であること、ドルこそが労働なしの購入、労働なしの消費を可能にしていることを理解しようとしない。

〇ウクライナ戦争から抜け出せないトランプは、戦争を中東に拡大した。熟慮の末ではなく衝動的に。

〇トランプは「米国の代理人」であるイスラエルを暴力に向けて解き放った。

〇米国の兵器がなければイスラエルは中東随一の軍事大国となりえなかった。

〇BRICSの中には、インドやブラジルのような巨大な民主主義国も存在する。米国が凋落した時、米国の圧力から解放されたイランは、これら民主主義国の一員に加わるだろう。「米国の軍事・金融システム」の外の世界は、多様性に富んでいる。

〇日本が一時期、帝国主義国となったのは、西洋の植民地主義を模倣した悪影響だったように思われる。過去に日本が朝鮮半島や中国で行ったことが、フランスがアルジェリアで行ったことや、英国が大英帝国内で行ったことより悪かったとは私は思わない。

〇トランプの演劇的な言動は不確実性が高く、予測困難であるのに対して、プーチンの冷静な言動は一貫した論理に基づいていて、はるかに予測可能である。

▼ロシアがウクライナに侵攻したのは、NATOの東方拡大と米英の支援によるウクライナ軍の増強によって、その「国境」が脅かされたからです。彼らにとってこの戦争は「防衛戦争」なのです。

▼「西洋の敗北」を受けて日本はどうすればよいのか。現状で私がお勧めしたいのは、欧州と米国のヒステリーに極力逆らわず何もせずに静観すること、しかし秘かに核武装を進めることです。

〇「核の傘」という概念も無意味です。米国が自国の核を使って日本を守ることは絶対にありえない。核は「持たないか」「自前で持つか」以外に選択肢はない。

▼日本は核武装とともに通常兵器の増強も進めるべきです。これも戦争をより困難にするためです。戦争は、軍事的な勢力不均衡から生まれるからです。

〇ウクライナや中東で戦争を引き起こしてきた米国が、東アジアでも戦争を引き起こす可能性がある。そうした時に米国に追従しないことこそが、日本の平和と安全に不可欠です。

〇「反転攻勢」は「米国がウクライナを勇気づけるためのもの」というより「米国がウクライナに強いたもの」であるように見える。「反転攻勢」が始まった2023年6月4日以降、ウクライナ側で大量の死者・負傷者が出ている。米国は”支援”することで実はウクライナを”破壊”しているわけだ。

〇欧州はGAFAMと言われる米国の巨大IT企業の支配に無防備にさらされている。NATOにしても、同盟国の各軍を統合することでロシアの脅威に備えるのが表向きの目的ですが、その裏で米国の同盟国に対する支配を強める機能を果たしています。米国は同盟国に対して、「保護者」というより「支配者」として振舞っているのです。

〇ドルを刷る代わりに世界中から大量の物資を輸入して豊かに暮らす米国は、いわば世界に「寄生」している。ロシアはエネルギー面でも経済面でも相対的に自立していて、「寄生」しているわけではないので、「世界の覇権」を求める理由もない。

〇私に言わせれば、そもそもロシア人は”欧州人”です。トルストイ、ドストエフスキー、ツルゲーネフは”最高の欧州文学”。ナチズムの悪夢から欧州を解放するのに、1500万人以上の多大な犠牲を払って、米国以上に貢献したのもロシアです。

〇欧州は「ロシア嫌い」という狂気の中にいる。この「ロシア嫌い」は「現実のロシア」とは何のつながりもない。反ユダヤ主義と同様に、「差別される側」ではなく「差別する側」の「精神的病」なのです。

▼日仏のような中規模国にとって、核武装は何を意味するのか。自国の独立を保障し、地政学的なパワーゲームからの脱出を可能にしてくれるものなのです。米国主導の戦争に巻き込まれないための一つの方法が、日本の核武装なのです。


Commented by shinn-lily at 2026-03-02 07:44
私も、この分野には弱いのですが、うまくまとめてくださったエッセンス、
わかりやすくて、ありがたいです。
Commented by nishinayuu at 2026-03-02 09:51
> shinn-lilyさん
コメントありがとうございました。今回のトランプの暴走は、本書を読んでおいたおかげで混乱せずに受け止めることができましたが、世界各国の反応、日本の対応が心配。平和ボケのままで人生を終わりたいのに…。
Commented by マリーゴールド at 2026-03-07 15:21
激動する世界情勢の中で、新たな視点が必要ですね。この本も一助になりそうですね。
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by nishinayuu | 2026-02-28 10:27 | 読書ノート | Trackback | Comments(3)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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