『片目のオオカミ』(ダニエル・ペナック、訳=末松氷海子、白水社)
2026年 02月 21日
『L’œil du Loup』(Daniel Pennac,1984)
四つの章からなるオオカミと少年の物語。
「オオカミと少年の出会い」と題した第1章で語られるのは、動物園の折の中にいる片目のアラスカオオカミとひとりの少年の出会い。毎日、檻の前に立ってオオカミをじっと見ていた少年が、ある日、片方の目をつぶった。そうしてオオカミと少年は片目と片目で見つめあった。
「オオカミの目」と題した第2章で語られるのはオオカミの生い立ち。母親の〈黒い炎〉から〈青いオオカミ〉と呼ばれて信頼されていたこと、美しいけれども軽はずみな妹〈スパンコール〉や年下の兄弟たち、いとこの〈灰色〉たちといっしょに、狩猟者たちからの逃避行を続けていたこと。捕らえられたスパンコールを救ったとき、火のついた薪が振り下ろされ、目が覚めたときは動物園の檻の中だった。
「人間の目」と題した第3章で語られるのは、オオカミに合わせて片目をつぶったことからオオカミが心を開いた少年の思い出。銃声と燃え盛る炎の中で雑貨屋のトアに託された赤ん坊は、雑貨屋の売り物を積んだヒトコブラクダ〈お鍋〉の背中で少年となり、空想したお話を語るようになった。ベドウィン族のある長老が少年を〈アフリカ〉と名付けてくれた。が、ある日トアは〈お鍋〉も少年も売り払ってしまった。〈黄色いアフリカ〉から〈灰色のアフリカ〉に移った少年はヤギ飼いのもとでたっぷり2年働いた。このとき少年は寂しがり屋のチータと友達になった。
ある日、ヤギ飼いが大切にしていた美しい鳩たち〈アビシニアの真珠〉が消えてしまった。少年はサバンナの灰色のゴリラが言っていた〈緑のアフリカ〉へ行くことにした。運賃代わりにお話を聞かせるという条件で乗ったトラックが、遠くに〈緑のアフリカ〉が見えたところで転覆事故を起こしたが、少年は奇跡的に助かって、老夫婦のパパ・ビアとママ・ビアの子どもになった。老夫婦は少年に〈アフリカ・ンビア〉という名前を付けてかわいがった。やがて一家は緑がどんどん消えていく土地を捨て、新しい世界へ旅立つことになった。
「ほかの世界」と題した第4章で語られるのは、ほかの世界に移り住んだ後の話。パパ・ビアが見つけた仕事は市立動物園にある「熱帯植物園」の温室の管理だった。少年が動物園の鉄の門をくぐるとすぐに、聞きなれた声に呼び止められた。「やあ、坊や、久しぶりだねえ。ようやく会いに来てくれたんだね?必ず来てくれるとは思っていたが」。それはヒトコブラクダの〈お鍋〉くんだった。そのあとも次々と懐かしい友達に再会した。少年は、動物園の住人を全部知っていたのだ。ただ一匹を除いて。それで少年はオオカミの檻の前で立ち尽くしていたのだった。
著者ダニエル・ペナックは現代フランスを代表する作家のひとり。1944年に、当時フランスの植民地だったモロッコのカサブランカで生まれ、アジア、アフリカの国々で暮らした経験を持つ。
大人向けの作品が多いが、『カモ少年と謎のペンフレンド』などの児童むけの作品も書いている。本作は児童文学として楽しむこともできるし、大人たちに現代社会の様々な問題を考えさせる読み物でもある。軽く読めて深い印象を残す作品である。


