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『ルイスヒェン』(トーマス・マン、訳=実吉捷郎、青空文庫)

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Luischen』(Thomas Mann,1900

物語は次のように始まる。「世の中には、いかに文学的修練を経た空想といえども、その成立に想到し得ぬような夫婦関係が、ずいぶんあるものである。そういう関係は、ちょうどわれわれが芝居で、老いて愚鈍なものに対する、美しくて活発なもの、というような対照の、架空的な結合——仮定として与えられて、ある笑劇の数学的構成の根底になっている結合を受け入れるごとくに、そのまま受け容れられねばならない。」

続いて主人公夫婦、ヤコビイ弁護士と細君のアマリエ(通称アムラ)が紹介される。

*アムラ——肌は南国風の薄黒い黄色。物憂げな豊満さで、トルコの女皇のそれを思わせる姿態。そそるように自堕落な身振り。目つきはただ愚かしいだけでなく、一種好色的なずるさをも持っている。

*ヤコビイ弁護士——40ばかりになる巨人のような男。脚は象のそれを思い出させ、脂肪の塊で丸くなっている背中は熊のそれに異ならない。膨大な太鼓腹の胴体の上には、ほとんど頸という経過なしに、割合に小さな頭がのっている。そこには細い濡れた目と、短い丸まった鼻と、だぶだぶに垂れた頬とがありその頬に間に小さな口が消えそうになっている。あらゆる人々に対して、慇懃で如才なく従順だが、人々はそれが怯懦と内心のあやふやとに基づいていることを感じて不愉快な気持ちになる。

さて、春のある日、アムラは郊外の大広間を借りて宴会を開くことを思いつく。そしてカイゼル街にある自宅に名士たちを招いて宴会のための委員会を立ち上げる。委員会のメンバーの一人、アルフレット・ロイトネルという27歳の音楽家は、実はアムラが長年ヤコビイ氏を欺いて不貞な関係を続けている相手だった。相談がまとまりかけたところでメンバーの一人が、もっと奇抜な出し物、特別に滑稽な呼び物が欲しい、と言い出した。それを聞いてアムラが思いついたのは、「良人の弁護士に紅い絹の赤ん坊服を着せ、歌って踊らせる」ことだった。そして宴会の当日、ヤコビイ弁護士はアムラが用意した紅い衣装で、足をふみ換え、服をつかみ、人差し指を立てたりしながら、ロイトネルが作曲し、アムラと二人でピアノで伴奏する曲に合わせてざれ歌『ルイスヒェン』を歌ったが……

トーマス・マンの初期の短編の一つである本作は、滑稽さに向けられる嘲笑、グロテスクさと道化の悲しみが描かれた、読んでいて胸が苦しくなる作品である。


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by nishinayuu | 2026-02-15 23:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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