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『아버지에게 갔었어』(신굥숙)

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『父さんのところに行っていた』(シン・ギョンスク、創批社、2021)

本作は1990年代以降の韓国文壇を代表する作家の一人である著者が、剽窃事件を克服して久しぶりに発表した長編小説。著者独特の静かで心に沁みる語りに耳を傾けているうちに、父のままならなかった人生、家族や村の人たちが経てきた韓国の凄惨な時代と歴史が浮かび上がってくる。

物語の主要舞台であるJ市が著者の故郷である全羅北道の井邑市を彷彿とさせるように、登場人物や出来事も虚構と真実をないまぜにして展開していくが、次のエピソードはおそらくほんとうにあったことであろう。

*父は両親を伝染病で相次いで亡くして姉と弟の3人で残され、14歳という若さ/幼さで家長となった。

*農業のほかに牛飼いで生計を立てることになった父は、おじの指導で子牛の鼻に孔をあけて手綱を通した。

15歳で父は田畑を耕す「犂(スキ)入れ」の名手になってあちこちの手伝いをした。

*召集令を受けた父を祖父が祠堂へ連れて行き、そこに住みついている男に父の右手の親指を切り落とさせた。銃が使えなくなった父は召集を免れた。

J市はカルヂェ峠(日帝時代は蘆嶺と呼ばれたところ)に接していたため、山中に潜伏した人民軍のパルチザンに対する国軍や警察の戦いが繰り広げられていた。父の住む村はJ市の中でもカルヂェに近いため、食料の略奪や住民の連れ去りが度々あり、村の住民たちは互いに監視しあって人間不信になっていった。

*父が牛もろともパルチザンにつかまって山に連れていかれたとき、そこにいた近隣の村の男が、そいつは放してやれ、と言ってくれたので父はそのまま家に帰ることができた。

主な語り手である長女のほかに、父、母、三人の息子たち、何らかの形で父とかかわった人たち々が次々に登場して語ることによって、父の思いや父の人生がくっきりと浮かび上がってくる。幼い家長を親戚や村の人たちが温かく見守ったこと、そして自身は学校に行けなかった父が息子や娘たちには大学教育を受けさて世に送り出したことなどなど、韓国社会の底力と健全さも伝わってくる。

蛇足1:父と母は学校教育が受けられなかった世代のため、彼らの言葉はパッチムを無視した表記で綴られていて、案外読みやすかった。

蛇足2:祖父は「한의だとある。おそらく「韓医」であろうが、同音異語に「漢医」もあるので一瞬迷った。漢字で表記されていれば迷わずに済むのに。

蛇足3:ちなみにシンギョンスク作品でnishinaが特に好きな作品を挙げておく(順不同)。

『別れの挨拶』『汽車は7時に出るよ』『夜道』『아버지에게 갔었어』(신굥숙)_c0077412_17372252.jpg

『鳥よ鳥よ』『浮石寺』『母さんをお願い』


なお、邦訳がアトラスハウスから出版されている。

タイトルは『父のところに行ってきた』

訳は姜信子、趙倫子


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by nishinayuu | 2026-02-05 17:41 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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