『不便なコンビニ』(キム・ホヨン)『不便なコンビニ』その⑤
2025年 11月 29日
『불편한 편의점』(김호연)
「人生は問題解決の連続だ」という文で始まる今回の主人公は脚本家のチョン・インギョン。秋の間世話になった「朴景利 土地文化会館」の部屋を引き払って、ソウル駅近くのアパートで再出発の道を探りながら冬を過ごすことになった。中堅作家である叔母のヒスが、大学生の娘が冬休みに本家に行ている間、娘の部屋を使うように、と勧めてくれたのだった。ソウル生活も、作家生活も、演劇人生活も最後になるかもしれないその期限付き執筆室は、竜山区青坡洞にあるヴィラの3階だった。1号線の南営駅からwebの地図を頼りに歩いてきたインギョンは、iphoneがシャットダウンしてしまって途方に暮れた。と、路地の奥にコンビニが見えたのでそこに飛び込んだ。そのALWAYSコンビニの背の高いアルバイト〈②に出てきたシヒョンですね、たぶん〉に電話を使う許可を得てヒス先生の娘に電話すると、コンビニの目の前のヴィラだと言う。インギョンが受話器を置いて向かいのヴィラを見ると、3階の窓が開いてヒス先生とそっくりな笑顔がこちらに手を振った。
その日、ヒス先生の娘を送り出したあと眠り込んで、目が覚めたら夜中だった。お腹がすいていたが、この部屋にある食糧には手を付けるつもりはなかったので、昼に見たコンビニに行った。重低音で迎えてくれた男は図体が大きくて人相は演技派風、つまり演劇界だったら体格と演技で勝負しなければならない感じの中年男だった。品ぞろえが不十分で、弁当も飲み物も気に入るものがなかったインギョンは、冷凍餃子を買ったが、ヴィラに電子レンジがあったか思い出せない。それで中年男に尋ねると「故障したので 修理中 です すみません」ともたもたと答える。「謝ることはありません。でもちょっと不便ですね」というインギョンに「どういうわけか はい 不便なコンビニ になって しまいました」という男の正直な応えに、インギョンは苦笑したが、俄然男に興味がわく。ここへ来る前は何をしていたのだろうか。
次の日もまた夜中の1時に空腹で目が覚めたので、コンビニに行くと、弁当はまた中身の粗末なもが二つ残っているだけだった、と思いきやその下にもう一つ、おかずがたっぷりあって食べ応えのありそうな弁当があった。男がインギョンのために隠しておいた「山海珍味弁当」だった。それを持ってレジに行くと男の姿はなく、「急便〈急な便通!〉」と書いた紙が置いてあって、入り口のドアは開けっ放し状態だった。すっきりした顔で戻ってきた男に、インギョンはそれがいかに不用心な行為か、お説教をたれるのだった。
あれこれ迷っていて執筆作業にはなかなか取り掛かれないインギョンは、夜になると窓辺で外を眺める。最近、夜11時ころに向かいのコンビニの屋外テーブルで、一人で酒を飲むサラリーマン風の中年男に気が付いた。ところがその哀愁が漂う一人酒のテーブルに、コンビニのあのマッチョ男が加わって、インギョンはコンビニの男のことがいよいよ気になりだした。そしてついに男がコンビニで働くことになったいきさつを聞き出した時は、わーと叫んでしまった。過去の記憶が全然出てこない、という男にインギョンは、毎日明け方に二人でおしゃべりしましょうと提案する。ドッコと名のった男に興味を持ったインギョンは、彼をもっと観察しようと決心した。
昼と夜が逆転した生活サイクルを利用して、インギョンは明け方に起きてコンビニに行き、山海珍味弁当を食べながらドッコ氏とおしゃべりして要点を手帳に記録した。「人と暖かく交流をした記憶がない、コンビニで客を相手にしていると親しくなった気になれる 親切なふりをするだけでも親切になれる気がする」などなどの言葉を。そのうちインギョンに、またものが書けるかもしれない、そして念願の劇作家になれるかもしれない、という希望が湧いてくる。そんなある日、シアターQのキム代表から携帯電話に連絡が入ってきた。携帯の画面を見たままインギョンはためらった。彼はインギョンが演劇界を離れるきっかけを作った張本人であり、ボロボロに傷ついたインギョンが演劇界を去った後、2年もの間何の連絡もしてこなかった人間だった。いったい何の用だろうか……。
このあと物語は、インギョンにとっても読者にとっても胸のすく展開を見せることになる。
(2025.11.29)
新鮮な韓国語に接することができて勉強になりますし、この先の展開も楽しみですよね。


