人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『What’s Left Unsaid』(Emily Bleeker, usKindle)

『What’s Left Unsaid』(Emily Bleeker, usKindle)_c0077412_14434626.jpg『語られなかったこと』(エミリー・ブリーカー)

物語の主人公ハナ・ウィリアムスンは、1年前はシカゴ・トリビューン紙のコミュニティー・セクションに記事を書いていた。それは、やるべきこと、締め切り、パーティ、可能性を秘めた将来のある世界だった。11月初旬の今、彼女はミシシッピ州セナトビアにあるテイト・カウンティ・レコード社の古びたニュースルームにいる。秋色のミレニアム・パークが、ミシガン通りのラッシュアワーにヘッドライトに浮かび上がる雪片が、そして去って行った恋人アレックスが恋しかった。今日、ハナはfacebookのアレックスのプロフィールをすでに10回も開いていた。彼に会いたくてたまらなかった。

数か月のうちにボーイフレンドも仕事も父親も健康もすべて失ったハナを「ソファと鬱状態から引き離すために」セナトビアの祖母メイブルの家に呼び寄せたのはハナの母親だった。体の不自由な祖母の手伝い、という名目だった。祖母にはフルタイムの家政婦と昼夜の看護人が付いていたから、ハナが祖母との暮らしを続けているのは祖母のためというよりハナのためだった。ハナは祖母の傍にいると、自分が絶対的に愛されていると感じることができるのだった。

ハナの職場テイト・カウンティ・レコード社のオーナーはモンゴメリー・マーティン、通称モンティという腹の出た白髪の男で、ハナの祖母とは昔からの知り合いだった。モンティがハナに命じた仕事は、地下室を貸し出すために地下室を片付けることで、そこに保管されている膨大な量の古いプリント類をすべてコンピューターで記録するように、という退屈極まりないものだった。ハナはすぐにも会社を辞めてシカゴに帰ろうかと思ったが、失恋した街に戻って失恋した場所を歩き回ることなどできないとわかっていた。それにセナトビアには、夫と二人の息子を埋めた穴の縁に立って苦しんでいる祖母のメイブルがいる。だからハナはセナトビアを出て行かない。今は。

ある日、ハナは地下室の書類の中に、1929年に14歳だった少女がレコード社に送ってきた手紙を見つける。「My name is Evelyn」という書き出しのその紙をハナは急いでバッグにしまって地下室を後にした。それがハナのイヴリン探求の始まりだった。ハナは地下室に並んでいる廃棄の印が付いているボックスをかき回し、古い手紙類を次々に読んでいった。イヴリンの書いたものは一つの打撃/喪失がどのようにしてドミノ倒しのようにすべてをダメにしてしまうかを語っていた。イヴリンのドミノは8歳の時に母親が死んだこと→父親が広告を出して雇った家政婦のミセズ・ブラウンが夫も子どもたちも支配して一家の幸せが潰えたこと→イヴリンが銃弾によって下半身麻痺になったことへと繋がっていったが、その間に何があったのか。ハナはそれを知るために毎日地下室に降りた。

ハナは祖母の家に出入りしていたナンデモ屋で非白人のガイ・フランクリンという協力者/助手を得て、イヴリンの物語を探求し続け、ついに全容を知るに至る。それはセナトビアの有力者一族が関わっていたために闇に葬られていた物語だったのだ。イヴリンの物語を書くことによってシカゴの元の職場への復帰も視野に入れていたハナだったが、探索のためにモンティの事務室に忍び込ませたガイが罪に問われる事態になったため、物語の公表をあきらめた。ところがここから話はハナが思ってもみなかった方向に大きく展開していく。

本作は恋人の裏切り、弱い父親と毒母による虐待、性加害ともみ消し、人種問題などなど、世の中の様々な問題を取り込みすぎていて、煩雑で長すぎる感は否めない。それでも、イヴリンの物語に心を痛めたあと、ハナの物語に爽快感を覚え、メイブルの物語から勇気がもらえる。とにかく読み応えがある作品であることは確かである。


名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by nishinayuu | 2025-11-17 14:46 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu