『女の決闘』(オイレンベルク、訳=森鴎外、青空文庫)
2025年 10月 21日
『Ein Frauenzweikampf』(Herbert Eulenberg)
物語はロシアの医科大学の女学生が一通の手紙を受け取った場面から始まる。差出人は「あなたが関係している男の妻だと今まで思っていた」という女性で、「立会人なしで決闘したい。翌日の午前10時に拳銃持参で下記の停車場へおいでください」とあった。さらに、女子学生が拳銃で射撃をすると聞いているのであなたのほうが射撃が上手なはずであること、問題の男にはこのことを打ち明ける必要はないことなどが書かれていた。
さて、手紙の主のコンスタンチェは、手紙を出した後すぐに町に行って銃器店を訪れ、賭けをしているのでと言って、店の奥の中庭で主から銃の打ち方を習った。一時間ほどして黒と白の輪の的が一つの灰色の輪に見えるようになっった時、女は店の主に金を払い、礼を言って家に帰った。そしてその夜は6連発の銃を抱いて寝た。
翌朝、約束の停車場で会った二人の女は、野原の方へ黙って歩き出した。女房〈とここでいきなり人妻の呼称が女房となる〉が道案内をして女学生より一足先に立って。薄ら寒い夏の朝、空は灰色。遠くに見えていた白樺の白けた森がゆるゆると近づいてきたとき、女房が立ち止まって言う。「お互いに6発ずつ打ちましょうね。あなたが先にお打ちなさい」「ようございます」。二人の交わした言葉はこれだけだった。
そして、二人の女が弾を打ちあって女房の打った最後の弾で女学生の白いカラ〈カラーですね〉が地に落ち、外国語で何か一言言うのが聞こえ、女房は夢中でその場から逃げ出し、草原のはずれの草の上に倒れる。やがて落ち着いてくるとうまく復讐を遂げたという喜びもつまらぬものになり、向こうで女学生の頸の創から血が流れ出ているように、喜びが逃げてしまうのだった。
結局、女学生は血を流して萎びて死に、女房は近くの村の役場に行って無理やり監房に入れてもらった後、絶食して死ぬ。
「青空文庫」の底本は「於母影 冬の王 森鴎外全集12」筑摩書房(1996年3月21日 第1刷)。表現も使われている漢字も古くさいが、訳文は読みやすく、味わいがある。
著者のオイレンベルク(1876~1949)はドイツの小説家・劇作家・詩人。1920年代にはドイツで最もよく上演された劇作家の一人だったが、ナチス時代には作品の上演・出版が禁止されたという。本作の主人公がドイツ人女性とロシア人女性であることには何か特別の意味があるのかもしれない。


