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『ワン・プラス・ワン』(キム・ホヨン)『不便なコンビニ』その④

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불편한 편의점』(김호연)

この章はうだつが上がらない中年のサラリーマンで、コンビニの常連客であるキョンマンの話である。

キョンマンにとってそのコンビニは「雀の製粉所」、つまり食べ物がいっぱいあっていつでもくつろげる場所だった。仕事帰りにコンビニの屋外テーブルで一人酒を楽しむのが習慣になった。初めはカップラーメンを食べるだけだったが、やがておにぎりが追加され、さらに炒めキムチも追加され、ついには焼酎まで追加されて、ご馳走の並ぶテーブルになって行った。製粉所を通り過ぎることができない雀のように、キョンマンは毎晩夜中の12時頃5000ウォン分の酒と肴で心身を満たすようになった。おにぎりもアルコール飲料も種類が豊富で、いろいろ組み合わせが楽しめるから飽きない。

今晩はチャムチャムチャムにした。チャム(ごま)ラーメン、チャム(ツナ)おにぎりにチャミスル(というアルコール飲料)、これがキョンマンには最適の組み合わせだった。コスパもいい。ところが今晩はカウンターに見慣れない男が立っている。体格がよくて目には威圧感があり、以前のアンパンマンおじさんとは全く違う。男はのろのろとバーコード・リーダーを動かして「5000…ウォン…です」と言う。その鈍重なしゃべり方にも戸惑いつつ、キョンマンは屋外テーブルに向かった。アンパンマンおじさんは頼まなくても割り箸を付けてくれたし、賞味期限切れですがかまわなければ、とサンドイッチをくれたりして、生活の前線で頑張っている同志のような感じだった。代わりに現れたこの男は何者だろうと考えたキョンマンは、サービス業に不慣れな様子や、こちらを警戒するような目つきから、このコンビニの社長に違いないと推理した。

クマのような男が社長に見え始めるや酒がおいしくなった。景気が一向によくならないので、会社勤めはいつもつらい。社長は経営難だから賞与は出せないと言っておいて、自分は車を高級外車に買い替えた。年俸が4年も上がらないキョンマンは後輩たちの笑いものになっている。いつ辞めてもおかしくない状況なのにやめるわけに行かないキョンマンには、社長は地獄の親分にしか見えない。家に帰っても地獄からはログアウトできない。双子の娘たちが来年中学生になるのでお金がかかるし、妻も副業をしてやりくりしているので、家庭の温かさはなくなってしまった。存在感のない夫、面白みのない父親として老いていくしかない人生なのか。

もともと「土の匙」を手にして生まれたキョンマンも、一時はそれなりに幸せを味わったが、時の流れとともに「土の匙」と「金の匙」との違いがはっきりした。「金の匙」の連中は歳を重ねるにつれて能力と財産を蓄積していったのに、キョンマンは今や弾薬も尽きて武器も持たずに突進しなければならない兵士だった。体力も精神力も衰えて、同僚にも無視されるようになった。そんなつらい思いに浸っているうちに、焼酎は半分になっていた。もう1本注文したかったが、そんなことをすると明日がどうなるかわからないので、残っている食べ物と一緒に焼酎の残りも片付けて、一日の自由からログアウトした。

次の晩も、クマのような男はやる気がなさそうに突っ立ったままキョンマンの食べ物の会計をしたが、初めから割り箸を渡してくれた。一日でコンビニの仕事に適応したらしい。だからこそ、アンパンマンおじさんと同年配なのにコンビニの社長になれたのだ。みんなが早期退職をする年齢で資産を蓄えた彼は、コンビニをいくつか経営しながら、アルバイトの穴があいたときだけ店に出ているのだろう。この日も男はキョンマンを探るように見ている。人生の落伍者、あるいは不遇な小市民だと思っているのだろうが、毎日5000ウォン分の買い物をしてテーブルもきれいに片づけていくお客なのだから、この席だけは譲らないぞ、とキョンマンは思うのだった。

こんな感じで一か月ほどたった2019年の年末、娘たちの塾の費用などをどうやりくりするか悩んでいるうちに屋外テーブルで居眠りしてしまったキョンマンに店主(実は元ホームレスで社長に拾われたアルバイト店員のドッコ氏)が声をかける。「こんなところで居眠りしたら…凍え死にしますよ」と。そしてドッコ氏がキョンマンに、焼酎ではなく「トウモロコシひげ茶」を飲むようにと勧めたが、この時点ではキョンマンはドッコ氏の心遣いを素直には受け入れす、飲み会が重なったせいもあってコンビニからも足が遠のいたのだった。

このあとキョンマンとドッコ氏が再び接近し、今回はキョンマンもドッコ氏の思いやりに気づいてしだいにうちとけていく。そして娘たちが大好きなお菓子を「ワン・プラス・ワン」になる日にしか買わないことも知る。キョンマンは決して家族の中の除け者ではなかったのだ。

ここに出てくる独特の単語や表現、言及されている人物を記録しておく。

*ワン・プラス・ワン(一個買うともう一つがタダついてくるサービス)

송창식(宋昌植 シンガーソングライター 1947年生まれ)

소주 빨간 딱지(赤ラベルの焼酎 アルコール20度)

명퇴(名誉退職/早期退職)

출근 지옥철(通勤地獄の電車)

입맛이 다셔지다(唾がわく、飲みたくなる)

쌤통이라는 (ざまあみろというように)

은따은근 따돌림 それとなく除け者にすること)

대따대놓고 따돌림 あからさまに除け者にすること)


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by nishinayuu | 2025-10-16 09:54 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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