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『約束』(フィオナ・マクラウド、訳=松村みね子、青空文庫)

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マクラウド(Fiona Macleod)による短編。『青空文庫』の底本は『悲しきケルト幻想作品集』(筑摩書房)。ケルトの世界への郷愁をかきたてる物語。

アルバンの南方の王であるケリルは、同じ生命を持つ二人は互いに触れて一つになることがある、ということを見出した。すなわち彼がモイルの荒々しい水に洗われている寂しい土地で一匹の猟犬を連れて猟をしていたとき、樫の木の根方に横たわっていたキイヴァンの手を踏んだため、1年の間ふたりは姿を交換してそれぞれ相手の土地で暮らすことになったのだった。キイヴァンは仙界の王だった。

二人は別れる前にそれぞれが「恐れなければならないもの」について情報を交換した。ケリルが恐れなければならないものは、キイヴァンの敵であるフェルガルで、キイヴァンが恐れなければならないものは、ケリルの愛人であるドルカだった。〈愛人とは恐るべき相手なのです!〉

こうしてキイヴァンはケリルの城に行ったが、そこではドルカをはじめだれもが彼をケリルだと思った。また、ケリルはキイヴァンの妻である「蜜の髪」を持つマルヴィンを妻にして暮らした。その年の四分の三ほどの月日が過ぎるころ、ドルカは苔の枕に蛇を入れてケリル(実はキイヴァン)が死ぬのを見ようとした。が、蛇は自分と同じく異類であるキイヴァンを知っていたので、彼に囁いた。「笛がドルカを眠らせる」と。そのささやきは夢となってキイヴァンに届いた。目を覚ましたキイヴァンは蘆の笛を吹いた。笛の音がドルカを眠らせると、蛇はドルカの白い胸に疵をつけた。その小さな赤い一点のためにドルカは死んだ。

その年の四分の三の月日がまだ回ってこない頃、ケリルが「蜜の髪」のマルヴィンの傍に寝ていた時、マルヴィンは立って行ってフェルガルに合図を送った。〈愛人も怖いけれど、妻も怖いのです!〉フェルガルの弓には一本の矢がつがえられていて、その矢にはダナの神たち(注)も恐れるコウモリカズラの毒が塗ってあった。しかし蛇はこのこともキルヴァンに囁いたので、キルヴァンはケリルの心に夢を送ってこれを知らせた。ケリルが自分の上着をマルヴィンに着せて外を見させた。フェルガルの矢が彼女の胸に刺さり、コウモリカズラの毒が入った彼女は死んだ。

この時フェルガルがマルヴィンに近寄って言った。「仙界に悲しみがあるだろう。が、今からあなたは私の妃だ」と。するとケリルがマルヴィンの胸から矢を抜き取って「そうだ。仙界に悲しみがあるだろう」と言いながらフェルガルに投げつけた。矢はフェルガルの眼に当たり、フェルガルは暗黒と静寂を知って息絶えた。そのとき月の輝きのように美しい女性エマルが現れ、金の琴を弾きながらケリルのために歌ってくれた。「昔を恋うる歌」「欲望(ねがい)の歌」「愛の歌」を。そして彼女は立ち去った。

間もなくケリルは自分の城に戻り、キイヴァンも元の姿になって仙界に戻って行った。ある日ケリルはエマルと同じくらい美しい、やはりエマルという名の女に出会って妃にした。婚礼の宴の席にパルヴァと名のる仙界の男が現れて、エマルを迎えに来た、と言ったが、エマルが頼んで1年待ってもらった。1年後、迎えに来る日が近づくと、エマルはケリルを蘆笛を吹く乞食の姿に変えた。やってきたパルヴァは、蘆笛をくれるなら望みの物を何でもやろう、と言った。乞食(ケリル)はエルマをくれ、と応えた。

その後の1年、ケリルとエルマは深い喜びの中で月日を送り、子どもに恵まれたが、その子は生まれたとたんに一枚の枯葉のように吹き去られてしまった。そして明け方、一人の美しい若者が現れたとき、エマルが言った。「これは昨夜生まれた私たちの子のエイリル」と。彼女が「愛する人間の世の恋人、さようなら」と言うと、エイリルが例の蘆笛を取り出してケリルの上に老年を吹いた。「ケリルがかれがれになり、ほとんど影だけになったとき、エイリルの笛がその影のもとの影を吹き消し、ついにはかない息が風のまにまに消えた」と物語は終わる。

(注)ダナの神々——Dana/Danu。古代ケルト神話において、エリン(アイルランド)に上陸した4番目の種族の偉大な母である地母神。

2025.7.7読了)


Commented by マリーゴールド at 2025-10-13 23:57
幻想的な物語。妻や愛人の裏切りの意味は何でしょうか。
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by nishinayuu | 2025-10-09 16:18 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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