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『ゲド戦記 Ⅱ こわれた腕輪』(アーシュラ・K・ル=グウィン、訳=清水真砂子、岩波書店)

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The Tombs of Atuan』(Ursula K. Le Guin、1971

物語の舞台は第1部『影との闘い』から数年後の、闇と静寂の支配するアチュアンの墓所。時というものが存在しないかに見える暗黒の世界である。主人公は5歳まで父母のもとでテナーという名で育った少女で、「名なき者たちに喰らわれ」てアチュアンの墓所の大巫女(永遠に生まれ変わり続ける巫女)アルハになった。アチュアンの大巫女が死んだ日、巫女たちが村々を回ってその夜に生まれた一人の女の子を特定して成長を見守り、5歳になると神殿に連れてきて1年間教育してから名もなき者たちの手に「返した」のだった。アルハは最初の1年はほかの巫女見習の少女たちと寮で寝起きした。マナン(ジャガイモのようなつるつる頭、ジャガイモの芽のような小さな目をした心優しいおじさん)が専任の付き人・召使いとして付いていた。名前が取り上げられてアルハになった後は、たったひとりで「大巫女の館」の決められた部屋、決められたベッドで一人で寝た。この館にはアルハの許可なしには誰も入れないことになっていたが、位の高い巫女のコシル(大王神の巫女)とサー(兄弟神の巫女)は例外で、ノックもせずに入ってくるのがアルハには不愉快だった。アルハもほかの少女たちも勉学と修行に明け暮れた。が、アルハだけは特別に「名なき者たちに仕える心得」をサーから学んだ。

やがて15歳になったとき、でっぷりと太ったコシルがアルハに言った。もう子どもではないのだから、これからは大巫女の仕事の一つである生贄を捧げる儀式をやらなくてはいけません、と。そこでアルハは地下の大迷宮に初めて足を踏み入れることになり、そのあとは地下の広大な闇の世界をひとりで歩き回ることになる。本書の前半は詳細な地図とともに提示されるこの闇の世界を、読者もアルハとともに歩き回ることになる。12章からなるこの物語の4章までが闇の世界に囚われたアルハの物語なのである。そしてシリーズの主人公であるゲドは第5章の「地下のあかり」でやっと登場するが、この時点ではまだゲドであるとは明かされない。第6章から物語は急展開し、アルハは闇の世界から光の世界へと出ていってテナーとして生きる道を選び取り、ゲドはエレス・アクベの腕輪を一つにつなげることができたのだった〈ネタバレ!〉

特に好きな場面——地下の世界から大巫女の館に戻ったアルハは、玄室の闇の中に置いてきた男のことを思い出して胸が痛んだが、あまりの疲れに眠ってしまった。夢の中に亡霊たちが現れて、ときおり、キーキー、ピーピーと妙な声を立てた。やがて一人がすっくと立ってアルハに近づいてきた。アルハは怖くて逃げだそうとしたが、からだがいうことをきかない。この亡霊は人間の顔ではなくて、鳥の顔をしていたが、髪は金髪だった。それが女の声で、そっと、優しく声をかけた。「テナー、テナー。」(…)朝、日が昇ると空は澄んで黄金色に輝き(…)空高く一羽の鳥が輪をかいて舞っていた。鳥は一片の黄金のようだった。「わたしはテナーなんだ。」(…)「わたしは名まえをとりもどした。わたしはテナーなんだ!」〈プロローグに、子どもの髪は黒かったが、母親の髪は金髪だった、とある〉

2025.7.20読了)


Commented by マリーゴールド at 2025-08-22 17:41
多分、子供むけのおとぎ話なのかもしれませんが、恐ろしいですね。出だしから。
Commented by nishinayuu at 2025-08-22 18:05
> マリーゴールドさん
ヤングアダルトから大人まで楽しめる読みでのある作品です。
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by nishinayuu | 2025-08-22 15:52 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu