『嘘の木』(フランシス・ハーディング、訳=児玉敦子、創元推理文庫)
2023年 07月 28日
『The Lie Tree』(Frances Hardinge,2015)
本書は19世紀のイギリスを舞台に、SF、ファンタジー、さらにサスペンス活劇まで盛り込まれた奇想天外な物語である。それと同時に、主人公の少女をはじめとして当時の女性たちが苦しめられていた生きづらさが描かれていて、児童文学ながら、なかなか読みでのある作品となっている。
物語は、牧師であり植物学者であるエラスムス・サンダリーの一家――妻マートル、14歳の娘フェイス、6歳の息子ハワード、そしてマートルの弟のマイルズ――が船でヴェイン島に向かう場面から始まる。彼らはエラスムスの「世紀の発見」は捏造だ、エラスムスは詐欺師だ、という噂がたったケントから逃れ、ヴェイン島に移住するためにあわただしくイングランド本島を離れたのだった。ヴェイン島までは噂が届いていないことを念じながら。しかし、噂はすぐに島まで追いかけてきて、一家は孤立していく。そんな中、島の洞窟の化石調査作業に参加していたエラスムスが、崖の途中にある木の枝に引っかかって死んでいるのが見つかる。キリスト教徒としてはあるまじき自殺者として、島の人々はエラスムスの遺体を教会の墓地に埋葬することを拒む。そんな中で、父は誰かに殺されたのではないかという疑いを抱いたフェイスは、真相究明のための孤独な戦いに乗り出す。
主要登場人物は以下の通り。
*フェイス・サンダリー――父を畏敬する14歳の少女。父が大切にしていた「嘘の木」と「タカサゴナメラという蛇」を守り育てる。
*エラスムス・サンダリー――牧師。「翼のある人間の化石」の発見によって世に知られる世界的な博物学者でもある。密かに「嘘を取り込んで成長する木」をヴェイン島の洞窟に持ち込む。
*マートル・サンダリー――エラスムスの妻。夫亡き後、美貌を武器に自分と子どもたちを守ろうとする。
*ハワード・サンダリー――6歳の少年。乳母がいなくなってからはフェイスに頼りきり。
*マイルズ・カティストック――マートルの弟でフェイスたちの叔父。エラスムスとマートルを説得してヴェイン島に避難させた人物。
*ティベリウス・クレイ――ヴェイン島の副牧師。写真師でもある。
*ポール・クレイ――副牧師の息子。写真師の助手も務める。フェイスより少しだけ年長で、初めのうちフェイスと反発しあっていたが……。
*アンソニー・ランバント――治安判事。サンダリー一家の家主。
*アガサ・ランパント――治安判事の妻。病弱で今にも死にそうな雰囲気の女性。
*ジャックラーズ――医師。誠実な人柄。
*ベン・クロック――化石発掘作業の現場監督。たくましい体に見合わず、やさしい心遣いを見せる。
*ジェーン・ヴェレ――エラスムス一家の住まいを取り仕切る家政婦。有能で誠実。
*ジーン――年若いハウスメイド。噂に振り回される浅はかな女性。
*レダ・ハンター――島の郵便局長。
〈蛇足〉この作品は3DCGを使って映画化したら面白いのではないだろうか。「嘘の木」の成長ぶりなどは活字で読むより3DCGで見てみたい。
(2023.5.15読了)


