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『나는 그냥 버스기사입니다』(허혁、2018、수오서재)『わたしはただのバス運転手です』(許赫)

『나는 그냥 버스기사입니다』(허혁、2018、수오서재)『わたしはただのバス運転手です』(許赫)_c0077412_15273972.jpg本書は韓国の全州市で市内バスの運転手をしていた著者が綴った「バス運転席から眺めた庶民の素顔」である。

著者は哲学科を出たインテリなので、路線バスというものについて、運転士という仕事について、社会のもろもろのことについて考察しているが、それをあからさまに表出することはない。著者が家族、運転士仲間、バスを利用する人々を見る目はあくまでも温かく、困難やストレスを感じるような状況にあっても、著者はそれらをユーモアによって切り抜ける。そのおかげで、本書は韓国の地方都市の状況やそこに暮らす人々の姿を生き生きと描き出すことに成功している。

この本に出てくる全州の路線バスとその運転手たちは、例えば東京の路線バスやその運転手たちとはかなり違う感じがするし〈実態はよく知らないのでただの印象だが〉、バスの利用客の中に「行き先」の文字が読めないお年寄りがいるというような、韓国特有の状況などは興味深く、いろいろ考えさせられる。が、それよりも本書に出てくるバス利用者たちの生態が、こちらの利用者たちの生態と重なる部分が多くて笑ってしまう。たとえば車内では飲食を控えるべきなのに平気でお菓子を食べる人、そのゴミをそのままにしておいてくれたらあとで掃除がしやすいのに座席のシートの隙間に無理やり押し込んで隠す人、複数の系統のバスが止まる停留所で乗るのか乗らないのか意思表示をしてくれない人(乗らないのに運転士の顔をじっと見ている人など)もいれば、手を胸の前で交差させたり、バスに背中を向けたりして乗らないということをはっきり示してくれる人もいる。

4部からなる本書の各部のタイトルと、特に面白かった部分を以下に記録しておく。

1部「ただのバス運転手です」――音のカーテン

2部「あなたと私の間にバス」――文字の読めない老人が一人で市内バスに乗る方法

3部「バスのトリセツ」――交通カードの正しい使い方

4部「バスに乗ったら揺られるのを楽しんで一日過ごす」――あなたの体が前にのめらなかったら市内バスとは言えない

2022年に本書の日本語版が出版されている。

『韓国バス事情』(ホヒョク著、訳=波多野淑子/リュ・ホスン、新幹社、1500円+税)

2023.1.8読了)


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by nishinayuu | 2023-03-30 15:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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