『愛しのヘレン』(レスター・デル・リー、訳=福島正美、早川書房)
2023年 02月 03日
『HELEN O’LOY』(Lester Del Rey、1938)
世界SF全集32「世界のSF(短編集)現代編に収録されている作品。原題の意味は「アロイ(合金)のヘレン」
語り手のフィルはメッシナで開業し、ロケット発射場近くに家を持った。階下で小さなロボット修理店を営むデイヴはフィルの内分泌学理論をことごとく飲み込んで、ロボットに感情を持たせることを目指した。フィルもサーヴィス・ロボットを目をつぶっても組み立てられるようになると、完全なロボット=ホモ・メカネンシスを作り出すことの不可能性についての確信は揺らいでいった。自分たちの目的のためにはサーヴィス・ロボットよりもっと高級なロボットが必要だと考えたふたりは、ディラード・ロボット会社に注文して特製のロボットを作らせた。こうしてふたりのもとにやってきたのがヘレンだった。
ヘレンはあらゆる働きを備えた完璧な女性型モデルで、プラスチックとラバライトでできている顔は感情を表現できる柔軟性を備えており、涙腺、舌の味蕾まであって、人間のあらゆる行為をまねることができた。その夜、ヘレンの胸部のフロント・プレートを外して人口内分泌腺を取り付ける外科手術を行い、ヘレンの構造式を研究してヘレン独自の器官を挿入した。疲労困憊の極に達してやっと仕事を終えたのは夜明け近くだった。ヘレンの動力スイッチを入れる前に休息をとることにした。そして昏々と眠りこんでしまったフィルは大富豪のヴァン・スタイラー老婦人の電話で起こされた。女中に熱を上げた息子に逆ホルモン療法をしてほしいという依頼だった。ヘレンのために蓄えを使い果たしていたので、フィルは老婦人の夏別荘へ出かけるしかなかった。3週間の治療を終え、5万ドルの報酬を受け取り、特別仕立てのロケットで家に戻ったフィルを玄関で迎えたのはヘレンだった。
ヘレンとデイヴの様子がおかしかった。ヘレンはデイヴに恋い焦がれており、デイヴはヘレンの愛情攻勢に辟易して何日も食事していなかったのだ。原因は、デイヴがヘレンの動力スイッチを入れたあと、出かけるときにヘレンをテレビの前に座らせて一日中ドラマを見せていたことだった。ヘレンは恋愛ドラマをしっかり学び、主演俳優にちょっと似ているデイヴに夢中になってしまったのだ。そしてある日デイヴは仕事を辞め、田舎の果樹園で暮らす、と言って出ていった。残されたフィルはヘレンを若い女性として、友達として考えるようになっていった。ヘレンもデイヴを忘れ始めたように見えたが、ある日フィルがふいに帰宅すると、ヘレンは号泣していた。フィルはデイヴに電話して伝える。「結局うまくいかないんだ、今夜ヘレンのコイルを取り外す」と。デイヴが叫ぶ。「そんなことは許さない。彼女は半分はぼくのものだ。それにぼくは気持ちが変わったんだ。」
そしてヘレンは果樹園主の妻になり、フィルは週に一二度彼らのもとを訪れるのが習慣になった。月日は流れ、デイヴは次第に老いたが、ヘレンは歳を取らなかったのでフィルと相談して顔にしわを作ったり髪を染めたりした。ヘレンが老いることはないという事実はデイヴには知られないようにした。なぜなら彼はすでにヘレンが人間でないことを忘れ去っていたからだ。実はフィルも忘れていたのだった。ヘレンから手紙が届くまでは。〈ここまできたら最後までネタバレしてもいいような気もしますが、ぐっとこらえてやめておきます。昔懐かしい感じのSFです。〉
(2023.1.24読了)


