『ある一生』(ローベルト・ゼーターラー、訳=浅井晶子、新潮クレストブックス)
2021年 11月 26日
『Ein ganzes Leben』(Robert Seethaler, 2014)
舞台は20世紀初頭のオーストリアアルプス。主人公のアンドレアス・エッガーは幼くして母を亡くし、過酷な労働の日々を耐え抜いて大人になり、その後も厳しい労働に明け暮れながら慎ましい人生を送った。これは名もなき一人の男の人生を描いた静かな物語であると同時に、20世紀という動乱の時代を描いた壮大な物語でもある。
ここにアンドレアス・エッガーの人生を年譜風にまとめておく。生年が不明なので年齢は推定。
1898年ごろ:未婚の母から生まれる。
1902年の夏:フーベルト・クランツシュトッカー(母親の義理の兄)の農場に連れてこられる。
1906年頃:クランツシュトッカーに鞭で打たれて右脚大腿骨が骨折。一生脚を引きずることに。
???:ただ一人エッガーに温かい目を向けてくれたおばあ(農場主の母親)が死ぬ。
1910年:村に設立された村立学校に通って読み書き計算を習う。
2016年頃:18歳。鞭を取り出した農場主に「俺を殴ったら殺す」と言い放ち、農場を去る。
2027年頃:29歳のときに森林限界のすぐ下に干し草小屋付きの小さな土地を借りる。
1931年2月:山小屋で瀕死のヤギハネス(山羊飼いのヨハネス・カリシュカ)を発見して救い出すが、ヤギハネスは吹雪の中に姿を消す。このとき村の宿屋で見かけたマリーが忘れられなくなる。
1931年5月:ロープウエイの建設作業隊が村にやってくる。エッガーもみんなに交じって歓声を上げる。
建設会社「ビッターマン親子会社」に雇用される。
10月(33歳):同僚の手を借りて山に松明で「君に、マリー」と書き、マリーに求婚する。
1935年3月末:大きな雪崩によって家とマリーを失い、脚を二本折った。
1936年秋:ロープウエイの管理点検作業隊員となり、谷から谷へと移動する生活が始まる。
1937年の秋:戦争が始まったことを知り、軍務に志願しようと故郷の村へ行ったが追い返される。
1942年11月:徴兵委員会から召集され、ロシアのコーカサスへ。
1943年1月:ソ連軍の捕虜となる。ヴォロシロフグラード近郊の捕虜収容所へ。
1946年:ビッターマン親子会社が倒産。老ビッターマンは敗戦の責任を感じて自殺。
1951年の夏:収容所から解放されて帰郷。村には観光客用の宿や遊興施設ができていた。
1957年の夏:山道で出会った老夫婦の道案内をしたのがきっかけで、山岳ガイドを始める。
1969年の夏:村役場の集会室のテレビで、村人たちといっしょに人類初の月面着陸を見た。
1970年代の初頭:村立学校の教師アンナ・ホラーに迫られたが、応えることができなかった。
雪が早くきた秋、スキー客たちがスキー板を担架にしてヤギハネスの残骸を運んできた。
晩年:村の人口は戦争以来3倍に、観光客用宿泊施設は10倍になった。仕事をやめ、校舎の裏の住居を出て、村の裏側、数百メートル上にある家畜小屋へ移る。
雪解けが始まり、顔に暖かな陽光を感じるとき、エッガーは「自分の人生は大体において悪くなかった」と感じるのだった。
そんなある日エッガーは氷の女に出会った。ヤギハネスが昔「死は氷の女だ」と言っていたその氷の女だ。遠ざかる氷の女にエッガーは呼びかける。「こんなに長いあいだどこにいたんだ。マリー」と。
1977年:79歳の2月のある夜:息を引き取った。想像していたように頭上に星空をいただきながらではなく、自分の家のテーブルの前で。三日後、郵便配達員に発見された。
(2021.9.14読了)


