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『ぼくらが漁師だったころ』(チゴズィエ・オビオマ、訳=粟飯原文子、早川書房)

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The Fishermen』(Chigozie Obioma,2015)

1986年ナイジェリアで生まれた作家のデビュー作である本作は、ナイジェリアの南西部の町アクレを舞台にして展開する。

物語は「ぼくらは漁師だった。1996年の1月、兄さんたちとぼくは漁師になった」という文で始まる。そして「ナイジェリア中央銀行に務める父さんは前の年の11月に1000kmも離れた北部の町ヨラの支店に転勤になっていた。あれから20年たったが、この後ぼくらに起こった出来事を振り返って、ずっと家族みんなで暮らしてきたというのに、父さんがヨラに行ってしまった朝が最後の瞬間になってしまったのだな、といまだに考える」という文が続く。

兄弟はもうすぐ15歳になるイケンナを頭に、一つ下のボジャ、11歳のオベンベ、9歳のぼくベンジャミンと、さらに弟のデイヴィット、妹のンケムの6人。ナイジェリア中央銀行に勤めるエリートで金持の父親を持つ兄弟は、他の子どもたちとはうまく遊べずに自分たちだけで遊ぶようになる。1月の終わり、イケンナがクラスメートから魚釣りの話を聞いてきた。楽しいだけでなく、魚を売って小遣い稼ぎもできると聞いて、イケンナとボジャはその翌日から毎日、オミ・アラ川へ魚釣りに行った。そのうちオベンベとベンジャミンもつれて行ってもらうようになり、兄弟は毎日、学校が終わると川へ向かった。

そしてある日、兄弟が川から戻る途中、狂人のアブルが「イケーナ」と呼びかけてきて、イケンナの未来を予言する。「イケーナ、お前は漁師の手にかかって死ぬだろう」と。イケーナは弟たちに向かってつぶやいた。「お前らの一人がぼくを殺すって」。そして兄弟の希望が託されていた「M.K.O(民政移管を掲げる大統領候補アビオラの愛称)カレンダー」をイケンナが破り捨てたとき、家族は不幸に向かって突き進むことになった。

この作品は普遍的な一家族の絆と崩壊の物語であると同時に、政治的、経済的、社会的矛盾をはらんだナイジェリアの激動の現代史でもある。「訳者あとがき」によると「小説では固く結束した家族がアブルといういわば ”狂人”の預言によって引き裂かれることになるが、ナイジェリアという国家も、英国といういわば ”狂人”の放ったことばで恣意的に作り出され、人々がその存在を信じるようになったがために悲劇に見舞われてしまった」とオビオマは自らそう解説を加えているという。

2021.5.19読了)


Commented by マリーゴールド at 2021-07-14 19:17 x
アフリカ文学は読んだことがないので興味深いです。
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by nishinayuu | 2021-07-14 09:39 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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