『ひとり旅立つ少年よ』(ボストン・テラン、訳=田口俊樹、文芸春秋)
2020年 08月 19日
『A Child Went Force』(Boston Teran, 2017)
舞台は南北戦争前夜、奴隷制度をめぐって社会が真っ二つに割れていた1850年代後半のアメリカ。すなわちこの作品は、当時のアメリカのすさまじい混乱を描いた社会小説であると同時に、その混乱と戦いながら成長していく少年を描いた「ビルドゥングス・ロマン」でもある。主人公は12歳の少年で、父親が大金を縫い込んだ上着を身に着けてブルックリンを後にし、遠くカンザスに向かって歩きはじめる。詐欺師の父の罪を、そして父が詐欺師であることを知りながらそれに加担した自分の罪を償うために、少年は様々な危険と様々な善意に遭遇しながら旅を続ける。
主要登場人物
*チャーリー(主人公。正式の名はシャルルマーニュ・エゼキエル・グリフィン)
*ザカリア・グリフィン(チャーリーの父親。詐欺師)
*レベッカ・グリフィン(チャーリーの母親。精神を病んで入院中)
*ビリー・トゥーリー(チャーリーの金を狙う犯罪者)
*ハンディ(トゥーリーの手下。逃亡奴隷)
*エラスタス・イールズ(葬儀屋に身をやつして精力的に働く奴隷制度廃止運動家)
*バトラー・フィリップス(イールズの友人。奴隷制度廃止運動家)
*エマリン・ワッターズ(トゥーリーに追われるチャーリーを手助けした女性)
*ディクシー・ジャック(奴隷制度養護派。ラフィアン=ならず者たちを使って乱暴狼藉を恣にする)
*ヘンリー・ウォード・ビーチャー(ザカリアに金を預けた福音伝道師。『アンクルトムの小屋』を著したハリエット・ビーチャー・ストウの弟)
*ジェームズ・モンゴメリー(奴隷制度廃止運動家。チャーリーが金を届けた相手)
*ミスター・ウォルト(チャーリーがマンハッタンへ渡るフェリーで出会った紳士。実は詩人のウォルト・ホイットマン)
*ストレンジャー(チャーリーと一緒に旅をした馬)
作品の中でミスター・ウォルト(WALT WHITMAN)がフェリーの上で朗読し、ページを破り取ってチャーリーに与えたとある詩の原文は以下の通り。
THERE was a child went forth every day;. And the first object he look'd upon, that object he became;. And that object became part of him for the day, or a certain part of the day, or for many years, or stretching cycles of years.
(2020.5.1読了)