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『犬の心臓・運命の卵』(ミハイル・ブルガーコフ、訳=増本浩子/ヴァレリー・グレチュコ、新潮社)

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Coбачье сердце・Роковые ЯЙца』(МихаилБулrаков)

『犬の心臓』は人間の下垂体を移植された犬のコロが、劣悪な人間コロフに変身する物語。『巨匠とマルガリータ』で知られるブルガーコフ(18911940)が1926年に書いたものだが、検閲によって発禁となっている。「新しい人間の創造」という夢の実現のために邁進する共産主義理論家たちによる「革命という名の実験」が悲劇的結末を迎えるであろうことを予見している作品だからだ。ところで、移植されたのは脳の「下垂体」なのに、タイトルが犬の「心臓」なのはなぜなのだろうか。

登場人物は以下の通り。

*コロ――人間の下垂体(人間らしい外見を作り出すホルモン)を移植されたせいで人間化した犬。

*フリップ・フィリーパヴィチ・プレオブラジェンスキー教授――移植をした医師。

*ボルメンタール(イヴァン・アルノルドヴィチ)――助手のドクター。

*ジーナ(ジナイダ・ブーニナ)――教授の家の小間使い。

*ダリア・ペトロヴナ――料理番。

*フョードル・パヴロヴィチ――守衛。

*シュヴォルデン――住宅管理委員会の委員長。

クリム・グリゴーリエヴィチ・チュグンキン――25歳で独身の党のシンパ。居酒屋のバラライカ弾き。前科2犯でアル中。心臓を刺されて死亡し、下垂体をコロに提供することになる。

『運命の卵』は近未来を舞台にしたパニック小説。物語は19284月にモスクワ動物学研究所で、ペルシコフ教授がプレパラートに「赤い光線」を発見したところから始まる。その赤い光線の中ではアメーバが活性化して成熟し、新しい生命体になっていた。伝統の赤い光線を捕らえるボックスを作って蛙の卵に光線をあててみると、何千匹ものオタマジャクシが孵化し、24時間でカエルとなり、2日後には光線を宛てなくても新しい世代が生まれた。すなわち教授は「生命の光」を発見したのだ。

同じ年の8月、アレクサンドル・セミョーノヴィチ・ロックが公文書を持って教授の許を訪れる。モデル・ソフホーズ「赤い光線」の農場長のロックは赤い光線のボックス3つを持って立ち去り、スモレンス県のソフホーズに据え付ける。ドイツから「卵」が届く。すると翌朝、村の林から鳥がすべて北へ飛び立った。昼には雀がソフホーズの中庭から消え、晩には池が黙り込み(蛙が死に絶え)、犬たちが吠えはじめ、ボックス装置から卵をつつく音がした。翌朝、巨大な蛇が現れて、ロックの妻マーニャが襲われて食われてしまった。ソフホーズで大蛇が大変な勢いで繁殖し始める。ペルシコフが注文したアナコンダの卵がソフホーズに送られてしまったのだ。さて、ソフホーズの運命やいかに。

訳者の注によると、ロック(赤い光線のボックスをソフホーズに持ち込んだ人物)という名にはロシア語で「運命」の意味があるという。本書の訳注は本文と同じくらいの読みでがある。(2019.4.7読了)


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by nishinayuu | 2019-07-16 13:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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