『クローディアの秘密』(E.L.カニグズバーグ、訳=松永ふみ子、岩波少年文庫)
2019年 05月 26日
『From the Mixed-up Files of Mrs. Basil E.Frankweiler』(E.L.Konigsburg)
読書会「かんあおい」2019年3月の課題図書。
本作は物語に入る前に手紙文形式のプロローグがあり、そこには二人の人物の名がある。一人は手紙の差出人であるベシル・E・フランクワイラー夫人、もう一人は手紙の受取人であるサクソンバーグ弁護士。手紙の中でフランクワイラー夫人は、遺言状を変更したことを説明するために書いたのがこの物語だ、と説明している。さて、その物語とは――
もうすぐ12歳になるクローディアは、4人姉弟の一番上の自分が不公平な扱いを受けているのにも、毎日が同じことの繰り返しなのにも、オール5のクローディア・キンケイドであることにもあきあきして、家出を計画する。家から逃げ出すのではなく、家よりもっと気持ちのいい場所、できれば美しい場所へ逃げ込む家出を。不愉快なこと、不便なことが嫌いなクローディアが選んだ家出先はメトロポリタン美術館だった。それからクローディアは家出の相棒として、3人の弟のうち下から2番目の(ただ2番目と書いてもいいのに!――これはnishinaの感想)ジェイミーを選ぶ。9歳のこの弟は、お小遣いをしっかり貯め込んでいる(つまり、けちんぼな――これは本書にある表現)ので、その方面はからきしだめなクローディアにとっては家出に欠かせない相棒なのだ。
こうして二人はお稽古で使っているバイオリンやトランペットのケースに下着をいっぱい詰め込み、ジェイミーは貯め込んだお金と1年前に思い切って買ったトランジスター・ラジオも持って家出を決行する。
二人の家出とメトロポリタン美術館滞在の山場は、ミケランジェロの作かどうか確定されていない「天使の像」との出会い。手を尽くして調べた結果を美術館に手紙で知らせたが、美術館から丁重な返事が来て、二人の調査は意味がなかったことがわかる。このままでは、つまり家出したときと同じただのクローディアでは家に帰れない、と思ったクローディアはジェイミーを説得して「天使の像」の元の所有者を訪ねる、という展開になり、ここで子どもたちの家出も終わる。そして、このあとに「天使の像」の元の所有者の「秘密」が明らかにされ、思わせぶりなプロローグの謎も解ける。大人の読者にとっては、複数の大人たちが登場して子どもたちとあれこれやり合うこの最後の部分が、この物語の中でいちばん楽しめるのではないだろうか。(2019.3.6読了)