『Louise』(H. H. Munro, Doubleday& Company)
2019年 04月 01日
『ルイーズ』(マンロウ)
『サキ全集』の「TheToys of Peace、1923」に収められている1編。
場面は老姉妹スーザンとジェインのティータイム。ジェインはミドゥルセクスでいちばんのうっかり者で、いつも上の空。そのジェインが「今日の午後はわたし、珍しくとっても冴えていたのよ。訪ねようと思ったところはみんな訪ねたし、スーザンのためにデパートにも寄ったし」と姉に向かって得意げに語る。そんなジェインを見ながらスーザンが尋ねる。「ルイーズはどうしたの?」。そう、ジェインはその日、姪のルイーズを連れて出かけたはずなのに、帰ってきたときは一人だったのだ。
さあ、それからが大変。ジェインは、キャリウッズ家には立ち寄ったのかカードを置いてきただけなのか、デパートはハロッズだったかセルフリッジだったか、思い出せない。救世軍の行進に巻き込まれたのは覚えているけれど、そのときルイーズがそばにいたかどうかは覚えていないし、アダ・スペルヴェクシットのところに行ったときルイーズが一緒だったのかもはっきりしない。あいまいな記憶をたぐりながらその午後に行った場所、会った人たちの話をしながら、のんびりとお茶を楽しんでいるジェインにスーザンはあきれる。ジェインの話からわかったのは、キャリウッズのところにもアダ・スペルヴェクシットのところにも、ウエストミンスター寺院にもルイーズはいない、ということだけ。さて、ルイーズはいったいどこに?
この短編のおもしろみは、ロンドンの市街の雰囲気や、有閑階級の暮らしぶりを垣間見ることができることと、もう一つ、これは作者が意図したものかどうかわからないが、姉と妹の対比である。姉から見ると妹というのは幼いときも歳をとっても、なんとも頼りないものなのです。ジェインほどひどいのも珍しいでしょうが。(2018.12.13読了)