『チェホフ・ユモレスカ』(チェホフ、訳=松下裕、新潮、2008)
2019年 02月 15日
『Чехов Њмореска』(Чехов)
本書はユーモア週刊誌に寄稿された初期の作品群を集めたもので、本邦初訳が14編収録されている。掲載誌名のあとに「検閲許可」の文字がある作品が7編あり、帝政ロシアの過酷な検閲制度をうかがわせる。タイトルに「ユモレスカ」とあるけれど、辛辣すぎてついていけないもの(ロシア人のユーモアは毒気がありすぎ?)もあれば、理解が届かないものもある。が、全体としては人間の普遍的生態が浮かび上がってくる作品群と言える。特に印象的な作品をいくつか挙げておく。
*男爵――役者の下手な演技に腹を立てて、思わず自分で台詞を言ってしまうプロンプター。
*心ならずもペテン師に――いろいろな人が自分の都合で時計の針を進めたり戻したり。
*フィラデルフィア自然研究大会――ダーウィンに反対するベルギー代表は言う。「あらゆる人種が猿から派生したわけではない。たとえばロシア人は鵲から、ユダヤ人は狐から、イギリス人は冷凍魚から派生したものだ」。
*年に一度――「名の日」なのに誰も訪ねてこない侯爵令嬢(腰の曲がったしわくちゃ婆さん)のために、令嬢の甥を無理やり呼び寄せる従僕のマールク。
*親切な酒場の主人――かつてわが家の農奴だった酒場の主人が、わが家の手入れに大金をつぎ込んでくれたわけは?
*客間で――客間で愛を語る男女(実は主の留守に貴公子と令嬢を気取ってみた使用人の男女)。
*ポーリニカ――ポーリニカへの愛と「荷馬車の5番目の車輪になんかならない」というプライドの間で揺れ動くニコライ・チモフェーイチ。
(2018.10.27読了)