『ガラスの靴』(エリナー・ファージョン、訳=野口百合子、新潮社)


c0077412_08574679.pngThe GlassSlipper』(Eleanor Farjeon, 1955

著者のファージョン(18811965)は第1回アンデルセン賞を受賞したイギリスの児童文学作家で、代表作は『リンゴ畑のマーティンピピン』。

本作の主人公は16歳のエラ。継母やその連れ子の姉たちはエラを蔑んでシンデレラ(灰だらけのエラ)とかシンダーズ(灰だらけ)と呼ぶ。しかもエラは2階の素敵な部屋を追い出されて、穴蔵のような地下室の台所で寝起きさせられ、朝から晩まで3人にこき使われている。けれどもエラには古い時計の「おじいさん」をはじめ、蛇口や箒、火かき棒と火箸、揺り椅子、食器などの「台所のものたち」という親しい友だちがいる。留守がちのお父さんも、旅から帰るとまず台所のエラに会いに来てくれるから、エラは寂しくはない。エラは寒さにも負けない丈夫な身体をしていて、仕事がいくら多くても音を上げないし、「台所のものたち」にも「おじいさん」にもぽんぽんものを言う。すなわち本作の主人公のエラは、はつらつとした、そしてかなり強かな娘として描かれている。

また、世のシンデレラ物語では全く影が薄いお父さんも、この作品ではかなり出番が多い。ただしエラの継母である自分の妻や、妻の連れ子たちの前では小さくなっている実にだらしない姿がリアルに描かれている。また、継母は粗野で意地が悪い女性として、義姉たちは教養の欠片もない娘として描かれているだけでなく、そろいもそろって不細工な姿形に描かれている。特に母親はカツラの下がツルッパゲであるとしてその無様さが示されているが、今だったら許されない不当な表現である。母と娘たちのやりとりは滑稽さがこれでもかというほど誇張されていて、ちょっとしらける。

人物の言動には精密さとリアリティーがある一方で、ものたちがしゃべったり妖精が登場したりというファンタジー的要素はそのまま生かされている。全体として、人物だけがやけに現実的な「シンデレラ物語」と言えよう。

ファージョンは『リンゴ畑のマーティンピピン』を読んで感動して以来いろいろな作品を読んだが、やはり最初に読んだ『リンゴ畑のマーティンピピン』がいちばんの傑作だと思う。(2018.6.14読了)


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Commented by マリーゴールド at 2018-09-07 17:29 x
王子様が出てこなくても自分の力で継母や姉をやっつけそうですね。
by nishinayuu | 2018-09-03 09:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu