『隊商』(ハウフ、訳=高橋健二、岩波少年文庫)
2018年 07月 30日
『Die Karawane』(Wilhelm Hauff, 1825)
本作は隊商を構成する商人たちが語る数編の数奇な物語と、それらをつなぎ合わせる一つの大きな物語という形になっている。カイロに向かって沙漠を横切っている商人たちは、日差しのきつい昼の間に身体を休め、涼しい夜間に歩みを進める。途中で一行に加わった客人の提案で、商人たちは休息の間の退屈しのぎに、ひとりずつ物語を語ることになる。さて、それらの物語と語り手は――
*コウノトリになったカリフの話(セリム・バルフ、途中で加わった客人)
*幽霊船の話(アハメット、バルゾラの老商人)
*切り取られた手の話(ツァロイコス、ギリシアの商人、赤マントの男のせいで左手をなくしている)
*ファトメの救い出し(レザー、アカラの商人、盗賊オルバザンに助けられたことがある)
*小さいムクの話(ムライ、若くて陽気な商人、ニケア出身)
*偽りの王子のおとぎ話(アリ・ジツァー)
商人たちは沙漠の王者である盗賊オルバザンを怖れていて、ときどきその名が話題に上る。一度などはオルバザン一味に襲われそうになったが、なぜか一行のひとりが持っていた旗をテントに掲げたおかげで難を免れる。この、なんとなくおぞましい響きの名をもつ盗賊の正体が、最後の最後に明かされて、おどろおどろしい物語が人情味溢れる物語として幕を閉じる。
この作品には特別な思い出がある。家族みんなが読み終えたと早とちりした私が「〇〇がオルバザンだったなんてね」と言ったら、小学生だった長女が叫んだ。「えー!まだ最後まで読んでないのに!」。それ以来わが家では作品の結末をばらしてしまうことを「オルバザンする」と言うようになり、今でも普通に使っている。(2018.5.14読了)