『アウシュヴィッツの図書係』(アントニオ・G・イトゥルベ、訳=小原京子、集英社)

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LABIBLIOTECARIA DE AUSCHWITZ』(Antonio G. Iturbe

巻末の著者あとがきに、「この物語は事実に基づいて組み立てられ、フィクションで肉付けされている」とある。絶滅収容所アウシュヴィッツ=ビルケナウに秘密の学校と秘密の「図書館」があったことは事実であり、学校を運営したフレディ・ヒルシュも、その学校の図書係だったディタも実在の人物なのだ。

物語の主人公は収容所に入れられた当時は14歳だったチェコ出身の少女。作中名をディタ(エディタ)・アドレロヴァというこの少女は、服の内側に作ったポケットに本を隠して持ち歩き、秘密の学校で教える教師たちに、そしてそこで学ぶ子どもたちに本を貸し出す。飢えと寒さと過酷な労働を強いられ、明日にもガス室に送られるかもしれないという状況の中で、図書館の本は人々の「心の糧」だった。ディタは絶対にあきらめない、絶対に希望を失わない、という強い信念を抱いていたからこそ生き延びた、物語の主人公にふさわしい素晴らしい女性である。しかしこの物語には、ディタの両親をはじめとする生き延びることがかなわなかった人たちを主人公とするエピソードもふんだんに盛り込まれている。中にはユダヤ人の少女に恋をした若いSS隊員のエピソードなどもある。収容所で命を終えたユダヤ人たち、収容所でユダヤ人を死に追いやったドイツ人たちを十把一絡げにすることなく、各自各様の人生があったことを浮き彫りにするこうしたエピソードによって、物語はより深く、より真実みを持って迫ってくる。

ディタが任された秘密の図書館には「紙の本」が8冊と「生きた本」(人が語って聞かせる本)が6冊あったという。すなわち――

「紙の本」――地図帳、幾何学の基礎、H.G.ウェルズの『世界史外観』、ロシア語文法、フランス語の小説『モンテ・クリスト伯』、フロイトの『精神分析学入門』、ロシア語の小説、チェコ語の小説『兵士シュベイクの冒険』

「生きた本」――『ニルスのふしぎな旅』、アメリカ先住民の伝説、ユダヤ人の歴史、『モンテ・クリスト伯』など。

また、ディタの愛読していた本は――『城砦』、『魔の山』など。

印象的な場面は山ほどあるが、その中でも3ヶ月の間同じベッドを分け合った大柄な女性とディタの別れの場面。ディタが挨拶しても返事をしなかったこの女性が、9月組の大勢の人々と「別の場所に移送」されることになって12月組のディタたちの前を通ったときに、ディタに「私はリダよ!」と野太い声で呼びかけて列に連れ戻され、それでもディタを振り返って手を振る。この場面が頭にこびりついて離れない。(2018.4.19読了)


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Commented by マリーゴールド at 2018-06-25 12:59 x
知的な欲求を満たすことは人間にとって生きがいなんですね。どんな環境でもそれがあれば生きていけるのですね。いい本ですね。
by nishinayuu | 2018-06-25 11:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu