『落日礼讃』(ヴェチェスラフ・カザケーヴィチ、訳=太田正一、群像社)


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著者は1951年ベラルーシ生まれの詩人。1985年に出した最初の詩集でゴーリキイ賞を受賞し、ソ連邦崩壊後の1993年に来日。富山大学でロシア語、ロシア文化を講義するとともに詩やエッセイを発表し続けている(以上、本書の紹介記事より)。

本書は「ロシア的性格とその世界を最大限に含む、それだけに含蓄に富むいくつかのロシアの言葉についてのエッセイ」9編と1編の詩からなっている。

*Сад(サート/庭、庭園、果樹園)――ルーシ(ロシアの古名)における庭の意味と歴史。祖父母の庭にあったアントーノフカ(りんごの名)の樹下で過ごした至福の時。

*Родина(ロージナ/母国、祖国、生まれ故郷、ふるさと)――「小さな祖国こそが、大きな祖国よりはるかに大きい。なぜなら詩人の生まれ故郷であるベラルーシの田舎町ベルィニチは受け取る手紙の消印からわかるのだが、今でも存在している。わが大きなロージナであるソ連邦はぜんぜん跡形もないのだ。」

*Няня(ニャーニャ/乳母)――プーシキンの乳母として有名なアリーナ・ロヂオーノヴナ・ヤーコヴレワとは違って全く無名の、詩人たちの乳母兼お手伝いさんが主人公。詩人の父親が「三の九倍の彼方の国から連れてきた」マリアーナは子どもたちを「奇妙な、純粋にロシア的なやさしさと残忍さの混ぜ物でもって慈しみ育んでくれた」。

*Тоска(トスカ/ふさぎの虫、憂鬱、もの悲しさ)――「ロシア人なら誰でも、トスカがいかなるものか承知している。トスカについては、わが国の何百人もの作家が書いてきた」と書き出した詩人はさまざまなトスカの例をあげ、分析する。そしてこんなことを言い出す。「一つわからないことがある。なぜロシアはこれまでロシアと呼ばれて、トスカーナではなかったのだろう?わたしたちは確たる根拠に基づいて、イタリア人にこの名称を要求することができるのではないか」と。

*Простор(プラストール/何もない空間。空漠。果てしない広がり)――「茫々」と題する詩。

*Гармонь(ガルモーニ。愛称ガルモーニカ/アコーディオンのことで、ロシア民謡c0077412_10230145.jpg『春に』の日本語訳ではガルモーシカとなっている)――「あるナチュラリストは人間を羽のない鳥と定義した。しかし鳥の雄が身につける鮮やかな装いや声に比べれば、人の男性はひどく見劣りがする。そこでロシアの村の強き性(つまり男)たちはアコーディオンを身につけたのだ。胸に聳える、響きも高いアコーディオンはどんなに冴えない貧相な男にも、豪華な羽毛と未曾有の声帯を与えてきたのである。」

*Эакат(ザカート/夕日、日没、落日、夕焼け、その刻限)――宏大で長い時間続くロシアの幻想的な落日を礼讃する章。ザカートが享受できるロシアに生まれたかったと思えてくる。

*Дача(ダーチャ/郊外の小さな別荘。終末に農作業などにいそしむ)――タタール人を祖父に持つ友人イリヤーと、モスクワ郊外のヴヌーコヴォにあったダーチャの思い出。

*Брат(ブラット/兄または弟。仲間。朋輩)――母親に言わせると「ルパーシカを着て生まれた」幸運児の詩人。その詩人のあとをついて回っていた弟のワレンチーン。弟へのやりきれない思いと深い愛情の交錯する「兄弟に関する考察」。

*Рыцарь(ルィツァリ/騎士)――『葉隠――さむらいの書』とロシアの『青年の鑑』をもとにしたロシアと日本の比較論考。

宏大で複雑なロシアという国。そこに暮らすつかみ所がないようでいてどこか親しみも覚える人々。手元に置いて何度でも読み返したい魅力に溢れる一冊である。2018.4.12読了)


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Commented by マリーゴールド at 2018-06-10 22:39 x
「トスカ」覚えました。「ブラッド」英語と似ていますね。片言でも面白いですね。
by nishinayuu | 2018-06-10 10:26 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu