『低地』(ジュンパ・ラヒリ、訳=小川高義、新潮クレストブックス)


c0077412_09465127.jpgThe Lowland』(Jhumpa Lahiri, 2013

舞台はインドのカルカッタ(現コルカタ)市内のトリーガンジと、アメリカのロードアイランド州キングストン周辺。主要登場人物はスバシュ、ウダヤン、ガウリの三人と、次の世代のベラ。トリーガンジの低地で生まれ育ったスバシュとウダヤンは年子の兄弟で、なにをするのも一緒という仲の良さ。学校もスバシュが1年遅らせてウダヤンの入学に合わせて同時に入学した。二人とも成績優秀で大学に進学し、その頃からそれぞれの道を歩み出す。スバシュはアメリカ留学という道を選び、ウダヤンは農民の武装蜂起に心を寄せたことから極左組織ナクサライトに関わっていく。その一方でウダヤンは、利発な女子学生ガウリと惹かれあって結婚する。そして1971年の秋、ウダヤンは過激分子として両親とガウリの目の前で射殺される。ウダヤン26歳、ガウリは23歳だった。

「ウダヤン コロサレタ カエレタラカエレ」という電報を受け取ったスバシュは「低地」の家に駆けつける。そこにはウダヤンを失って呆然とする両親と、彼らが、特に母親が家族として受け入れることを拒んでいるガウリがいた。しかもガウリはウダヤンの子を宿していた。ここでスバシュは最善と考えたことを決行する。ガウリをアメリカに連れてきたのだ。ウダヤンのいない家からガウリを救い出すために、そしてウダヤンに代わって自分が生まれてくる子の父親になるために。こうしてスバシュとガウリ、やがて誕生したベラを加えた新しい家族の歴史が始まることになったが……

スバシュはウダヤンを愛していたようにガウリもベラも愛さずにはいられない本当に「いい人」なのだが、スバシュを夫として受け入れられないガウリの思いも、スバシュもガウリも許せないベラの思いもそれはそれでよくわかる。主要人物のいずれも暖かみのある筆致で描かれているため、ひとりひとりに共感できてしまうのである。重いテーマながら、前途に明るい光の見える終わり方になっていて救われる。また、野鳥たちの楽園のようなキングストン周辺の情景も楽しめる。

ところで、本作に次のような文がある。「(ロードアイランドとトリーガンジは)あまりにも隔たりが大きく、心の中に同時におさめておけないような気がする。()それでいて、地理的条件としては似ていなくもない。ロードアイランドという小さな州は、インドにおけるカルカッタとの共通点がある。北に山地、東に大海、南と西に大陸の本体。どちらも海抜はゼロに近くて、淡水と海水の混ざり合う地形が見られる。」作中で「低地」と言われているのはトリーガンジだが、ロードアイランドも「低地」なのだ。

218.1.10読了)


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Commented by マリーゴールド at 2018-03-19 23:58 x
欧米にわたった人が故国のことを書いた本が、紹介されることが多いですね。この本もそういう本ですね。インドと聞くだけで極左武装組織が出てこなくても、貧困と人口密度の高さから問題山積みで大変な国だと思いますよね。
Commented by 本が好き!運営担当 at 2018-03-21 15:31 x
突然のコメント、失礼いたします。はじめまして。
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Commented by nishinayuu at 2018-03-21 20:13
> 本が好き!運営担当さん
お誘い、ありがとうございます。しばらく考えさせてください。
by nishinayuu | 2018-03-17 09:50 | 読書ノート | Trackback | Comments(3)

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