『猫は留守番をする』(リリアン・ブラウン、訳=羽田詩津子、早川書房)
2015年 12月 17日
『The Cat Who Wasn’t There』(Lilian Braun, 1992)
本作はシャム猫ココ・シリーズの14冊目、すなわち『猫は山をも動かす』の次の作品で、話はクィラランと猫たちが遠い山での滞在から戻ってきたところから始まる。
クィラランたちのいない間に町では、ドクター・ハリファックスの自殺、娘のメリンダ・ハリファックスの帰郷、演劇クラブが9月に『マクベス』をやることになったこと、ガール・フレンドのポリーが無灯火の車で後を付けてきた男に襲われそうになったこと、などなどいろいろな事件が起きていた。クィラランが予定より早く山から帰ってきたのはポリーのことが心配だったからなのだが、ポリーには特に危機感はなく、それより最近親しくしているアーマ・ハーセルリッチが企画・引率するツアーのことをうきうきと話し、クィラランも一緒にどうか、と誘ってくる。それでクィラランは8月末、ヘブリディーズ諸島とハイランドをめぐるスコットランド・ツアーに旅立つ。ところが、出発時点では16人だった一行のうち、無事に帰国したのは15人だけだった。欠けた一人は旅先のホテルで、それもポリーと同じベッドの上で死んでいたのだった。その人が死んだと思われる時刻に、留守宅ではココが「猫発作」をおこしていたことがあとでわかる。
クィラランとポリーがシェイクスピアの愛読者であることに加えて、町の劇団による『マクベス』上演もあるため、本書にもあちこちにシェイクスピアからの引用がでてくる。しかし今回はそれらよりも、ちょっと目を惹いたおもしろい言葉二つについてメモしておく。
*スカンク・ウォーター(skunk water)――地元の村スカンク・コーナーズの泉から汲んでくる水。クィラランは洒落た食堂で「いつもレモン・ツイストを浮かべ、ロックで飲んだ」とある。湧き水なのでおいしいのだろうが、それでもやっぱり口を付けたくないような……。
*バットウィング・ケープ(batwing cape)――おしゃれなケープなのに、吸血鬼ファッションのようなネーミングで笑える。クィラランはスコットランド・ツアーのお土産としてポリーにこのケープと孔雀の羽のブローチをプレゼントする。ところが、町の「傑出した女性10人」の一人に選ばれたポリーが、表彰会のあとでクィラランに笑いながら報告したところでは、ステージに並んだ女性たちが全員、色違いのバットウィング・ケープと孔雀の羽のブローチを付けていたという。これに対するクィラランの応えが振るっている。「すなわち、わたしが傑出した女性をたくさん知っていることが証明されたわけだ。」(2015.8.27読了)