『Coriolanus』(Shakespeare, Greenwich House)
2014年 12月 17日
『コリオレイナス』(シェイクスピア)
この作品はシェイクスピアの後期に書かれた5幕からなる悲劇で、テキストの初出は1623年。典拠はプルタルコスの『コリオラヌス』で、古代ローマの貴族ガイウス・マルキウス・コリオラヌスが、本作ではケイアス・マーシアス・コリオレイナスという英語読みの名で登場する。
コリオレイナスはローマと敵対するヴォルサイ軍との戦いに勝利を収めた英雄として、また名門貴族として、ローマの執政官選挙に出馬する。同じく貴族で彼の友人であるメニーニアスは、彼の傲岸不遜な性格を危ぶんで、執政官に選ばれるためにはローマ市民に迎合してみせなくてはならない、と説く。しかしコリオレイナスは貴族としての誇りから市民への反感と侮蔑を抑えることがでず、結局ローマ市民全体を敵に回してしまう。ローマ市民との対立は、ローマという都市国家との対立を意味した。ローマから追放されたコリオレイナスは、なんと宿敵ヴォルサイの将軍タラス・オーフィディアスのもとに走る。そして、ヴォルサイ軍の武力を借りてローマに復讐することを企てるのだが、ローマから遣わされた母親、妻、息子の訴えによってその企ては挫折する。
すなわちこの作品は護民官たちが代表するローマの民主制と、コリオレイナスが代表する貴族制の対立を描いたものであるが、民主制の代表たちが健全で意気軒昂なのに比べると、主人公コリオレイナスのアンバランスな人格や友人メニーニアスの頼りなさが目立つ。メニーニアスは貴族としては市民への理解もあり、穏健でとても「いい人」なのだが、次のようなやりとりでは完全に護民官に負けている。
護民官ブルータス: Caius Marcius was/A worthy officer i’the war; but insolent, /O’ercome with pride, ambitious past all thinking, /Self-loving, ……
メニーニアス: I think not so.
なおこの作品は2011年、舞台を現代に移して『英雄の証明』(監督・主演:レイフ・ファインズ)というタイトルで映画化されているという。(2014.9.14読了)