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『マレンカ』(イリーナ・コルシュノフ著、酒寄進一訳、ベネッセ)

『マレンカ』(イリーナ・コルシュノフ著、酒寄進一訳、ベネッセ)_c0077412_1330611.jpg『Malenka』(Irina Korschunow)
生まれ故郷を失い、名前まで失って混乱の世を生き抜いた一人の女性の、波瀾万丈の20数年間を描きつつ、1942年から1950年代までのドイツ社会を浮き彫りにした作品である。冒頭から一気に物語の世界に引き込み、たたみかけるような文体で読者に息を継ぐ暇を与えずに感動の結末へと導いていく。作者のコルシュノフは『ゼバスチアンからの電話』などのヤングアダルト作品で知られているが、最近は大人向けの作品にシフトを移しているという。また、訳者の酒寄進一は『犯罪』(フェルディナント・シーラッハ、東京創元社)で、2012年度本屋大賞の翻訳小説賞を受賞している。

第2次世界大戦で町の9割が破壊されたピューリッツは、当時はドイツ領で、現在はポーランド領に属している。1926年の5月、そのピューリッツで女の子が生まれた。その子を祖母のアンナ・ヤーロシュはマレンカと呼び、母親のヘートヴィッヒはマルゴットと呼んだが、ヘートヴィッヒは産後1週間であの世にいってしまった。父親のクレーマーは仕事で数ヶ月だけピューリッツに滞在していたエンジニアで、仕事が終わると妻の待つハノーバーに帰ってしまった。しかしアンナ・ヤーロシュは娘の懐妊を知ったときにクレーマーと交渉して、子どもの養育費を受け取れるようにしておいた。家は毛織り職人小路の外れにあり、家主の食料雑貨屋ドッベルティン夫婦は優しくて親切だった。1933年、ソーセージ屋アンナの孫娘マルゴットは、聖フランシスコ修道会付属の女学校に入学、たちまち良家の娘たちを追い越して優等生になった。しかしマルゴットの楽園は同級生のドーリス・ホッペのことばでたちまち崩れた。「あんたの家、臭い。それにあんた、父さんがいないでしょ。私生児っていうのよ、それ」。マルゴットの胸に、後ろ指を指す者たちを見返してやりたいという気概がわき、特待生として女子高等学校に入学した。大学を出て女子高等学校の先生になりたいと思った、しかし祖母はマルゴットの夢を「身の程知らず」という一言であっさり片づけた。マルゴット自身も叶わぬ夢だとわかってはいたのだ。
このあとマルゴットの人生はめまぐるしい展開を見せる。1942年には卒業を待たずに郡立銀行の見習い行員となり、1943年にはミス・レルヒェが支店長のパチェクによってナチの手に引き渡されるのを見た。1944年の初夏、戦争援護隊員としてウゼドーム島のメレンティン海軍武器庫へ。そこでマルゴットはかつての同級生ローレ・メラーと親しくなり、姉御肌のリースベト・ドマラに大いに世話になり、彼女の人生を決定づけることになる海軍中尉ヴィーテに会ったのだった。夏にアンナ・ヤーロシュが亡くなり、1945年2月にはピューリッツがソ連軍の爆撃で崩壊してドッペルティン夫妻も命を落とした。
やがてマルゴットはメレンティンをあとにして難民の列に加わり、ノイストレリッツからハノーバーへ。ここの牧師館で働くことになって難民登録証が必要になったとき、マルゴットはノイストレリッツで命を落とした友ローレ・メラーに成り代わった。このときからマルゴットはローレ・メラー、通称マルグレートとして、生きていくことになる。親譲りの美貌と、祖母から教えられた人生訓に助けられながら。(2012.4.14読了)
Commented by マリーゴールド at 2012-05-30 23:24 x
時代とドイツの国境が舞台となれば、平凡な人生も平凡ではいられない。主人公はさらに私生児としての生い立ちに、友人の名前を借用する事情といい、おもしろさの要素がてんこ盛りですね。
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by nishinayuu | 2012-05-28 13:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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