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『カラフル』(森絵都著、文藝春秋社)


『カラフル』(森絵都著、文藝春秋社)_c0077412_9513483.jpg読書会「かんあおい」2012年4月の課題図書。産経児童出版文化賞の受賞作である。
話は次のように始まる。
死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ず知らずの天使が行く手をさえぎって、
「おめでとうございます、抽選に当たりました!」
と、まさに天使の笑顔を作った。

やけに軽い書き出しで、しかも「天使は美形の優男」で、名前はプラプラだという。まるでコミックではないか、と思いながら読み進めると、意外にも(コミックは読まないのに偏見の塊ですね)しっとりとして心温まるストーリーが展開されていく。子どもにも大人にも希望と勇気を与える上質の読み物となっており、森絵都人気の理由が理解できる一冊である。

主人公の「ぼく」は、天上界のボスが気まぐれで実施する抽選に当たって、再挑戦のために下界に戻されることになる。天使の説明によると、前世で大きな過ちを犯して死んだ者は、輪廻のサイクルから外されることになっているのだが、下界のだれかの身体を借りて修行すれば、無事に輪廻のサイクルに戻れるという。こうして「ぼく」は前世の記憶を失ったまま、小林真として病院のベッドで目覚める。真は三日前に自殺を図った少年で、10分前に「ご臨終です」と宣告されたのに、奇跡的に生き返ったのだ。
小林家は四人家族。父親は最近悪徳商法がばれた会社の社員で、上層部が総辞職したため、いきなり部長に昇進して大喜びしている。母親はいかにも良妻賢母といった感じの主婦だが、趣味で通っているフラメンコ教室の講師と不倫している。兄の満は弟に向かって「この死にぞこないが」と言うような、無神経で意地悪な高校生。そして真は半年後に受験を控えた中学生。背の低いことに悩んでいて、成績もぱっとしないし、友だちもいなかったが、絵だけは達者で、美術の時間と部活の美術部で絵を描くことだけを楽しみに通学していたらしい。
久しぶりに登校した「ぼく」は、みんなの視線攻撃を浴びたり、チビ女に「セミナーに行って前向きでポジティブな人間に生まれ変わってきたんでしょ。でもそんなの小林君に似合わない」などと絡まれたりして、ぐったり疲れた。それでも真についてチェックしておくために美術室を訪れると、そこには真の描きかけの油絵があった。続きを描くポーズだけをするつもりだったのに、実際に描きたくなって見よう見まねで描き始めると、次第に筆が滑り出していた。この部屋で真はほっとしたんだ、とキャンバスの前で確信したとたん、「ぼく」はなぜだか胸がつまった。ところで、プラプラの話では、「ぼく」が前世の記憶を取り戻し、前世で犯した過ちの大きさを自覚したその瞬間に修行は終わり、「ぼく」の魂は借りていた人間の身体を離れて昇天する、ということだが……。(2012.3.3読了)
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by nishinayuu | 2012-04-25 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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