『イースターエッグに降る雪』(ジュディ・バドニッツ著、木村ふみえ訳、DHC)
2012年 01月 12日
バドニッツの長編小説第1作。以前読んだこの著者の『空中スキップ』がとにかく変わった小説だった、という記憶があったので、ちょっと身構えて読んだが、案の定とても風変わりな小説だった。
一言で言えば、代々にわたる女の物語である。どこと特定できないが、東欧のどこかと思われる古い村が最初の舞台である。1年のうち9ヶ月が雪に埋もれて、残りの3ヶ月は泥まみれという、色から見捨てられたような村で、母さんと父さんは次々に9人の子供を産んだ。母さんは知っていることを全部、長女のイラーナに教えてくれたが、イラーナは因習の塊のような母さんを怖れていた。三つ年下で図体が大きくて力持ちのアリは、イラーナにはよくなついていた。アリが兵隊たちに連れ去られたのを機に、16歳のイラーナは家を出た。
イラーナは子どもの頃、森で出会った男から宝石の飾りのついた卵をもらった。卵の中には美しい町の風景が広がっていた。そんな町を求めてイラーナはさまよい歩き、不気味な女バーバ、囚われの美少女アーニャ、女性版青ひげの画家などと関わったあと、ついに大きな町で旅芸人のシュミュエルと出会う。イラーナはシュミュエルといっしょに米国に渡るが、このときシュミュエルはいっしょに渡米するはずだった姉を、イラーナは大切な弟のアリを、置き去りにしてしまったのだった。(姉と両親はその後ホロコーストの犠牲になったことがほのめかされている。また、姉の乗った舟を追って海に飛び込んだアリは、のちに死体となって米国に流れ着いている。)こうして新天地にやってきたシュミュエルとイラーナは、双子の兄弟と娘の親になるが、上の二人は大きくなると旧大陸の戦場に行ってしまい、二度と帰ってこない。
ここからはイラーナの長女であるサーシィ、その長女であるメーラ、そしてメーラの姪でイラーナのひ孫になるノミーがかわりばんこに語り手として登場する。捨ててきたはずの古い土地が自分のあとを追ってきたと感じているイラーナ。宝石のついた卵をイラーナの部屋から見つけて、自分たちは高貴な家の出なのだという妄想にとりつかれたサーシィ。兄のジョナサンが出て行く原因を作っておきながら、その兄が帰ってくることを待ち望んでいるメーラ。三人がそれぞれノミーに自分の思いを伝えようとする。ノミーにはその三人の声が、みんな同じように聞こえる。
「わたしの母さんはね、と三人とも愛情と畏れの入りまじった声で言った。わたしの兄さん、わたしの弟、と三人は愛情を込めて言った。わたしの娘、という声からは、恐ろしさとためらいがうかがえた」
女から女へと愛情と畏れが伝えられて行く一方で、男たちは出て行ったり行方不明になったりして、みんな途中で消えて行ってしまう。だから、ただ一人寿命を全うしたシュミュエルは、とても貴重な存在なのである。(2011.11.1読了)