『ヴァン・ゴッホ・カフェ』(シンシア・ライラント著、中村妙子訳、偕成社)
2011年 04月 20日
「ヴァン・ゴッホ・カフェはカンザス州フランソワーズの町のメイン・ストリートにありました。むかし、劇場だった建物のかたすみにあったのです。むかしの劇場のなかにあったので、このカフェには魔法がつきまとうことになったのかもしれません。」という文で始まる、ほのぼのとした児童文学作品。
ヴァン・ゴッホ・カフェは若い父親のマークが10歳の娘・クララといっしょにやっていて、いなびかりが光ったあとで料理がひとりでにできあがるようになったり、マークが将来を予言する詩を書くようになったり……と、いろいろふしぎなことがおこる。お客さんは町の人たちが主だが、オポッサムやカモメもやってくれば、すてきな女性も、かつての映画スターも、作家志望の青年もやってくる。こうしたお客たちをめぐるエピソードはいずれもふんわりと温かいものばかりで、たとえば「まよいカモメ」の章には、カフェの屋根に最初の一羽のカモメが止まってから1時間のうちに、カモメの数が50羽に増えた、というエピソードが出てくるが、ヒッチコックの「鳥」のような怖いお話には決してならないのだ。大人が読んでも楽しく、なにかほっとさせられる作品である。(2011.1.11読了)