『見えない光景』(メアリー・ロバーツ・ラインハート著、林清俊訳、青空文庫)
2010年 12月 12日
語り手の「ぼく」は53歳の法律家で、リューマチのために外出できないミセス・デインのために仲間を集めて「ご近所クラブ」を運営している。毎週月曜に夕食をともにしながらおしゃべりを楽しむこの会のメンバーは、ぼくとその妻、新聞の文芸欄編集者のハーバートとその妹で校正係のアリス、心臓の専門医であるスペリイ、そしてミセス・デインの6人。11月2日の会合では、ゲストに霊媒術士の若い女性ミス・ジェレミイを迎えて、心霊術を体験することになる。夜の9:30にトランス状態に入ったミス・ジェレミイは「男がピストルで死に、そばに若い女が立っている」と語る。その直後の9:35にスペリイに電話が来る。ミセス・デインの家から1マイル以上離れた所にあるウエルズ家の家庭教師からで、当主のアーサーがピストル自殺したという。
ここから「ご近所クラブ」の面々による調査が始まる。現場検証に乗り出すぼくとスペリイ。椅子に座ったままで推理を働かせるミセス・デイン。その過程でぼくは、ウエルズ家の火ばさみをうっかり持ち帰ったり、降霊会のメモを入れた外套をなくしたり、というドジを繰り返して妻の信用をなくすが、これらのドジも結果的には事件解決に一役買うことになる。降霊術はさらに2回行われ、その際にミス・ジェレミイが口にしたバッグ、手紙、カーテン、乗車券、なども事件と重大な関わりがあることがわかる。
登場人物は他に、アーサー・ウエルズの妻エレナ、ミセス・デインの付添人クララ、ウエルズ家の執事で事件後にミス・ジェレミイが雇うことになったオーキンズなど。
事件発覚のきっかけは降霊術であるが、事件解明の過程はきちんと筋の通った、正統的な推理小説である。(2010.8.13読了)