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『ヤールー川は流れる』(ミロク・リー著、だいこくかずえ訳、Web Press葉っぱの抗夫)

『ヤールー川は流れる』(ミロク・リー著、だいこくかずえ訳、Web Press葉っぱの抗夫)_c0077412_18142965.jpgヤールー川とは朝鮮半島と中国の境を流れる鴨緑江のことで、英語のYalu Riverをカタカナ表記したもの。この作品は半島の北部で生まれ育った著者が、三一運動に参与した後に亡命を決意し、鴨緑江を渡って中国に渡り、ドイツに辿り着くまでを描いた自伝小説である。発表は1947年。2008年にはSBSとドイツ放送局BRの共同でドラマ化され、SBS開局特集ドラマとして発表されている。
地方の比較的豊かな家に生まれたミロクは、使用人も含めた大家族の中で「よく学び、よく遊ぶ」という恵まれた子ども時代を送る。幼い頃から父親の指導で中国古典に親しみ、より広い教養を身につけるために新しい学問を教える学校に進学し、さらにソウルの医科大に進む。神童がそのまま秀才コースに、という単純な話ではない。ミロクの周りには、幼い頃いろいろな物語を聞かせてくれた姉妹をはじめとする温かい家族があったし、学校時代は苦手な科目を教えてくれ、医科大進学を応援してくれる大勢の友人たちがいたのだった。日帝時代の鬱屈した日々が始まり、父は病に倒れる。将来が見えない中で苦しむミロクの背中を押して亡命を決意させたのは母親だった。こうしてミロクは鴨緑江を渡り、中国から東南アジアの国々を巡り、スエズ運河を通って、「文明人たちの住む」憧れのヨーロッパに足を踏み入れるのである。
1920年に憧れのドイツに渡ったミロクにとって、ヨーロッパは、そしてドイツは予想通りの理想郷だったのだろうか。しばらく後に訪れたヒトラーの時代をミロクはどう過ごしたのだろうか。そんなことが気にならなくもないが、日本が踏みにじる前のかの国の人々の生活を知ることができる貴重な作品である。
ところで、この作品は電子書籍「sugitagenpaku project」で読んだのだが、電子書籍にも編集者や校正者が必要であることを強く感じさせられた。単純な文字のミスは多すぎてあげきれないので、特に気になった間違いだけを次にあげておく。
*言わざるおえなかった――9章と14章の2か所に出てくるので、単純なミスではなさそう。
*郷に入らずんば郷に従え――「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と混同している?
*キサエン――キーセン(妓生)のことだと思われる。この本は英訳を底本にしているということだが、おそらく英語でkisaenとなっていたのをそのままカタカナ表記したのであろう。(2010.7.25読了)
☆画像は『鴨緑江は流れる』(草風館)のものです。
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by nishinayuu | 2010-11-19 18:14 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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