『ディビザデロ通り』(マイケル・オンダーチェ著、村松潔訳、新潮クレストブックス)
2010年 07月 21日

歳月は流れて、クープはギャンブラーとして、クレアはサンフランシスコの公選弁護人の有能なアシスタントとして、アンナは文献学者、歴史学者として立ち現れる。クープとクレアは再会するが、アンナの人生は二人から完全に断ち切られたままで進んでいく。そしてここでラファエルとリュシアン・セグーラという新しい主人公が登場する。一人はアンナの当面の伴侶として、もう一人はアンナの研究対象として。物語の後半はすべてリュシアン・セグーラの、それはそれで波乱に満ちた人生をたどる物語になっていて、その物語にはラファエルは登場するがアンナは登場しないし、もちろんクレアもクープも登場しない。若くして引き裂かれた三人が、長い時を経て劇的な再会を果たす、というドラマチックな展開にはならないのだ。一度引き裂かれた者たちは引き裂かれたままそれぞれの人生を生きていく、ということだろうか。確かにそのほうがリアリティーもあり、説得力もある。
著者はスリランカ生まれのカナダ人。92年に発表し、映画化もされた『English Patient』でブッカー賞、本作でカナダ総督文学賞を受賞している。(2010.4.29記)
☆『English Patient』は映画もよかったし(正確に言えばレイフ・ファインがよかったのですが)原作も面白く読みました。それに比べるとこの作品は、長編というより二つの中編を合わせたような作品で、ちょっと肩すかしを食わされた感じがしないでもありません。読みでのある作品ではありましたが。