『スニおばさん』(玄基榮著、波多野淑子訳)
2009年 12月 06日
4・3事件で子供を殺害され、自分だけが奇跡的に生き残ったスニは、語り手の家族の遠縁の女性である。スニは一時、ソウルに住む語り手の家に家事手伝いとして住み込んでいたが、奇異な言動が多く、語り手一家とはうまくいかないまま島に戻った。法事のために済州島の故郷に戻った語り手は、スニがソウルから戻った半月後に自殺していたことを知って衝撃を受ける。そんな語り手に法事に集まった人びとはスニについて、そして4・3事件について語り始めるのだった。
スニと語り手の家族がうまくいかなかった原因の一つはスニが済州島のことばしか理解できなかったことだった。また、法事に集まった人びとの中で、かつては西北(島民を迫害した集団)の一員で今は語り手の義理の伯父になっている人物が、興奮のあまり西北なまりでしゃべってしまう場面がある。すなわちこの作品ではソウル、済州島、西北という三つのなまりが重要な役割を持っているのであるが、訳者は済州島なまりを博多弁に置き換え、西北なまりを訳者オリジナルのことばに置き換えることによって巧みに処理している。(2009.10.8記)