『スパイたちの夏』(マイケル・フレイン著、高儀進訳、白水社)
2009年 07月 07日
そしてある日、キースが「ぼくの母はドイツのスパイだ」と言いだしたことから、二人の探偵ごっこが始まる。4番地にあるイボタの灌木の陰に隠れてキースと「わたし」はキースの母を見張る。ある日、彼女のあとをつけてクロースの入り口から大通りに出てみると、ずっと先の幹線道路まで真っ直ぐ続く大通りのどこにも、彼女の姿はなかった。彼女は一瞬の間に、まるで魔法のように消えていたのだ。
イボタの木の陰で始まった探偵ごっこは、やがて大通りの外れにあるトンネルの向こうへ、さらにはもはや遊びではすまない危険な世界へと彼らを導いてゆく。
物語の終わりの部分で50年後の「わたし」が感慨を込めて語る。「あの年の夏、クロースにはドイツのスパイが二人いたのだ」と。
クロースの家々、クロースの裏手を走る鉄道、大通りと幹線道路などの配置が細かく描写されているので、それらを図面に書き込みながら読むとより楽しめる(というより図にしないとわかりにくい)。(2009.5.14記)
☆冒頭から2ページほど読み進んだところにリグスターという語が出てきます。これがなんのことかわからなかった「わたし」が答えに行き着くまでのことが、数行にわたってごちゃごちゃと語られているのですが、結局なんのことなのかはきちんと書かれていないし、訳者もなんの注もつけていません。なんだこれは!とアタマニキテ調べたところ、イボタの木の学名がLigustrum obtusifoliumなのでした。