『「ケルズの書」のもとに』(ペーター・R・ヴィーニンガー著、松村國隆訳、水声社)
2009年 05月 21日
30の章からなり、第19章までは奇数章が9世紀初頭から15世紀中葉のノルウェー、スコットランド北西海岸、アイルランドで、偶数章が現代のオーストリア、という設定になっている。
第1章はノルウェーのトロンヘイムにおけるドルイドのおどろおどろしい祭祀の情景が繰り広げられる。捕らえられた奴隷が、戦の勝利を祈る人びとによって生贄として神に捧げられたのだ。続く第2章の現代のウィーンでは、経済省の役人・シュタインヴェントナーが、街路に飛び出してきた一人の男をホンダ・プレリュード23iで跳ねとばしてしまう。
この2つの事件から始まる2つの物語が並行して語られ、両者になんの関係もないように見えながら最後の最後にひとつに重なる、というミステリーとしてのおもしろさが味わえる作品である。が、この作品の眼目はむしろ『ケルズの書』、キリスト教、ゾロアスター教、などに関する蘊蓄にあるように思われる。これらの事柄に興味のある人なら楽しめるであろうが、そうでない人にはちょっと煩わしいかもしれない。そもそも、興味のない人はタイトルを見ただけで引くかもしれないが。(2009.3.4記)