『失われた庭』(矢川澄子著、青土社)
2009年 01月 31日
『LOST・GARDEN』は当時、辛口の批評で知られた美術評論家に賞賛されたが、作者はそのまま姿を消してしまった。その美術評論家が、大学で自分の講義を聞いている女子学生の姓に目をとめ、それが『LOST・GARDEN』の作者の姓と同じであることに気がついたことから、美術評論家と『LOST・GARDEN』の作者が顔を合わせる機会が訪れ、そこから作者である50代の画家の『LOST・GARDEN』以降が明らかにされていく。
主人公である女流画家が語る半生とその声の響きは、著者である矢川澄子の半生であり声であろうことは容易に想像がつく。しかし著者は女流画家があくまでも架空の人物であることを証明しようとするかのように、物語の途中で「作者」なる人物を登場させたりする。『LOST・GARDEN』の作者と同じく『失われた庭』の著者も、とにかく自分ではないと思わせるために手の込んだことをやってくれているのだ。(2008.11.4記)
☆矢川澄子は翻訳家として知っていただけで、この作品の中で“『LOST・GARDEN』の受取り手”という呼称で言及されている人物との関係は知りませんでした。知らないままでも(あるいは知らなかったからこそ)充分に楽しめました。