『柔らかな頬』(桐野夏生著、講談社)
2008年 12月 20日
1994年8月11日の朝、北海道は支笏湖の別荘地で幼い女の子が失踪するという事件が起こる。いなくなったのは5歳の保育園児、有香。父親の森脇道弘がほんのしばらく目を離した隙の出来事だった。別荘の主である石山洋平とその妻典子。別荘地のオーナーである和泉昌義。管理人の水島。近所の住人である豊川家の夫婦と息子。だれも失踪事件に関わりはなさそうだったし、別荘地に外から人が入り込んだ様子もなかった。それなのに有香が消えてしまったのだ。
有香の母親であるカスミのなりふり構わぬ必死の有香探しが始まる。カスミは別荘の主である石山洋平と夜中に密会していたため、その朝は子どもの顔を見ていなかったのだ。
幼い子どもの失踪事件は、当の子どもにも子どもの親にも惨すぎることであり、その心情を思うと新聞やテレビの報道を見るのも辛い。だからそんな話が出てくるとわかっている本ははじめから読まないようにしているのだが、読書会の本だったのでやむなく読んだ。読んでいるうちにやがて光が見えてくるのかも知れない、と期待しながら読み進めたが、残念ながらそうはならなかった。こんなテーマで最後まで書き通した著者の強靱な神経にただただ驚く。(2008.9.22記)