『Tobermory』(H.H.Munro/SAKI)
The Chronicles of Clovis、1911」に収録されている1篇。
トバモリーは有産階級のウィルフリッド家の飼い猫。8月末の肌寒いある日の午後、この家の女主人レディ・ブレムリのホームパーティーに集まった人々の中に、コーネリアス・アピンというぱっとしない人物がいた。「才人」らしいといううわさを聞いたレディ・ブレムリが招いたのだが、どんな「才」があるのかはよくわからなかった。ところがお茶の時間になると、ミスター・アピンが俄然みんなの注目の的になった。彼は「動物に人間の言葉を教える方法を見つけたので、非凡な知能を持つ超猫のトバモリーで試してみたら大成功だった」と言うのだ。みんなの前に連れてこられたトバモリーが、パーティーの参加者たちの言動を次々にぶちまけていくくだりがこの作品の読みどころのひとつ。もう一つの読みどころは参加者の一人クロービスの冷静な、というか冷ややかな姿勢である。
パーティーに集まった人々の名前を、彼らの言動などとともに書き留めておく。
*サー・ウィルフリッド——この家の主。レディ・ブレムリが、アピンの話が本当かどうかみんなで判断しましょうよ、と言うのでトバモリーのところに行って「みんなのところにおいで」と言ったら「気が向いたら行くよ」と言われて肝をつぶした。
*クロービス——ミスター・アピンがトバモリーの話をもち出したとき、「Rats(ばかな)」と小さな声で吐き出した唯一の人物。ミスター・アピンが「トバモリーは我々の言葉を完全に話せる」というと「Beyond-rats!」とはっきり言った。
*メイヴィス・ペリントン——「人間の知能をどう思う?たとえば私の知能は」と尋ねたところトバモリーから「サー・ウィルフリッドは知り合いの中でいちばん脳みそが足りない女だからと招待に反対した。きみが招待されたのはレディ・ブレムリが、この家のポンコツ自動車(The Envy of Sisyphus シシフスの羨望)を押し付けるには格好の脳足りんなのよ、と言ったからさ」と言われた。
*バーフィールド大佐——話題を変えようと、トバモリーに「厩舎の鼈甲柄の猫(tortoise-shell puss)とはうまくいってるのかい」と訊くと、トバモリーは「そういう話は人前で持ち出さないほうが。そちらさんの行状の話になってもかまわないのか?」と応えたのでほかの客たちも慌てる。
*ミセス・コーネット——ブレムリ夫人に「あなた、この猫に私たちのことをなんでもしゃべらせておくつもり?」と詰め寄る。
*ミス・レスカー—みんなにパニックが広がっているときにもおとなしく引っ込んでいることができなくて、「なんでこんなところに来ちゃったのかしら」とドラマチックに嘆く。するとすかさずトバモリーが「昨日ミセス・コーネットに、この夫婦は退屈だけど一流のコックを雇っている、って言ってたじゃないか。食べ物目当てで来たのさ」やりこめる。。
ここでトバモリーによる暴露話はストップする。牧師館の黄色い大きな雄猫が厩舎のほうに向かっているのを見たトバモリーがフランス窓から飛び出して行ったのだ。客たちはいっせいにコーネリアス・アピント責め始める。そして、トバモリーの危険な知恵がほかの猫やほかの動物たちに広がる前に何とかするべきだということになり、この家の主人夫婦も高価な愛猫を処分することに同意する。こうしてトバモリー事件は一件落着となるのだが、「才人」のコーネリアス・アピンはどうなったのだろうか。
トバモリー事件の数週間後、ドレスデン動物園で象がオピンとかエピンとかいう名のイギリス人を殺した事件が報じられたとあり、物語はクロービスの次の言葉で締めくくられている。
彼が象にドイツ語の不規則動詞を教えこもうとしていたのだったら、殺されたって仕方ないね。






