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『門にて』(M.J.クロッサー、訳=The Creative CAT、青空文庫)_c0077412_09183971.jpg

At the Gate』(M.J.Closser)

底本=Project GutenbergのFamous Modern Ghost Stories

まず登場するのは毛足の長いエアデールテリア。つまり犬である。彼がとぼとぼと歩いていると大道の先に高さが天を衝くような広い門見えてきた。門の前には何千頭もの犬の群が集まって道のほうをじっといた。近づいてきたのが彼だとわかるとみんながっかりしてまた何かを待つ態勢に戻った。

イギリス生まれのブルテリアが彼に近づいてきて、親しげに話しかけた。「俺は君を知っとる!知っとるよ!」と言いながら、なぜか名前を聞くので、彼はシャンターのタムという名で、家の人たちにはタミーと呼ばれていた、と答えた。ブルテリアは「いい人たちだった。家の者の話をすっかり聞かせて欲しい」と言ったが、門には入ろうとしなかった。ブルテリアの話によると、この門は犬たちが自分の相手を見つける場所だという。相手が見つかれば、いっしょに門の向こうに行けるのだ。

そのとき、道をやってくる小さな姿に気がついて、すべての犬たちが興奮のあまり立ち上がった。その中の一匹、痩せこけた黄色の猟犬が子供を一嗅ぎして歓喜の吠え声をあげた。赤ん坊も猟犬を抱きしめた。猟犬は友達だった貴族風のセントバーナードに別れを告げて赤ん坊といっしょに門をくぐっていった。間もなくもう一つの出会いがあった。ボーイスカウトの制服を着た少年と雑種犬が門をくぐっていった。二人は知り合いではなかったが、犬が欲しいのに父親に許してもらえなかった男の子はここで自分の犬を見つけたのだ、とブルテリアが言う。エアデールが「父親と男の子というとどうも同情してしまう、うちには両方いたので」と言うとブルテリアが「男の子がいるのか?こりゃニュースだ」と驚いて跳ね起きる。これをきっかけに、ブルテリアがエアデールテリアのいた家の昔の飼い犬、ブリー爺さんだったことが明らかになり、二人の話が弾む。

メーテルリンクの『青い鳥』には人間の穏やかな死後の世界が出てくるが、本作には犬たちの生き生きした(?)死後の世界が描かれている。

2024.1.9読了)


# by nishinayuu | 2024-03-18 09:20 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『橋の下』(フレデリック・ブウテ、訳=森鴎外、青空文庫)_c0077412_11385508.jpg



Frederic Boutet) 底本は筑摩書房の『諸国物語(上)』


フレデリック・ブウテ(1874~1941)はフランス世紀末の残酷譚の名手で、サキ、トポール、筒井康隆への系譜に連なるブラック・ユーモアの達人。

本作に登場するのは物乞いで暮らす一人の男と、彼が橋の下で出会った老人の二人だけ。

ある雪の夜、男は数日前からねぐらにしている橋の穹窿にやってくると、雪を振り落とし、ぼろぼろの上着、だぶだぶの胴着、シャツ代わりのジャケツなどのボタンをはずして、隠していた腕をあらわす。この日は「一本腕の男」として仕事をしてきたのだ。それからパン一切れ、腸詰、薬瓶に入れた葡萄酒を取り出して食事を始めた。すると近くから鈍い鼾のような声がしたので顔を向けると、瘦せ衰えた爺さんが地べたから身を起こした。そして男の食べているものを、物欲しげにじっと見たが、男は何一つ分けてやらずにゆっくり食事を終えた。爺さんは出口まで歩いて行ってじっと外を見ていた。

爺さんは元の場所に戻ってきて膝の上に手を組むと、その上に頭を低く垂れた。男は、最近は競争者が多過ぎてもらいが少なくなったのでいろいろなことをやってみている、という話を始める。口にシャボンを入れ、唇から泡を吹いて癲癇病みもやってみたし、盲もやってみた。足なしになって尻でいざるのもやってみたが、これは道具がいるしあまりに骨が折れる。たまに一本腕をやるがそれも随分骨が折れて……としゃべっていると爺さんが「なぜぬすっとをしない」と荒々しい声で言った。

それから爺さんは男に囁いた。「おれは何百万というしろものを盗んだ。おれはミリオネエルだ。だが売る気もないし買い手もいないだろうから、これを持ったままかつえ死ななくてははならない」と。爺さんが靴のかかとに埋めてあった汚い綿の中から小さなものを取り出すと、その小さいものが、この闇夜に漏れてくるいっさいの光明をことごとく吸収して、またことごとく反射するようだった。小さく切って売ればいい、という男を振り切って、爺さんは鼠色の影のように立ち去った。さて、爺さんが靴底に隠し持っているものとはいったい何なのか。

冬に読むのにふさわしい、侘しくて寒気のする話。森鴎外の訳はとても読みやすい。今回は「~けつかる」がうまく使われていた。最近見たTVで大阪出身の女優が「大阪に行けば大阪弁をじゃんじゃん使うけれど、さすがに~けつかるは使わない」と言っていたが。(2024.1.8読了)


# by nishinayuu | 2024-03-14 11:42 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『Pygmalion』(G.B.Shaw, Drawings=Feliks Topolski、PenguinBooks)_c0077412_10533985.jpg

『ピグマリオン』(G.B.ショー)

タイトルに続いて「A Romance in Five Acts」とあり、そのあとには作者名とフェリクス・トポルスキによる100を超えるイラスト付きという記述がある。このイラストは一見、雑な一筆書き風に見えるが、人物や事物、風景の雰囲気を見事に表現しており、本作の理解を大いに助ける優れたものである。

本作は映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られる戯曲であるが、映画が採用している部分は本作の中核となっているエピソード(音声学者のヒギンズ教授が下町の花売り娘イライザの発音を矯正して貴婦人に仕立て上げるという部分)だけである。本作の主眼は19世紀末(いわゆる世紀末)における社会の変化であり、そういう社会とそこで生きる人々を風刺的に描くことだった。当時活躍していた著名人たちの名(Alexander Melville、 Alexander Ellis、Henry Sweet、 Ibsen、Samuel Butler、 Joseph Chamberlain、Isaac Pitman、William Morris、 Burne Jones、Whistler、Dante Gabriel Rossetti、Queen Victoria、Nietzsche、General Booth、Gypsy Smith, Galsworthy、H.G.Wellsなど)がでてくるのも興味深い。また、舞台装置や演出に関する指示もいろいろあり、通常の舞台では設置が難しい装置を、ここは省くように、とアステリスクで示してあるのも面白い。

主な登場人物は以下の通り。

*イライザ(ロンドン下町の花売り娘。向上心旺盛)

*ヒギンズ(音声学者。イライザの発音には興味を持つが人間としては興味なし)

*ピカリング大佐(インドからヒギンズに会いにやってきた音声学者。温厚な資産家)

*ヒギンズ夫人(ヒギンズの母親。財産、教養、人柄のすべての点で完璧な女性)

*ドゥーリトル(イライザの父親。屑屋という生業を恥じることなく堂々と生きる男)

*フレディ(貧乏貴族の人のいい息子。イライザに一目ぼれする)

以上の登場人物とその役割は映画とほぼ同じであるが、話の結末は全く違っている。映画ではイライザが出て行ってしまったことを嘆いているヒギンズのところにイライザが現れ、ヒギンズにスリッパを持ってきてやるのだが、本戯曲ではイライザはヒギンズのところには戻ってこない。戯曲のエピローグにはイライザとフレディが結婚したこと、ピカリング大佐の援助で二人が花屋を始めたこと、しかし実務に疎かったため商売はうまくいかないこと、それで速記や簿記やタイプを習ったこと、イライザは筆記を学ぶためにまたまたヒギンズのもとに通うようになったこと、などなどが綴られている。つまりイライザはヒギンズに大いに関心を持ってはいるのだが、自分のピグマリオン(作り主)と結婚する気はなかったのである。イライザのように強い意志を持つ女性は同じように強い意志を持つ男性とはうまくいかないので、自分より弱くて頼りないフレッドを選んだということなのだ。さらに言えば、ヒギンズとしても母親があまりに完璧な女性なので、結婚することに意味を見出せなかったのだ。

このヒギンズ夫人は映画でも原作に忠実によくできた女性として描かれているが、戯曲の3幕目の冒頭にある記述によると、その部屋はモリスの壁紙、モリスのカーテン、モリスのクッションなどで装飾され、壁にはバーン・ジョーンズの絵がかかっているという。この部屋が映画ではどうなっていたか、まったく記憶にない。また映画を見る機会があったら、ヒギンズ夫人の部屋をしっかりチェックしたい。

2024.1.21読了)


# by nishinayuu | 2024-03-09 10:57 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

韓国ドラマノート-その23(2024.3.4作成)_c0077412_14323879.jpg




20239月から2024年2月末までに見たドラマを上から新しい順に並べました。

1行目:日本語タイトル、韓国語タイトル、放送局

2行目:キャスト 3行目以降:一言メモ




画像は「アンダー・カバー」


チャンボリ(왔다! 장보MBC 52話

オ・ヨンソ、キム・ジフン、イ・ユリ、オ・チャンソク、キム・ヘオク、

アン・ネサン、ヤン・ミギョン、クム・ボラ

孤児と名門家の後継者問題がテーマ。韓ドラの王道ですね。

秘密の家~愛と復習の迷宮(비밀의 MBC 62話

ソ・ハジュン、イ・ヨンウン、ジョンホン、ユン・ボギン、ユン・アジョン

これもまた復讐劇。

愛人がいます(Identical Affairs)SBS 50話

キム・ヒョンジュ、チ・ジニ、トッコ・ヨンジェ、ナ・ヨンヒ、キム・チョン、

パク・ハンビョル、イ・ギュハン

ostのRyuの歌がいい。

アンダー・カバー(Undercover)JTBC 28話

キム・ヒョンジュ、チ・ジニ、ホ・ジュノ、チョン・マンシク、ユ・ソンホ

BBCドラマのリメイク。キム・ヒョンジュは「ガラスの靴」以来の、

チ・ジニは「チャングム」以来のファンなので二人の共演に満足。

太陽の帝国 復讐のカルマ(대양의 계절KBS 102話

ヨン・ウジン、ハン・ソナ

30年以上にわたる愛と野望と裏切りのドラマ。それにしても102話は長すぎ。

逆境の魔女(모두 쿵따리MBC 99話

パク・シウン、キム・ホジン、イ・ボヒ、ソ・ヘジン

癒し系愛憎劇だそうだ。スカトロジー・エピソードが多すぎるのが難だが、

癒されるストーリー展開であることは確か。

ペントハウス1(PENTHOUSE)SBS 42話

オム・ギジュン、キム・ソヨン、ウジン、イ・ジア、ユン・ジョンフン、

ユン・ジュヒ、キム・ヒョンス、チョ・スミン

格差社会の頂点にいる人物たちの負の部分を抉りだしたマクチャン・ドラマ。

オム・ギジュンがうまい。キム・ソヨンは演技がオーバーでちょっと引く。


# by nishinayuu | 2024-03-04 14:39 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(3)

『夜のパパ』(マリア・グリーペ、挿絵=ハラルド・グリーペ、訳=大久保貞子、偕成社)_c0077412_11202714.jpg



NATTPAPPAN』(Maria Gripe,1968)

「夜だけのパパだっているのよ……/クラスの友だちにこの事実を証明しようと、/ユリアは本を書き始める。/夜だけるすばんにくる青年と、/ひとりっ子ユリアとのあいだにかわされる/対話をとおして、するどい感受性をもつ/ひとりの少女の内面を詩情ゆたかに描いた作品」(カバー折り返しの文より)。


登場するのは次の面々。

ユリア(小学生の少女で7月生まれ。本名が嫌いなので夜のパパが付けてくれた名前を受け入れる)

夜のパパ(ユリアを夜の間見守るために雇われた青年。石の本を書いている)

スムッゲル(夜のパパが世話をしているフクロウ。名前の意味は「密輸業者」)

ヤンソン(貨物船の船長でスムッゲルの飼い主。夜のパパにヨットのキャビンを貸したときにスムッゲルと鉢植えの「夜の女王」を預けた)

ユリアのママ(シングルマザーの看護婦。夜間勤務の間、ユリアといっしょにいてくれる人を新聞広告で求めた。家の電話番号は123456!)

ウッラ(ユリアの学校友だち。ユリアを三番目の親友にするが、夜のパパの存在は疑っている)

鉢植えの「夜の女王」について――本作に登場するこの植物は、約20種ある孔雀サボテンの仲間の一つ「月下美人」だと思われる。学名はEpiphyllum oxypetalum。挿絵では花の形しかわからないが、「月下美人」の茎の部分は扁平な葉っぱ状である。一般的に「孔雀サボテン」と呼ばれているものは茎が紐状で、花色もさまざまあり、昼に開花する。こちらの学名はSelenicereus macdonaliae, Selenicereus grandiflorusなど。

ユリアと夜のパパが「夜の女王」を一人ぼっちにしないために夜のパパの家に向かう場面を描いた絵がカバーにも使われている。この絵をはじめとする挿絵はすべて著者のパートナーであるハラルド・グリーペが描いたもの。

2023.12.31読了)


# by nishinayuu | 2024-02-28 11:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu