人気ブログランキング |

『Be Careful What You Wish for』(Jeffrey Archer, Kindle 2014)_c0077412_11473773.jpg


邦訳のタイトルは『追い風に帆を上げよ』。「クリフトン年代記」の第4巻。

3巻はセバスチャンとブルーノの乗った車が前後の車に挟まれてつぶされた、というところで終わっていた。この巻の冒頭で、セバスチャンは大けがをしたが助かり、死んだのはブルーノだったことがわかる。各章の主人公と年代、主な出来事は以下の通り。

*ハリーとエマ(1957-1958)マルティネスが息子たちにセバスチャンを亡き者にするよう指示/バリントン運輸の株価上昇の背後にヴァージニアとフィシャーが、さらにフィッシャーの背後にはクリフトン一家を目の敵にするマルティネスがいる/ジャイルズがグウイネスと婚約/

*マルティネス(1958-1959)バリントン運輸の豪華客船建設を遅らせるよう画策/バリントン運輸の次期会長選挙でエマがフィッシャーに勝つ/

*セドリック・ハードキャスル(1959)ヨークシャーの銀行マンであるセドリックが入院先でセバスチャンと知り合い、クリフトン一族のバリントン運輸に肩入れすることになる/セドリックの許で働き始めたセバスチャンが、ソニーの森田氏との取引に備えて日本語を勉強する/セドリックは日本語力によって森田氏に気に入られる/セドリックの息子アーノルドが森田氏との契約書を作成/

*ジャイルズ・バリントン(1963)ジャイルズが政敵の仕掛けた罠によって「心臓発作」を起こし、党首選でウイルソンに敗れる/

*ジェシカ・クリフトン(196421歳。画商ジュリアン・アグニューがジェシカの作品を全部買い上げる/ジェシカは恋人クライヴの家に挨拶に行ったとき、ヴァージニアが彼の母親にジェシカの出生の秘密をばらしているのを聞いてしまう/ジェシカが自殺/

*セドリック・ハードキャスル(1964)マルティネス打倒を決意し、ジェシカの葬儀で誰よりも激しく悲しんでいた人物ビンガム(クライヴの父)に協力を求める。

*アレックス・フィッシャー(1964)ビンガム家とクリフトン家を陥れようと画策/セバスチャンはアグニューの店にジェシカの絵を買いに行き、店員サマンサ・サリヴァンと知り合う/セドリックはマルティネスが美術品を手放し、バリントン株も売ろうとしていることを知る/フィッシャーの元妻スーザンが、彼が爆弾発言を用意していることをエマに教える/

*セバスチャン(1964)マルティネスの画策に対してセドリック側が巧妙な策で対抗〈株価操作に関する細かい話〉/セバスチャンとロス・ブキャナンがマルティネス側の動きを追って駆け回る〈マルティネスの息子ディエゴを見張ったり、夜行列車ナイト・スコッツマンの運行を阻害したり〉/

*ディエゴ・マルティネス(1964)相手側の策に気づいてエディンバラからロンドンに急行するが間一髪で株取引は大損に終わる/マルティネスが資金のかき集めに悪戦苦闘/アラン・レドメイン(内閣官房長官)がマルティネス一族の処分方法を考える(カールは誘拐してイスラエルへ、ルイスとディエゴは逮捕したあと国外追放、マルティネスは破産させる)/フィッシャーは身の振り方について逡巡/

*ハリーとエマ(1964)豪華客船バッキンガムの予約が始まる/ボブ・ビンガムが役員会の新メンバーに/選挙の結果ブリストル造船区で当選したジャイルズはウイルソン内閣のヨーロッパ担当大臣に/バッキンガムの処女航海が始まる/マルティネスの依頼を受けたIRAの細胞(リアム・ドハティと配下の数人)が爆破物を仕込んだ花瓶を1号室のエマにプレゼントし、夜中の3時過ぎに爆破装置のスイッチを押す/

2019.8.2読了)


# by nishinayuu | 2020-01-27 11:48 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『The Phantom Luncheon』(Munro, American Literature.com)_c0077412_09574275.jpg

『まぼろしの御馳走』(マンロウ)

本作はThe Complete Works of SAKIの「The Toys of Peace」に収められている1編。

ジェームズ卿が妻のレディ・ドゥラクマントンに「選挙でいつも力を貸してくれるスミスリー・ダブ一家が来ているから、明日リッツかどこかでランチを御馳走してあげてくれないか」と言う。レディ・ドゥラクマントンは、親しい間柄になる気はない、といったんは断るが、夫がなんとしてもランチを、と言うので仕方なく承知する。ただし、まともに付き合うつもりのないレディ・ドゥラクマントンは、自分とよく似ているミリー(姉か妹)が明日カールトンで食事の約束があると聞いて、奇策を思いつく。

翌日、レディ・ドゥラクマントンはいつもとはかなり違うお化粧をしてクラブに出かける。誰かに誘われるのを期待してうろついていたダブ家の3姉妹は、レディ・ドゥラクマントンのようだけれど、と思いながらも確信が持てずにためらっている。そんな3人にレディ・ドゥラクマントンが声を掛ける。「カールトンのランチってどうかしら?」

3姉妹がカールトンを褒めちぎると、レディ・ドゥラクマントンはすかさず「じゃあ、そこでランチをしましょうよ」と言い、連れ立ってカールトンへ。キャビアから始まる高級な料理を楽しむが、会話は弾まない。気を遣って政治の話を持ち出す3姉妹に、相手は一向に興味を示さないのだ。それどころか「あなた方に誘われてここに来たのは覚えているけど、自分が誰なのか思い出せない」と言いだすではないか。驚いた3姉妹が「誘ったのはあなた、レディ・ドゥラクマントンでしょうが」と言うと、「とんでもない、誘ったのはそちらですわ。それにたまたま見知っていますけれど、あの方がレディ・ドゥラクマントンよ」とちょうど入ってきたミリーを指し示す。

〈サキの短編にはひとをオチョクルのが生きがいのような女性がよく登場しますねえ。〉

2019.10.28読了)


# by nishinayuu | 2020-01-22 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

私の10冊(2019年に読んだ本の中から)_c0077412_10163394.jpg

☆この1年に読んだ本の中から特に気に入った本を選んで、「私の10冊」としてまとめてみました。また、「私の10冊」の選から漏れた本を「お勧めの10冊」として挙げてみました。

☆画像は「家なき子」です。

私の10

メモリー・ウォールアンソニー・ドーア、訳=岩本正恵、新潮クレスト

その犬の歩むところ(ボストン・テラン、訳=田口俊樹、文藝春秋社)

むずかしい年ごろ(アンナ・スタロビネツ、訳=沼野恭子、北川和美、河出書房新社)

家なき子(マロ、訳=楠山正雄、青空文庫)

누나의 오월(윤정모, 山河)

素数たちの孤独(パオロ・ジョルダーノ、訳=飯田亮介、早川書房)

ハイジ(ヨハンナ・スピリ、訳=竹山道雄、岩波少年文庫)

Bertie’s Christmas Eve (Munro)

イタリア広場(アントニオ・タブッキ、訳=村松真理子、白水社)

舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ、訳=柴田元幸、みすず書房)

お勧めの10

よい旅を(ウィレム・ユーケス、訳=長山さき、新潮社)

チェーホフ・ユモレスカⅡ(チェーホフ、訳=松下裕、新潮社)

Best Kept Secret (Jeffrey Archer)

騎士団長殺し(村上春樹、新潮社)

蜜蜂と遠雷(恩田陸、幻冬舎)

かもめ(チェーホフ、訳=神西清、青空文庫)

A Bread and Butter MissMunro

나의 문화 유산 답사기10(유홍준, 창비)

ムーミン谷の11月(トーベ・ヤンソン、訳=鈴木徹郎、講談社)

コリーニ事件(フェルディナント・フォン・シーラッハ、訳=酒寄進一、東京創元社)



# by nishinayuu | 2020-01-17 10:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『The Penance』(Munro, American Literature.com)_c0077412_09570244.jpg


『贖罪』(マンロウ)

The CompleteWorks of SAKIの「TheToys of Peace」に収められている1編。



主人公のオクタビアンはある日、庭をうろついていた隣家のトラ猫を射殺する。飼っている鶏たちが襲われて日に日に数が減っていくので、てっきりトラ猫の仕業と思い込んでしまったのだ。死骸は庭師がすぐに木の下に埋めてくれたので、自分の残酷な仕打ちの跡が残らないことにほっとする。ところが、ふと目を上げると、隣家の塀の上から三つの顔がじっと見つめていた。女の子一人と男の子二人で、両親はインドにいるという〈『小公女』、『秘密の花園』の主人公などと同じですね〉。三人に声をそろえて「beast!(ひとでなし)」と言われ、オクタビアンは落ち込む。

オクタビアンは三人に許しを請うために包装紙にも気を遣って念入りに選んだチョコレートを届けたが、それは包み紙とともに細かく引きちぎられてオクタビアンの庭に撒かれていた。さらに悪いことに、鶏は相変わらず減り続けていて、トラ猫のせいではなかったことが明らかになる。そんなある日、オクタビアンが2歳の娘オリヴィアを連れて塀の下を通りかかると、三人がオリヴィアに興味を示した。もしかしたらオリヴィアを介して三人と打ち解けられるかもしれない、と思ったオクタビアン。「どんな花が好き?」と尋ねると彼らがずっと遠くの方にある花を指すので、オリヴィアをその場に残して花を摘みに行き、戻ってみると……。

これは「無垢な」子どもの持つ残酷な倫理観によって大の大人がとんでもなく怖ろしい目に遭うという、全然笑えない話である。オクタビアンが三人と約束した「勤行」を終えた翌日、彼らがよこしたメモにあった「Un-beast(ひとでなしにあらず)」でやっと笑える。(2019.9.23読了)


# by nishinayuu | 2020-01-12 10:43 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『素数たちの孤独』(パオロ・ジョルダーノ、訳=飯田亮介、早川書房)_c0077412_10222928.jpg




La solitudine dei numeri primi』(Paolo Giordano, 2008

本作は素粒子物理学の研究者であるパオロ・ジョルダーノが26歳のときに発表したもの。


物語は二人の主人公、アリーチェとマッティアの幼少期から始まる。1983年アリーチェは、高圧的な父親によってむりやり通わされたスキー教室で事故に遭って、生涯癒えることのない障害が片脚に残る。コンプレックスのため拒食症になり、回りの少女たちの奔放さに憧れながらも親しい友人を作ることができないまま高校生になる。1991年、アリーチェは15歳になっていた。

もう一人の主人公マッティアは、発達に障害のあるふたごの妹ミケーラといつも行動を共にするよう父母から期待されていた。そのせいもあって、小学校に入っても友達ができなかったが、ある日、ひとりの少年が二人を誕生会に招待してくれた。少年の母親の提案だった〈なんて素晴らしいお母さん〉。マッティアはこのときもミケーラといっしょに家を出たのだが、途中にある公園にミケーラを置いていくことにした。じっと動かずに待っているように、と言い聞かせて。誕生会の途中でふと思い出したマッティアがあわてて公園に駆けつけたとき、ミケーラの姿はなかった。そのままミケーラは家族のもとに戻ってくることはなく、マッティアは癒えることのない心の傷を抱えることになった。学業成績は抜群だったが自傷行為を繰り返すようになり、友達もできず教師たちにも敬遠されて、マッティアは転校を繰り返しながら高校生になる。

そんな二人が高校で出逢い、互いの孤独に気づいて惹かれあうようになる。が、傷つきやすい二人の心は、近づきながらも互いに寄り添うところまでは行かない。まるで二つの双子素数のように。物語はそんな傷つきやすい繊細な二つの魂がもがきながら大人になっていく過程を追い続け、かすかな明るい光に向かって進んでいくことを予感させつつ終わる。

本作はイタリア最高の文学賞であるストレーガー賞をはじめとして数々の文学賞に輝き、イタリアはもちろん、オランダ、スペインでもベストセラーになっているという。さらに2010年にはサヴェリオ・コンスタンツォの監督で映画化されている。(2019.9.8読了)


# by nishinayuu | 2020-01-07 10:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『The Guests』(H. H. Munro, Doubleday & Company, Inc. )_c0077412_10501491.jpg『泊まり客』(マンロウ)サキの短編集「The Toys of Peace」の中の1編。

冒頭は、アナベルの家に友人のマチルダが遊びに来ておしゃべりを楽しんでいる場面。家の外には美しい田園風景が広がっている。〈地名は出てこないが、イングランドのどこかだと思われる。〉アナベルは「ここはほんとうに美しい所だけれど、時たま麻疹が流行したり、雷雨があったり、5年に一度の選挙の騒ぎがあるくらいで、すごく退屈でうんざり」と言う。マチルダは「静かで気が休まるいい所じゃないの」と応えるが、「確かに私の住んでいる所はもっといろいろなことが起こるわね。突発的に、それも何もかもが同時に」と言ってある出来事を語り始める。ここからがこの話の本題。

ある日、ある司教がいきなり訪ねてくる。話しているうちにこの司教は遠い親戚に当たる人物であることがわかる。ただし司教の一族とマチルダの一族は昔、ロイヤル・ダービーのデザート用陶磁器をどちらが引き継ぐかどうかで争って以来、険悪な間柄になっていた。その仇敵の一族の一人が現れて「東洋の伝統的なもてなし」を要求したのだ。ところでこのとき、マチルダの夫は用事があって50マイルも離れた集落に行っていた。この集落の住民たちが、リーダーの一人が「狼男」ならぬ「虎男」じゃないかと思っているというので、目を覚ませ、と説得しに行ったのだ。〈ここでも地名は出てこないが、話の内容から当時英国領だったインドのことだとわかる。〉

ひとりでこの気にくわない司教の相手をしなければならないマチルダは、もちろん一応客としてもてなすつもりだった。が、司教が場所もわきまえずに昔の争いのことを持ち出して自分の側の言い分を蒸し返したため、怒り心頭に発したマチルダはコックに休暇を与えて90マイルは離れた所で暮らしている彼の両親の許へ送り出してしまう。それを知った司教もマチルダの作戦に気づいたので、どちらもほとんど口をきかなくなった。その折も折、付近を流れるグワードリピチー川が氾濫したため、馬も山羊も鶏たちも、その世話をする使用人たちもみんなマチルダの家に待避してきたので、家は動物と人であふれかえった。それで司教には小さなベッドルームを与えて、他の部屋への出入りは禁止した。ところが昼寝から覚めた司教が客間(臨時に居間も食堂も倉庫も兼ねていた部屋)へ飛び込んできて叫ぶ。「私の部屋に山羊がいる!その山羊が今、豹に食われている!」

2019.8.25読了)


# by nishinayuu | 2020-01-02 10:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

翻訳練習 課題31

2019年度前期の韓国語講座「翻訳の秘訣」で練習したものの記録です。20199/110/28


副詞14-

意味:전혀, 완전히, 정말로

原文1:携帯を持っていても全くと言っていいほど使わない人もいる。

訳文:휴대폰이 있어도 거의 안쓰는 사람도 있다.

原文2:現地集合場所に遅刻してきたのは彼がまったくの方向音痴だからだが、一刻も早くその弱点を克服しなければツアーコンダクターの仕事を続けるのは難しいだろう。

訳文:현지 집합장소에 늦게 것은 순전히 그가 길치이기 때문이며 여행 안내원을 계속 하려면 한시라도 빨리 약점을 극복해야 한다.

副詞15-ずしもない

意味:뒤에 부정이 와서, ‘반드시~ 것은 아니다, ~라고 단언할 없다 뜻으로 쓰인다.

原文1:値段が高いからといって必ずしも品質も高いとは限りません。

訳文:값이 비싸다고 품질이 좋은 것은 아닙니다.

原文2:知識は人を必ずしも幸せにしない。

訳文:지식이 사람을 반드시 행복하지는 않는다.

原文3:スペシャリストを募集している企業において、多くの業務に携わった経験が必ずしも評価されないケースもあります。

訳文:스페셜리스트를 모집하는 기업에서는 여러 업무에 종사한 경험을 높게 평가하지만은 않는 사례도 있습니다.

副詞16-よく

意味:형용사-좋다, 부사-, 자주, 흔히

原文1:このページでは、商品全般に関するよくある質問や回答がご覧いただけます。

訳文: 페이지에서는 상품 전반에 관한 자주 하는 질문과 해답을 보실 있습니다.

原文2:お酒の飲み過ぎは、血圧の高い人にはよくないとよく言われている。

訳文:흔히들 과임은 혈압이 높은 사람에게 좋지 않다고 한다.

原文3:毎日ラーメンを食べていて、よく飽きないわね。

訳文:매일 라면을 먹어서 어쩜 질리지도 않아 .

副詞17-とても

意味:매우, 도저히, 도무지, 정말이지(会話体。後ろに否定がくる。)

原文1:とてもじゃないけど、私には彼の行動が理解できないわ。翻訳練習 課題31_c0077412_09505231.jpg

訳文:정말이지 사람의 행동은 이해가 되지 않아.

原文2:仕事が山ほどたまっていてとても帰れそうにない。

訳文1할일이 산더미 같이 남아서 도저히 퇴근을 같다.

2(神経質女性なら할일이 산더미 같이 남아서 정말이지 퇴근을 같다.


# by nishinayuu | 2019-12-28 09:57 | 翻訳 | Trackback | Comments(1)

『千里眼の村―クリスマスストーリー』_c0077412_08565919.jpg



A. キングスフォード、訳=The Creative Cat、青空文庫)

AVillage of Seers』(Anna Kingsford


クリスマスの前日か前々日のことだった。英国からスイスのバーゼルに仕事で出かけることになった語り手は、カレーに向かう蒸気船の中で見かけた「尋常ではない感じの男に」興味を抱いた。カレーで列車に乗り換えた際、その男が語り手のコンパートメントに入ってきた。

「薄明かりの下でちらっと顔を見た限りでは、見知らぬ男は五十絡みだったと思う。繊細で上品な顔付きで、目は暗く落ち窪んでいたが、知性と思慮を漲らせていた。全体の雰囲気から、生まれが良く、勉学と瞑想向きの性格で、人生の中でとても悲しい経験をしてきたことが伺えた。」

何気ないやりとりから、男がパリからバーゼルへ、そこからさらに遠くへ行くことがわかった。

パリでは別々に朝食を取ったが、語り手は男がバーゼル行きの列車に乗るのを見届けて同じコンパートメントに飛び込んだ。二人ともはじめは眠っていたが、スイスの国境が近づくと目が冴えて、ぽつぽつとことばを交わすようになった。男の目的地が普通の旅行者なら夏にしか訪れない山岳地帯だと知った語り手は、ますます興味をかきたてられ、なにか手助けしたい、と申し出る。すると男は語り手が自由に使える日数を確かめる。こうして二人は名刺を交換する。

男の名刺――チャールズ・デニス・セント=オービン(ロンドン、グロブナー・スクエア シュルーズベリー、セント=オービンズ・コート

語り手の名刺――フランク・ロイ(マーチャンツ・クラブ、ウェスタン・セントラル)

こうして語り手は、セント・オービン氏の「息子に会う旅」に同行することになった。この夏、父親と登山を楽しんでいた息子(12歳)が渓谷に滑落し、そのまま行方不明になっていた。滑落直後に父親はガイドと共に急いで下に降りたが、少年の姿はなかった。大声で呼んでも応える声はなかった。聾唖のため耳も聞こえなければ声も出せない少年だった。何日も探し回った末にすべての希望が潰えた。しかし今、セント・オービン氏は「息子は生きている」と確信してアルプスの山懐にある小さな村に向かっているのだという。年に一度、クリスマス・イヴの時だけに発揮される「千里眼」を持つ人々の住む村に。(2019.12.8読了)


# by nishinayuu | 2019-12-23 09:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『Bertie’s Christmas Eve』(Munro, Doubleday & Company Inc.)_c0077412_09532800.jpg




『バーティのクリスマス・イヴ』(Munro, Doubleday & Company Inc.

The CompleteWorks of SAKIの「TheToys of Peace」に収められている1編。


ルーク・ステフィンク氏の甥であるバーティは、18歳から植民地のあちこちに送り出されて、セイロンではお茶を育て、ブリティッシュ・コロンビアでは果物を栽培し、オーストラリアでは羊毛の仕事に携わったりして、20歳になってカナダから戻ってきたところだった。こういう経歴は王族ならまだしも、ミドルクラスの若者の場合は通りがよくない。バーティの保護者であるステフィンク氏はそんな甥が煩わしく、今度は戻ってこられそうもないローデシアの僻地に送り出す準備を進めていたので、クリスマス・イヴに一族が集まれたことを神に感謝する際も、バーティの帰国には触れなかった。バーティは、クリスマス・イヴらしい和やかで光り輝く雰囲気の中で、灯の点っていない一本のロウソク(一座の中で一人だけ楽しんでいない者)だった。

すでに30分前に時計は11時を打っていた。ステフィンク氏は13歳の息子テディに「かわいいベッドに行く時間だよ」と言い、ミセス・ステフィンクは「私たちもみんなベッドに行かないと」と言う。するとバーティが「みんなで行ったら狭いだろうに」と口を挟んで座をしらけさせる。そのとき滞在客のホレース・ボードゥンビーが言い出す。「ロシアにはクリスマスの夜中に牛小屋や馬小屋に行くと動物たちの話すのが聞こえるという言い伝えがある。クリスマスは動物たちが年に一度だけ口がきけるようになる時なのだ」と。「じゃあみんなで動物たちが話すのを聞きに行こう」ということに話がまとまる。ステフィンク氏は実は牛小屋が自慢なのだった。使用人たちはとうに寝ていたから、「行きたくない」というバーティひとりに家を任せることにし、一同うちそろって牛小屋に向かった。そしてみんなが牛小屋に入ると、小屋の扉が閉じて外から施錠され、バーティが「お休みなさい」と言いながら立ち去っていく足音が聞こえた。

これがバーティの「生まれて初めての、幸せいっぱいのクリスマス・イヴ」の始まりだった。

2019.11.5読了)


# by nishinayuu | 2019-12-18 09:59 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『水いらず』(サルトル、訳=伊吹武彦、白井浩司、窪田啓作、中村真一郎、新潮文庫)_c0077412_09225759.jpg




Intimité』(Jean-PaulSartre




本書は短編集で、下記の5つの作品が収録されている。

*『水入らず』――1938年、『嘔吐』と同じ年に発表された作品。性的不能者の夫を持つ妻が、二人の身体と二人の関係をじっくり見つめて分析する。

*『壁』――1937年、スペイン内乱の最中に執筆された作品。フランコ側に捕らえられた人民戦線側の死刑囚たちの絶望的な状況が描かれている。不条理小説として強く印象に残る。

*『部屋』――1938年に発表された作品。主題は「実存を真正面からながめようとしない人々の、悲劇的、あるいは喜劇的人生」。

*『エロストラート』――主題は「犯罪による人間的条件の拒否」。エロストラートとは――紀元前356年に、世界七不思議のひとつであるエフェソスのディアーナ神殿に火を付け、エフェーズびとによってその名を口にすることすら死を持って禁じられた男――である。主人公はこのエロストラートにならって拒絶の犯罪に身を投じる。

*『一指導者の幼年時代』――かわいさの塊だった赤ん坊が、いやに気むずかしい少年になり、やがて奇怪な、ヒトラーを彷彿とさせるような「指導者」になっていく過程を描いた作品。集中いちばん長い作品で、読み応えがある。

全体として第二次大戦前のフランス社会の雰囲気が伝わってくる短編集である。ただし、文章は飛躍が多く、「」の使い方も独特で決して読みやすくはない。おそらく原文がそうなのであって、定評のある翻訳者たちの翻訳のせいではないだろう、と思いながら読み進めたところ、巻末に『一指導者の幼年時代』の役者・中村真一郎の次のような文があって納得した。

作者はその(ファシズムの心理の)分析のために、極度にかわいた、無愛想な、飛躍の多い文体を採用している。訳者は、あえてその文体を日本語で模倣することを試みた。とくに会話を指示する「」は、原文の不統一を、そのまま再現してみた。精神分析医の調書のような、下手なくらいに率直な、味も飾りもない訳文に、訳者の拙劣さのみ見いだされないことを望む。

2019.7.30読了)


# by nishinayuu | 2019-12-13 09:28 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


by nishinayuu